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シャルジュが席を離れてからはまた、周囲の視線が二人に向けられるようになってきた。人々の視線を集めやすいのは見るからに異邦人らしい顔立ちのせいなのか、駅馬車に乗った時と同じあの雰囲気が漂い始める。
ランスと大地の身長が百八十センチ前と後で、ここまでやってくるまでの間に二人ともクアルニィグの大人の平均身長よりも高い部類に入るのだと気づいていた。いずれにしても目立ちたくはなかった二人にとって、シャルジュという案内人は周囲の注意を一手に引き受け、大地たちの気配をただの観光客に変えてくれるありがたい存在であった。
「お待たせ~」
活発さが彼の持ち味なのだろうか。小走りに、メニューを抱えてシャルジュが戻って来た。たちまち、大地たちにまとわりつき始めていた視線が、シャルジュへと移る。いるだけで大地たちの存在感が薄くなるのは、異星人という正体を隠すには好都合だった。
「生きのいいのはお墨付き! どれにする?」
シャルジュが差し出したメニューブックには、クアルニィグの言語を解さない外国人のためだろう、まるで写真のような絵が描かれていた。盛り付けの美しさもさることながら、見るだけで食欲の増しそうな料理の数々に思わず期待値が跳ね上がる。
「そうだなあ。どうせならシャルジュの好きなものを頼むといい。遠慮せずにたっぷりとね」
大地はシャルジュに決定権を丸投げする。魚料理ならば想像の域を極端に超えることはないはずだ。
「へえ、そりゃあ責任重大だ! でも大丈夫。がっかりさせないからさ」
メニューを携えてきたときと同じく小走りに、シャルジュは注文を告げに行った。
ほどなく戻って来たときには、三人分のグラスを手にしていた。ごく薄い緑色をした液体は、ハッカのような爽やかな香りがした。
料理が運ばれてからは、食事に集中する。
クミンやターメリック系のスパイスと醤油に似たソースでアクセントをつけた、青魚を焼いたもの。ふんだんに取り混ぜた生野菜には甲殻類の刺身やカリカリに揚げたスライス野菜などがトッピングされている。さっぱりとした柑橘系の搾り汁が効いている。貝類や魚の切り身を混ぜて炊いた穀物は、スパイスの組み合わせが絶妙で、程よい辛さと香が食欲をそそる。刺身、煮魚、とどれもこれも旨い。
シャルジュの喰いっぷりを見て、思わず大地の口元がほころびる。
「どうだい? 気に入ったかい?」
大地の視線を感じたのか、口をもぐもぐと動かしながらシャルジュが尋ねた。
「ああ、満足だ」
「ランスさんはあんまり食べてないんじゃ?」
「少食なんでね、いや、でも旨かった」
「そっか、安心した」
言われてみれば確かに、ランスがたらふく食べたというのを見たことがない。自分よりも大柄でたくましい身体をしているのに、大地よりも食事量は少ないように思う。
「お、ツェイン・マルギアナの一座じゃねえか?」
後ろの方から客の声が聞こえた。
振り向くと、煌びやかな衣装、官能的な衣装をまとった男女数人が、このエリアにやってきたところだった。
「明日から公演だっていうじゃないか」
「何か見せてくれないかしら」
「無理、無理。ただ食事しに来ただけだろ」
「衣装は伊達かよ」
「宣伝かもしれなくてよ」
他愛のない会話がそこかしこから聞こえてくる。
友好条約締結のための使節団と行動を共にしている、とも聞いた。
見るともなしに見やると、独特な化粧で作られた感がたっぷりな美しさ、どの顔も似たような美しさの数人が、笑顔を振りまいていた。




