10話 誘い
「勿体ない……。」
男はそう語った。
彼が診察している娘は接続された義手から雷に打たれた赤い線が背中から首筋まで伸びている。
何度か打ち付けられた背中には一生残るであろう傷もできていた。それは少女が今までどのような運命にあっていたのかを物語っている。
「癒刀の効果はでているな。背骨の位置も戻り神経も治っている。うーむ。なんと惚れ惚れしい姿かな。」
「ヘリオスさん。処置が終わったのならあっちに行ってて貰えないでしょうか。朝ごはんの支度を手伝ってください。」
事故から時が経って時刻は既に朝方。
ヘリオスの判断もあって追跡者にバレずスケイル国の国境を越えた。
トラックで稼いだ距離もあって思いのほか早くつくことが出来だ。
「姉様、今はゆっくり寝ていてください。」
現在地は国境沿いにあるスケイル国の玄関口、ミネ市。
そこの宿屋の一室を借りている。
比較的格安なものにしたためご飯は出ない。
備え付けの調理台は使っていいようだ。
入国審査は市に入る前に行われた。私たちはパスポートなど持っておらず、どうなるか不安だったが化け物ことヘリオスが通行証を所持していたためすんなり入れた。
ヘリオスが所持していた通行証は商人コードと似た物でガルディアと言う世界的に大きな商会が発行しているものだそうだ。
ヘリオス曰く、追放者や難民、孤児などを救済するための機関で仕事の斡旋もしてくれる。そしてガルディアに所属している仕事人の中で優秀な人材は自由に国を渡れる通行証を貰える。
困難な仕事になるほど国をまたいだ内容になってしまうからだという。
我々はヘリオス調査隊の部隊員ということになっている。
とりあえず、国を超えたため追跡者が手続きが必要になるため数日は時間を稼げる。
その間にスケイル国の警備隊が動けば厄介なことになるが。
「朝ごはん出来ましたよ〜!」
朝ごはんと言っても食べるのはユイレだけ。
フランは人造人間だし、ヘリオスは人間をやめた。
食費がすくなるのは助かるけども。
3人はテーブルについて、ユイレだけが焼いたパンとスクランブルエッグを食べる。
「ノワールはまだ起きないの?」
「損傷が激しいからな。長くて3日は起きないかもしれない。君らは元令嬢だろう体力もないのにあれだけ歩けばな。」
「ええ、追っ手も来てましたからそうも言ってられず。」
「そうか、大変だったな。 エルドレッド王国もレンディミオン連合も罪人に対して過激なところがある。事情は聞かないが重罪人であることは確か。だからと言って私が君たちを責めることは無い。」
「ヘリオスさん。」
「おっと、ユイレ嬢。思いを馳せて貰っては困る。私の人生の相手は亡くなってしまったが次を作るつもりはないぞ。」
そう言うヘリオスの赤い眼光はまた薄く伸びている。
満更ではないようだ。
「ヘリオスさん。あなたの本心はなんですか?それを知らないまま同行させることはできません。」
「同行?私がいつ君たちと共にすると言ったのだ。それを望むと言うなら理由しだいで私の時間を君たちに割いてもいい。」
「あぁ、じゃあ来ないでください。」
「ふむ。ではこの通信機を用いて君らを捜索隊に知らせるとしよう。」
ヘリオスは通信機を取り出して2人に見せた。
「貴様!それが狙いか!!」
フランは椅子を飛ばして思いっきり立ち上がった。
「おいおい、そんな顔するなよ。」
「我々には死活問題なんです!」
「わかったって、まぁ落ち着け。これ次第で捜索隊の意識をズラせるんだ。静かにしろ、連絡を返すだけだよ。」
ヘリオスはそう言って赤く点滅する通信機のボタンを押して話し始めた。
「おう、隊長。ヘリオスだ。先の事故と生き残りを追跡したが普通の商人だったぞ。おう、そうだ。ああ。それと商人に聞いたんだがお目当ての3人は北進して行ったそうだ。あぁ、そうだな。その方角ならロイツ連邦かもしれん、あそこは情報が少ないし隠れるに良いからな。ああ、了解した。加えてだが別件が入った。済まないな、なに?その情報だけで、ほう。なら金貨10枚だな。あぁ、あぁ冗談だ。おう。健闘を祈る。」
「終わったぞ。私の本心がわかったかな?」
「余計にわからなくなっただけです。」
「ん?もう追っ手が来ないんでしょ?」
「正解だユイレ嬢。」
フランは大きなため息をついて椅子を直した。
たった数秒の会話で数日の猶予が数ヶ月に伸びたのだ。
「お前たち、仕事が欲しくないか?」
ヘリオスの眼光がまた横に伸びた。
今度は何が飛び出るんだ…。
「3人をガルディアに斡旋してやる。」
この男、どこまでお人好しなのか…。
それともなにか裏がありそうで恐ろしい。
しかし、偽名でできる仕事は限られてくる。
あぁ、姉様早く起きてください。私一人では荷が重そうです。
「行くのはあの娘が起きてからにするがな。置いていくのもまずかろう。 つかの間の休息だ。ゆっくりするといい。」
ヘリオスは席をたってベランダの椅子へ向かった。
レンディミオンの三剣豪。
それが公にされたのはかなり前の出来事だ。
ならばヘリオスはかなり歳を食ってるに違いない。
そういう風に彼を見るとどこか哀愁を感じてしまう。私たちを助けるのも老婆心故、かもしれない。
