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「よおし、じゃあさ、昼飯にしがてら情報仕入れに行こうぜ」
シャルジュがひらめいた、というように提案した。
仕事柄、街中のあらゆる場所について、その特徴を把握しているのだろう。噂好きの集まる場所を彼は知っているのかもしれない。
「オーケー、任せた」
ランスがシャルジュに笑い掛けた。
公爵令嬢の連行騒ぎはすでに至るところで話題に上っていることだろう。ほんの僅かとはいえ、自分たちにも関わりがあるからには、どんな小さなことでも知っておくに越したことはない。
シャルジュはあれこれ考えるようすもなく、すでに行先を決めているようだった。いつもと同じ、軽快な足取りで大地たちの先を行く。
「なんでか知らないけどさ、やたら話の早い店があるんだ。でも、だからって全部をうのみにはできないけどさ、他よりはマシだぜ」
大地とランスに時々振り返り、後ろ向きに歩いたりしながらシャルジュは言った。
「ガセネタは他よりはずっと少ないからさ」
おそらく、この街の情報の発信源のような役割をしているのだろう。そこへ行けば最新の情報が手に入る。そして、そこから四方八方へ飛び出して行ったおしゃべり好きによって、話に枝葉が茂り、尾ひれと憶測と誤解を伴って街中へと拡散していくのだろう。
着いたところは個人経営らしいあまり大きくはない食事処だった。さすがに昼時で客足が多く、しかもシャルジュが言うには普段よりもざわめきが際立っているとのことから、令嬢にまつわる話はそこそこ期待できそうだ。
三人が一緒の席に着くには少しばかり待たなくてはならなかった。それでも、大地たちは辛抱強く順番の来るのを待った。
「ほうら、話してる、話してる」
店先で待機している三人にも店内の声が聞こえてくる。
「なんでも公爵令嬢が謀反を起こしたんだってよ」
「そんなはずないだろう。兆しすらなかったのに」
「聞いたところによれば私兵を国境へ向かわせたんだとよ」
「国境じゃあツェインの兵たちがここ数日居座っているらしいじゃねえか」
「やつらと戦うつもりか?」
「あっちはあっちで崖崩れの調査だって言うらしいし」
「なら、調査の協力しに、とか」
「ばかだな、国王の命を受けてないから捕まったんだろうが」
「マルギアナ兵と協力するにしてもやり合うにしても、王命を無視してたってんなら、そりゃ問題だな」
「令嬢が捕まったんなら、公爵様は?」
「軍が邸宅を包囲してるとかで、軟禁状態らしい」
「つまり、あれか? 親にも言わず、令嬢が独断で私兵を動かしたってのか?」
「そうなんだろうよ」
ランスがふいに立ち上がった。
「ちょっと、用足し」
そう言って、大地に目配せすると向かいの建物の影の方へと消えて行った。
「ありゃ、店ん中で使わせてもらえばいいのに」
シャルジュの言葉はもう姿の見えなくなったランスには間に合わず、大地はくすっと笑って見せた。
ランスは多分エスネムに国境のようすをさぐらせるつもりなのだと、大地は思った。人気のない場所でなくてはシヴァン・アルレットとの通信はできない。昨夜からの動きに変化があれば、何かの参考になるだろう。
ランスがその場を後にしてからほどなく、店員が座席の空いたことを知らせに来た。
「ああ、ちょっと連れが……、先に入んなよ」
シャルジュが身振りでランスの消えた方向を示してみせて、次に並ぶ者たちに順番を譲った。
その間も大地は聞こえてくるあらゆる情報に耳を澄ませていた。判断に迷うような言葉なら、ランスならどう受け止めるかも知りたいところだ。しかし、翻訳に意味不明な表現はなかったので、アプリは優秀らしいと大地は判断した。
それからほどなくして、ランスが戻って来た。表情は固くない。大地はそれが意味することを想像して小さくうなずいた。
「お帰り、ランスさん」
独断で一組先に入らせたことを、シャルジュは言葉にしなかった。
大地たちがそういうことを気にしないのだと判断したらしいし、それは決して間違ってはいない。
「次の方、どうぞ」
食事の終わった数人が店を出てきて、それから大地たちを呼ぶ声がした。




