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第2話 胸に秘めていた想い

鳴滝昌平(なるたきしょうへい)さん。私は、あなたの事が大好きです」


 大沢勝海(おおさわかつみ)は震える声で、しかし、一息で言い切った。


「それは……」


 少しは考えなかったわけでもない。

 ただ、このタイミングでというのは予想外で。

 だから、続ける言葉が思い浮かばなかった。


「続けますね」


 彼の態度をどう取ったのか、告白の言葉を紡ぎ出す。


「元々、先輩……《《兄さん》》は、お屋敷に住んでいる王子様、でした」

 

 当時も今も、勝海が住んでいるのは集合団地。

 一人っ子故に個室こそ与えられたものの、三階建ての豪邸に住む

 昌平(しょうへい)の存在は、ちょっとした憧れだった。

 幼い彼女にとっては、あながち誇張とも言い切れなかった。


「王子様とか。さすがに、比喩にしても行き過ぎだろ」


 冗談と思ったのか、笑い飛ばそうとするものの、


「幼稚園の頃は本気で思っていたんですからね!」


 羞恥故か、強い言葉で冗談ではないのだと言い返す勝海。


「わ、悪い。でも、別にそんな遠い存在でもなかっただろ」

「はい。兄さんの家でよく遊んでましたし」

「母さんも、妹みたいに可愛がってたしなあ」


 頬を緩める昌平。

 かつての彼にとって、勝海はそんな存在だった。


「それで、兄さんの家は、本がいっぱいあって。今の私の原点なんですよ」


 呼び方が変わっているのは、かつてを思い返している故か。


「父さんの影響だな。俺も父さんの買った本読み漁ってたしなあ」


 昌平にとっても、家にある大量の書籍は、今の自分を形作ったものだった。 

 

「……カッコよく、将来は「昆虫の研究者になるんだ!」って今でも覚えてます」

「忘れてくれよ。黒歴史だって」

「でも、兄さんだったら、大学に進学して。普通に狙える道じゃないですか」

「どうだろ。本物の研究は生易しいものじゃないだろうし」


 そう言う昌平の声には実感が籠もっていた。

 父が生物系の研究者故に、簡単な道ではないと実感していたのだ。


「でも、《《先輩》》に私は追いつきたくて。中学受験も必死でやったんですよ」


 その告白に、昌平はといえば少しの驚きを含ませて、


「なんで、ここ選んだのか疑問だったけど。そういうことだったのか」


 家から電車で三十分の距離。偶然にしては妙だと思っていたのだ。


「そういうことです。それで、私も高一になって。それで……」


 少し、呼吸を整えてから、


「今年の合宿は、先輩と登れる最後の機会じゃないですか」

「ま、文化祭終わったら受験勉強だしな」

「今日、下山した後なら。結果がどうでも、いい想い出に出来るのかなって」


 これで言いたいことは終わりです、と。


「んーんと……まずは、ありがとうな。俺を好きになってくれて」


 裏には少しの自嘲が含まれていたが、勝海は聞かなかったフリをして先を促す。


「聞いてる間、少し考えてたんだ。俺がどう思っているのかって」

 

 それで、と続けようとしたところ。


「続きですけど。今夜、バーベキューが終わった後。外で聞かせてくれませんか?」


 少し微笑みをたたえて勝海はそんな事を言ったのだった。


「ひょっとして、そっちの方がロマンティックだと思ってるだろ」


 幸い、都会の光もないし、天気もいい。

 さぞかしいい星空だろうし、この後輩がロマンチストなのもよく知っていた。


「わかってるなら言わないでくださいよ」


 少し恥ずかしげに勝海ははにかんで、それだけを言ったのだった。

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