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大地が目を奪われたのは、瑠璃色の鳥だ。オブジェや建築材料、食器や布地、あらゆるものにそのモチーフが使われている。
「瑠璃鳥はクアルニィグのシンボルなんだ」
シャルジュは瑠璃鳥が大地の興味を惹いたのに気づいてそう説明した。
国旗の中にもデザインされた瑠璃色の鳥が描かれている。
「幸せを運ぶとされているんだ」
大地は原文を読んだことはなかったが、地球にも幸福をシンボライズした童話があることを思い出した。
「へえ。幸せを、ねえ」
幸福──。ただじっと待っていたってそれは向こうからやってきはしないだろう。だからと言って、手を伸ばせばすぐそこにあるというものでもない。それとも幸せという概念にしかすぎず、個々人の受け止め方次第でいくらでも変容をみせるものかもしれない。
「さあ、そろそろ劇場へ行こう」
ひと塊の青い硬玉から彫刻したという一羽の瑠璃鳥に、少しばかりの未練を残し、大地はランスと共にシャルジュの後に従った。
半円形の劇場は収容人数が千人ほどだろうか。あまり大きくはないが、構造や内装を見ると豪華に見えた。座席も一人分の幅はしっかりと余裕があり、段差も前の人の頭を気にすることのない高さに設計されていた。
指定の場所はかなり前の方で、続々と詰めかける人の中に紛れて、ちょっとした高揚感に包まれながら舞台がよく見える席へと進んだ。
シャルジュを真ん中にして、大地たちは舞台が始まるのを待った。厳かな鐘の音が響き、おそらくそれが開演の合図なのだろう、劇場内の期待と興奮とに満ちた空気が一変した。
「本日はようこそ。我々アヴィスラ舞曲団は、クアルニィグの皆さまにツェイン・マルギアナの伝統芸能をお届けできることを大変嬉しく思っています。何も説明はしますまい。さっそく、ご覧ください」
一座の代表なのだろうか。アナウンサーのように明瞭でしっかりとした声が挨拶もそこそこに開幕を告げる。
舞台を駆ける音もなく、十人ほどがささささっと現れた。手にはまさか真剣ではあるまいが、両刃の剣を持っている。ゆったりとしたワイドパンツの裾だけを足首で絞ったようなズボンと、柔らかでしなやかな薄衣はところどころ肌を覗かせ、妖艶な印象さえ含んで美しく優雅だ。
舞台袖から音楽が聞こえ始めた。笛と、弦、太鼓の音だ。異国情緒、そんな言葉がぴったりな旋律は、不思議に力強くなまめかしく時に切なかった。舞台ではいったいどういう身体能力なのかと思うくらいの躍動がはじけ飛んでいた。
まるで男子新体操と剣舞と武術を融合させたような演舞だ。誰もかれもが目を奪われていた。タンっと床を蹴ると、その身体は高く高く跳躍し、くるりと回転したかと思うと鮮やかな剣さばきが空を切る。この人数でかくも正確にすり抜けるものだと思うほど訓練された動きは、緻密さだけにとどまらず、ほうっとため息を吐いてしまうほど美しかった。
そして、群舞が終わるとソロの楽器演奏、合奏、ソロの演舞、ソロの歌唱、合唱と続き、最後にもう一度、群舞でしめくくられた。
大地は感想をいう余裕さえなく、ただただアヴィスラ舞曲団の見事な舞台にくぎ付けになっていた。
ようやく大地はふうっと長い息を吐き、偶然とはいえ、こういう機会が与えられたことを幸運に思った。
シャルジュもまたずいぶんと夢中になって舞台を見ていたのだが、そんなシャルジュと大地をよそに、ただ一人ランスだけがいつもと変わらないようすで静かに見つめていた。
代表の最後の挨拶が終わって人々が席を立ち、出口への流れを作り始めた。
と、その流れに逆らって舞台の方へ向かってくる数人が目についた。昨日、ランスが異星人だと言ったあの女性を追っていた男と同じ制服を纏った一団だ。「ちょっと通してください」と言う以外は声を荒げることもないのだが、明らかに異質な空気を漂わせている。
劇場を出る人の流れは特に何事かと気にするようすもなく停滞することなしに続いている。流れに逆らう一団は、大地たちの方へと向かってきた。