まぁ、繋がりができる分には良いが。
私はこの時間を使ってデュエリストのシステムチェックを始める。少々時間がかかるから落ち着いた時にしかできないのだ。
「フランさん。」
「あぁ、ユイレさんですか。それと、さんはつけなくていいですよ。」
「わ、わかったよ…フラン。」
「何もそんな照れなくても。」
「お願いがあるの。」
「はい。」
「お風呂…入りに行かない? つ、疲れをとらなきゃね!」
ユイレさん、彼女はぶ、不器用なのでしょうか。
うーん。令嬢生活でも親しい友人はいなかったと聞きますし、でもデュエリストの整備…どうしましょう。
「はぁ……わかりました。私が同伴する時間は5分です。それ以上はこっちに集中します。」
「ええ、大丈夫よ!」
ユイレはニコニコしながら風呂場へ向かった。
彼女はここの宿屋に来た時、モーニングシャワーOKと書かれた張り紙を見ており、やっと温かいお湯を浴びれるとワクワクしていたのだ。加えて、令嬢生活では味わえない庶民の生活というものを体験出来る機会でもある。
しかし、そんな期待はどん底へ落ちた。
あるのは質素なシャワールームが数室。
そして出てくるのは水ばかりだった。
「こ、これが世間一般で言うお風呂ってものなの?」
ユイレは冷水に凍えながらフランに問う。
「格安宿ですし、こんなものでしょう。魔法石を使っている貴族用のお風呂は最上級品ですよ。」
「さ、寒い……。こんなはずじゃなかったのにぃ。」
「仕方ないですね。私のコアで一気にあっためますか。」
フランは自身の胸部を開いて配線で繋がった赤い魔法石を見せる。それは周囲の空気の温度を30℃程度まで上げる。
ユイレはシャワーを一旦止めて質問する。
それは何と。
「これは魔法石の原石、魔鋼です。」
「ま、魔鋼? 聞いたこともないわ。」
「一般には出回りませんから。王族も1部の者しか見れませんし、ユイレさんは幸運とも言えますね。」
「そんな物人体に入れて大丈夫なの?」
「人に入れれば一瞬で魔石化します。私は人でないですから……。」
そう言うフランの表情は悲しげだった。
フランには他人に言い難い事情があるのだとユイレは察する。
「そう。 ありがとう。おかげで助かったわ。」
「お役に立てて光栄です。」
ユイレは少し暖かくなったシャワールームで体を洗い流し、5分でいなくなると言ったフランも最後までそこにいた。
「おっと、朝シャンはどうだったかなお二人さんよ。」
「変態。」
「へっ変態!? この私がか…会話をしたいだけなのに。せっかくいい知らせを言おうとしたのだが…。」
「だいたい察せるわ。ノワールが起きたんでしょ。」
ベランダの椅子に腰掛けたヘリオスの横に外を眺めるノワールの姿があった。フランがヘリオスに変態と言ったのはノワールが上着のシャツのボタンを全部開いており、それを見るなと言うことだった。
ヘリオスは彼女ばかりを見ていた。
確かに後ろ姿も惚れ惚れするくらい凛々しい。
「スケイルに着いたんだな。」
「ええ、そうです。邪魔者も引っ付いて来ましたけど。」
「おぉ怖い。助けてお姉様!」
ヘリオスがノワールの腰に飛びついても彼女は微動だにしない。彼女の性別が男だからできることだがフランは知らないし、ユイレも理解しているか今のとこ不明で、加えて、ヘリオスは身長2mを超えるから腰にって言っても範囲が広い。
「それで十分か?」
「おう。」
「なら離れろ。 んで話は聞いた。ガルディアって言う派遣会社みたいな慈善事業を展開してる企業にこれから行くんだろ。そこでなら身分がどうであれ受け入れ可能でお金も十分稼げると。」
「そうだ。飲み込みが早くて助かる。」
「おっさんの紹介なら階級をすっ飛ばして並大抵の地位で働けると。」
「バッチリ紹介してやる。」
おっさん呼ばわりはいいのかヘリオスよ。
2人はそう思った。
「その案のった。実際遅かれ早かれ資金面はぶち当たる難題だし早急に解決できるならそれでいい。」
「よーし、それでは腹ごしらえも兼ねてガルディア、スケイル支部に行こうじゃないか!善は急げだ。今から30分後にここを出立する。用意しておけ。」
「了解した。」
ノワールがヘリオスの傲慢な意見に有無も言わず承諾した姿を見て2人は驚く。
シリウス・アルバロンやレイナード・フィルフのように理不尽を押し付ける人間以外には強く当たらない。
やはり姉様は人が変わったかのようだ。
ノワールは呆然としている2人に時間は待ってくれないぞ。と話した。
「そうね。ノワールに負けないよう頑張るわ。」
「はい。姉様が元気になられて良かったです。私はデュエリストの調整をしておきます。」
ヘリオスは着々と準備を始める彼らを見て不審に思う。
彼女らは元令嬢だったのになぜこうも変化に対応できるのかと、そして自分の人生を振り返った。
剣豪の称号を剥奪され全てを失い国を追放されたその時自分は何も出来ず、浮浪を繰り返していた。
彼らと自分の差は何なのか、それを理解出来れば更なる成長をすることが出来る。
ヘリオスは今、彼らに言える励ましを述べる。
「私は君たちを見届けるつもりだ。気張れよ。」
「気持ち悪い。」
3人は口を揃えてそう言った。




