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「すげえ、こんな近くで見るのは初めてだ」

 シャルジュが感嘆の声をあげた。


 歌と舞と楽器の演奏でツェイン・マルギアナの文化を広めようとする一座だ。クアルニィグには何度か訪れていたのだろうが、シャルジュには縁がなかったようで、物珍しさもあってか、少年の目には眩しく映っているのだろう。


 エリア内をゆっくりと進みながら、一座は食事のためのテーブル席を探しているらしい。あいにくと一座の全員が近くに一緒に座れるような席が見つからないのか、大地たちのいる方へと次第に近づいてくる。


「ランス」

 大地がランスに声を掛けた。向こうが希望するなら席を変わってもいい。


「ああ、いいぜ」

 ランスには大地の思考が分かるのか、内容を聞くまでもなく了承の返事が返ってくる。


「シャルジュ、彼らに伝えてきてくれないか? 場所を譲りますって」

「ああ、任せとけ。ダイチさんたちは親切だね」

 シャルジュが、与えられた役どころに嬉しそうに一座の一人に声を掛けに行き、身振り手振りを交えて大地たちのいる席を空けることを説明し始めた。


 大地とランスは二人で皿やグラスを運び、近くの別の席へと移動する。どこかの店の者らしい誰かが手伝いにやってきて、皿の移動と巨木のテーブルの拭き上げを手伝ってくれた。


「ありがとうございます。なにぶん人数が多いものでしてね。助かります」

 シャルジュと共にやってきた一座の一人が、描いたような化粧の下で、柔らかなまなざしと共に礼をした。流暢なクアルニィグの言葉を話す。


「こっちは三人なんで、当然です」

 答えながらも大地は、こういう化粧だと演目はいったいどんなものだろうとつい想像してしまう自分に苦笑した。


 一座が巨木のテーブルに着き、注文を決める相談で賑やかになった。少し離れた小さな、こちらは脚や天板に浮彫の施されたテーブルで、ほどなく大地たち三人は残りの食事を終えた。


「みたところ旅のお方のようですが、こちらには長くご滞在で?」

 シャルジュが会計のために店の者を呼ぶと、一座のリーダー格風の一人がこちらにやってきて、大地に向かって声を掛けた。


「まあ、二、三日の予定で」

 あくまでも予定だ。そのとおりに答える。


 その間にランスがシャルジュにクアルニィグの貨幣を渡し、店の男へ会計をさせている。


「釣りはとっとけよ」

「毎度あり!」

 男に向き合いながら、大地はランスとシャルジュの会話を耳の隅でとらえていた。


「そうでしたか、もしお時間がよろしければ、是非私共の公演を観に来てください」

 そう言って、リーダー格風の男が公演の鑑賞券を三枚、有無も言わせぬように大地の手に握らせた。


「すげえ!」

 後ろでシャルジュが喜びを含んだ驚きの声を漏らす。


「あ、これは、どうも」

 一座の男はそのままさっと手を引っ込めて、巨木のテーブルへと戻った。


「行こうぜ」

 ランスが言った。大地はうなずき、歩き出したランスに続く。席に着いて食事に戻った男に会釈をして脇を通り過ぎる。


「どうも、どうも!」

 シャルジュが一座のメンバーにひょいひょいと頭を下げながら、テーブルの横をゆっくりと通り過ぎる。同じ化粧で、同じ顔をした一座のメンバーはそれでもそれぞれに違う反応を返して大地たちを見送った。


「ダイチさん、ちょっと見せてくれよ」

 通りまで出ると、シャルジュが少しばかり興奮の残る声で大地に言った。


 席を譲ったことがこの鑑賞券となって返礼されたことで、遥か昔の『わらしべ長者』の物語をなぜか思い出した大地は、それを三枚ともシャルジュに手渡した。


「明日だぜ。へえ、結構いい席じゃん。なあ、観に行くのかい?」

 しげしげと鑑賞券を眺め、すでに行く気満々のシャルジュだ。


「任せる」

 ランスは大地に向かって決定権を投げて寄こすと、シャルジュの方を見て唇の端で笑った。


「せっかくだし、行こうか」

 大地も同意した。


「やった! じゃあ、明日のコースは組みなおしだ」

 シャルジュが鑑賞券を大地に返そうとしたので、大地はそのまま持っているようにと突き返し、保管をシャルジュに任せることにした。


「次はこっちかい?」

 シャルジュがグラスを持つ手つきをしてくいっと口の方へと傾け、尋ねた。


「ああ、軽くな。宿の隣でいいだろう」

 ランスが大地に同意を求めるふうに言った。


 その時、何かに急かされたような石畳を駆けてくる靴音が近づいてきた。



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