15
シヴァン・アルレットでの生活が始まってからこっち、少しずつ大地の耳に馴染み始めていたタレスターフの言語だ。
「──女はセルククの人間じゃない」
「ほんとか?」
聞き返しながらも大地にはそのことが自分の想像を超えていたとは感じられなかった。
彼女の話す言葉の違和感や、大地たちを見る彼女の視線が妙に意味ありげだったことを思えば、なるほどとうなずける。そして、ランスがクアルニィグの言葉から、二人でいるときのタレスターフの言語に変えたというのは、今もこの周囲に息を潜めているかもしれない他の星からの来訪者が存在する可能性を意識したからであろう。
セルククの人間や異星人から見れば、自分の知らない他所の国の言葉を話す旅行者かなにかだと思うだろう。
「ああ、間違いない」
ランスは断言した。
そして、同時に彼女の方も大地たちが異星人であることを認知したのだということを大地は理解した。
「単なる旅行者には見えなかったな。追われていたってことは、何らかの関わり合いがあったってことだろう?」
「おそらく。もしかしたら特別な許可を得ている人間かもしれないし、特別な事情がある人間かもしれん」
「うん……」
──で、演技とは思えないあれは……。
凛とした彼女の立ち姿を思い出し、聞こうとしたけれど、大地はすぐにそれを飲み込んだ。
ランスはもうすでにそのことを忘れ去っているようにも見えたからだ。軽々しい男とは思えないだけに、大地の好奇心がくすぶる。
「やっぱり大地には何かあるのかもしれんな。嵐を呼び寄せる才能」
「やめろよ。信じたくないね」
くいっとジョッキの中身を喉に流し込む。
厨房の中の人へ向かって大きく片手を上げて合図をし、追加のジョッキを注文する。料理人が指を一本立ててから、次に二本立て、何杯必要なのかと尋ねるのへ、ランスがちょうどジョッキを空にして二本の指で合図を返した。
「まあ、あれだな。純粋に旅行気分を味わおうぜ」
悪びれもせずにランスは言った。
大地も同意してうなずいた。
おかわりが運ばれてきた。ホール係の若い女性は、自身の豊満な身体付きをまったく自覚していないようで、客の視線の先にちょうど谷間が見えてしまうことに気付いていないようだった。
大地が思わず視線を外し脇を向いたのを見て、ランスはおや、というふうに微笑した。それについて少しばかり大地を試すような質問をしようとしたのかランスの口元が開きかけたタイミングで、急にがやがやと人の流れが店の中へとなだれ込んできた。
「ツェインの毛皮は……」
「やっぱり玉はパスピーユの……」
「絞り染めの反物が間違って少なく……」
十数人。会話から想像するに、おそらく商人たちだろう。それもなんたら商会とかの御一行様という印象だ。
先ほどの娘が、笑顔を振りまきながら席に案内している。その一行の中の一人に、大地の眼が吸い寄せられた。
大地と同じくらいの身長の、ランスとは対照的な柔らかな顔立ちの色男だ。誰かを探しているふうにも見える。あからさまではないが、視線を店中くまなく這わせている。
ランスもそれに気づいたようだった。
色男の、視線だけが二階に向いて止まった。大地もランスも見えないラインをたどるようにそちらを見やると、その先には例の彼女の姿があった。




