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2話中編 Blend Soul





気がつくと、あたりは暗く夜中になっているのがわかる。

おれはさっきの六畳間で起きる。

その時、俺の胸の上を何かが滑った感触がして持ってみると人間の腕だった。


「ひっ!」


俺はそれが自分が切断した右腕かと思ったが、よく見ると繋がっていてフランの物だと理解出来た。


隣を見ると彼女が俺に抱きつくように寝ていた。

窓からさす月明かりに白い髪と肌が反射して綺麗に光っている。俺は彼女の腰のラインを思わずなぞる。

触れた手は黒く隙間から見える青白い液体がより濃く光っている。

この手に触覚はなかった。

そして、これが現実なのだとわからされる。

俺はあぐらをかいて座り直し、今度は彼女の左腕に触れた。



「ん…んぅ?姉様…おはようございます。」



「おはよう。」



「なんで腕を持っているんですか?」



「綺麗だなって思ってさ…。」



「姉様の瞳の方が綺麗です。夜にだけ光るその蒼い瞳。どこまでも深く続いている深海のようで私は吸い込まれそうだと思っていますよ。」



こいつ、ぬかしおる。


「ねぇ、姉様。消えようなんて考えないでください。姉様は気づいていないようですけど本当に誰とも繋がりがないのは私も同じなんです。家に籠りどこにも行かせて貰えず、常に次期当主としての教養を学ばされ続けた。それが私という存在なのです。全てはあなたを補佐するためだけに作り出された娘。フラン・シューミッドとはそういうものなのです。」


彼女は起き上がり俺の腰に手を回す。


「姉様は表で私が裏、私たち姉妹は表裏一体の関係です。どこまでも繋がっていますから安心してください。どうですか?私たちは互いに触れていればリラックスできるでしょう?」


確かに平常心に戻って来ている感じがする。

黒いイメージもどこか奥へ潜んだような。

前世では一人っ子だったから兄弟と言うものが本当にどういう関係だったのか知らなかった。




「姉様、このまま朝まで一眠りしませんか?実は私、嬉しいんです。前までの姉様は私の接近を許さなかった、多分、私の存在が嫌いだったのでしょう。でも今はどういう訳かこんな近くまで来ても何も怒らない。まるで中身が変わったみたいに…。」


フランは俺の耳に唇を近づけ甘噛みする。

これは、まずいぞ…。



「もう寝ようフラン。一旦落ち着こう、な?」


「姉様の心臓の音で寝れそうにありません…。」


耳の近くでフランの吐息の音が聞こえる。

まてーい…これはあれか?あれなのか!?

俺は危機を察知しゆっくりと立ち上がる。

よく見れば俺だけ裸だった。

てかフランは下着だ。


「姉様ぁぁ…。」


俺はクローゼットを開いて、どうつけるか分からない胸部装甲以外を装着し制服をきてブーツを履き外へでた。


外は薄暗く、巡回中の兵士が度々見える。


大人はこういう時、タバコをふかしてしまうのではないのかと自論を立ててしまった。

いや、それは完全に事後だろう!俺は馬鹿か!?


俺はレンガ作りの花壇に腰をおろし、空を見上げる。

こんなに星が輝いている空を俺は今まで見たことがなかった。まるでプラネタリウムだ。


案外寒いな…。

でも今戻ってもまた甘えられるだけだろう。

そのまま空を見上げていると、家の扉が開きワイシャツと短パン姿のフランが、ふんふんと鼻歌でリズムを刻みながら隣に来て座った。


「さっきの続きをしましょう。昔、それもまだ私が幼く言葉も上手く話せないころ、姉様は私を抱いて一緒に夜空を見ていたことがありました。姉様が令嬢教養を学びだした頃から徐々に私たちの関係は遠のき、最終的に先程の説明のようになりました。」





「Navy Sky Blue Star」






「この言葉は姉様が昔、よく口ずさんでいたものです。覚えていますか?夜空が月明かりによって青く見える時、星々も呼応するように青く光る。あなたはそれが自分の瞳の色と重なるから好きだと言っていました。そして、私は夕日の朱色だと。」


「なら、フランは」





「Sunset Sky Vermilion Sun」






「ねぇ、姉様。キスしていいですか?」

俺は慌ててたち上がった。

だめだ、この会話ですらウブすぎて耐えられないのにそこまでするとなるともう、あれだ。

あれなんだ。


「あ、そうだ。フラン、明日てか今日は何する?」

俺は話をそらす。


「あぁ、姉様は令嬢教養も終わってますし大抵の令嬢なら家業を手伝いながら王子の来訪やお誘いを待つ形になりますね。」

「しかし我々は第2王女の座を狙っておりませんので王子の相手は他の令嬢に任せて王宮内の貴族や伯爵にシューミッド家のプレゼンテーションをやる必要があります。」


プレゼンテーション?

俺たちが持ってる商品なんてあったけな。

営業に行くならなにかメリットになるような商品を持っていきアピールしたり、会社自体の生産技術がこうで御社のニーズに合わせることが出来ますとか、今までの業績で保証とか思いつくがその内容とシューミッド家に当てはまる節は見当たらないぞ。


「それで、あんまり気にしてなかったけど茶会の成果はどうだったよ?」


「ん、まぁぼちぼちでしょうかね。過去の取引先を回って来ましたけど好印象を貰えたのは一つだけ、そこはこれから軍事業を興すようで我々の培われた技術を買って良いスタートダッシュを切りたいのでしょうね。」


「あー、もしかしてだけど図面とか売っちゃう感じで?」


フランはこくこくと頷く。

どうやらシューミッド家を残すためなら財産も惜しくない、作れない図面やら資料をいくら持っていてもってことか…。


「はぁ、そこまでしないともうやっていけないかぁ。」

あ!?なら茶会であったメイドの様にシューミッドに仕えていた人材はどうなったと聞いたらメイドは1部の優秀な者以外が解雇され、幹部たちはほかの貴族へ引き抜かれて行ったようだ。そして言わずもがなシューミッドと名のつく人は2人を除いて皆、処刑されたとフランは説明する。


技師がいなければ作ることができないし我々だと無理だ。


「他の手段も考えていた方がいいな。国を出る方向も想定してさ。」



2人は数分ほど星を眺めた後、ノワールが立ち上がって家に帰っていく。それにフランも合わせて帰った。

そして2人はお互いに会話をしなかった。

フランが寝静まっても、浩輔は起きていた。意識が戻ったあと妙に違和感がするのだ。心中がモヤモヤするような、何かがつっかえたような。

結局、浩輔は朝まで起きていたのだった。














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