2話前編 Blend Soul
俺はシューミッド担当領地に置かれた住宅で、壁にかけられた右の袖に穴があいているコートを眺めていた。
「ずっと眺めていても何も変わりませんよ。」
そんなことはわかっている。
だんだんむしゃくしゃしてきて今にも何かを壊したい衝動に駆られるがそんなことをしても無意味だと思い諦める。
フランは今日の成果を文章を書いて記録している。
事務処理を苦もなくこなせる人間は素晴らしいと思っている。やれと強制されればやるが、任意でどうぞと言われるとどうもやりたくなくなってしまう。
「ねぇ、フラン。この世界に音楽はないの?」
「ありますよ。令嬢教養学でやりませんでしたか?ノワール姉様なら、18歳でその課程を修了致しました。私はそう記憶しています。」
「そう…。じゃあドラムやギターっていう楽器はある?」
「いえ、そのようなものは知りませんね。」
「………そぅ。」
しばしの沈黙が訪れる。
俺はふと思ったことを喋り始めた。
「ねぇ、私は後悔しているの自分自身にね。じっさい人間は居なくなってから後悔するって気づいた。家族や親友を。そして、自分自身が死んだあと、その遺体を片付ける人のことを考えるととても申し訳なく思ってしまう…。」
この言葉が俺自身の意識かそれともノワールの意識かはっきりしない。
「姉様…。」
フランはペンを置いてノートを閉じた。
「姉様、今日はほんとに調子が悪いみたいですね。先程のこともありますし早めに休んだ方が…。」
「いい、話してた方が楽だから。」
「フラン、あなたは世界に生まれる意味を理解している?」
「いえ、理解していないですが自分が何をすべきかはわかっているつもりです。」
「私は今、それが明確にならないし辞めたいとも思ってる。」
頭の中で声が二重に聞こえる。
今、浩輔と言う人間とノワールと言う人間はシンクロ状態にあった。
「姉様は自信を他人の目線で見ているかの言い様ですね。全ては自分で引き金を引いていたというのに?」
「お前、殺していい?」
「ごめん。フラン。」
俺は慌てて訂正する。そして理解し始めた。ノワールと言う人間が根本から腐っていたことに。
俺はべつに短気なほうじゃなかったが彼女の性格も混ざっているようだ。その逆かもしれない。
「姉様は随分と何かを溜め込んでいるようですね。発散させた方が良いかと思いますので存分に仰って構わないです。この担当領地周辺には他の貴族は来ないので。」
「あぁ、そう。」
「フラン。シューミッド家は兵器開発をしていたんだよな、なら何か残ってたりしない?」
頭の中で黒いイメージが湧き上がってくる。
それが何を意味しているか浩輔には分からない。
「ん〜、そうですね。お父様が独自に作っていた量産不可能な作品なら1部残っています。それと私たちの成人祝いも残ってますね。なぜ聞くのか分かりませんけどそれらを所持しているのは姉様ですよ?」
「あー、忘れちゃったからどこにあるか知らない?」
フランは黙って俺の座っていた床を指さした。
そこには凹みがあって取り外せるようになっている。
俺はその床を取り外し中を確認して考えていた行動ができるのか確かめた。
次にキッチンへ向かった俺は包丁を取って、さっきまで座っていた場所へ戻った。
「姉様?………ま、まってください!何をするつもりですか!?」
浩輔は思いっきり右肘の関節目掛けて包丁を突き刺した。
「姉様!?おやめ下さい!」
フランが止めに入るがより力を込めて包丁を傾け関節を外して皮を引きちぎった。
そしてお目当ての遺品をくっつける。
遺品は腕の神経と同化し内部の魔法石が活性化した。
血まみれの机の上に残った腕がビクビクと脈打っている。
遺品は人の腕の形をしているがところどころ歪で青白い液体が内部に流れているのが見える。
外装は黒く塗装された金属で覆われている。
「い、一瞬でそこまでの発想をされるとは驚きですが…。ほ、本当にどうされました。」
フランの声は震えており額に汗が浮かんでいる。
浩輔の頭は何故かスッキリしていた。
それは前世ではできなかったことへの高揚感かそれとも初めての自傷行為に脳が処理しきれていないのか。
はたまた目的を遂行できたからなのか。
しかし、その3秒後に吐き気に襲われ台所へ駆けた。
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「はぁ、落ち着きましたか?いったい何をしているのやら…。」
フランは俺の背中をさすり心配そうにしている。
「ノワール姉様がここまで思い悩んでいたとは理解出来ずごめんなさい。その…私の一言が重圧になっていたりしていたらそう言ってください。昔の姉様は何を言っても怯みませんでしたから…。」
俺は膝から崩れ落ちた。
そして機械と接続された右腕を見てまた後悔した。何をされたのだろうかと。
「姉様?姉様!?」
「ねぇ、フラン。私の存在を消すことは出来るかしら?」
そうして俺の意識はプツリと切れた。
ショックによるものか。
願いが叶えられたからか。
理由は色々考えられたがとりあえずなんにも考えなくて良くなったことに安堵した。




