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9話前編 The Darkest Forest





日差しの陰ってきた夕暮れ。

2足歩行輸送機を連れた行商が道なりに森を進む。

太陽は南西方向に沈んでいて、正面から日差しを受けている。照らされた商人たちはフードを深く被りゆっくりと歩いている。

その横を流線型の四輪車が通り過ぎる。


この世界での車は全部、魔法石で動いている。

だからエンジンルームはなく、操作は魔法石に繋がる触媒へ手をかざしイメージを流す、するとその通りに車は動き出す。

欠点として難しいイメージや指示が多いイメージなどは反映まで時間がかかるため推奨されない。

だから、運転手は簡単なイメージをする必要がある。

例えば、右にいけ。とか、後ろに下がれなど。



今どき車も使わず歩いている行商などおらず、商売が上手くいかず収入がない貧乏商か、初めて行商を始めた田舎者か、世間知らずのボンボンか。

目立つことは確かだ。


1台の大型車が横に併走した。

大型車は真四角で後ろに荷台を牽引していた。


運転手は荷台を指さして乗れと合図する。

なんと心優しきお方なのか!

1人は荷台に乗ったが、2足歩行輸送機の運転手と残りの1名は乗ろうとしない。

逆に睨んでくる始末だ。


運転手はため息をついて、行商のリーダーと思える2足歩行輸送機の運転手に自分の商人コードを見せた。

相手は、それを確認したあと荷台へ乗りこんだ。


商人コードとは商人の身分証だ。

そこには出身と商人ランクが載ってある。

ランクが高いほど信用がよく、分類は小さい順でブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ミスリル。

そして国で唯一無二の商人ランクがウルツアイト。


この男の商人ランクはゴールドだった。



「今どき、商人コードも発行せず、歩いて移動なんて古風なことしてるねぇ。そんなんしてりゃあ時代に置いてかれちまうよ。」


大型車の運転手は車の速度をあげて愉快げに話した。


「2足歩行輸送機持ってるとこをみりゃ、エルドレッド王国で押し売りにあって買わされて、1文無しってか? ガッハッハッ。」



「まぁ、そんなとこです。」



「だよなぁ、2足歩行輸送機なんて代物あそこにしか置いてないぜ! しかしよぉ、時代が変わっても結局、相棒はこのトラックだけよ!」


運転手は豪快に運転席のドアをガンガンと叩く。


「方向はスケイル国だよな、道のり的に。そこで中古のトラックでも買うといいさ。上手いこと商売してな!」


「はい、頑張ります。」


「どうだ、歩いて疲れたろう。着いたら起こしてやっから寝てていいぞ。焼いて食ったりしねぇから気にすんな。」



お言葉に甘えて、と行きたいがそうとなれば何をされるかたまったもんじゃない。ここは寝たフリをして出方を待つべきだな。

ノワールとフランは荷台にもたれフリをした。

ユイレは……すやすやと寝てしまう。


トラックはそのまま道沿いに走り続ける。

日はすぐに水平線に隠れ、空は赤紫になっていく。

もうすぐ、夜が訪れる。


15時から歩き続けたと考えると、かれこれ4時間は経過しているだろう。

次第にノワールもこっくりこっくりと頭を揺らし始める。


トラックの運転手はヘッドライトをつけて暗くなっていく森の中を進む。

トラックからは陽気な音楽が永遠と流れており、サビになると決まって荷台は揺れ出す。


トラックの積荷は麦や干し草、毛皮に布。

この男はどうやら地方の品を運んでいる。

フランはデュエリストの能力で品物をスキャンし異常を確かめたが特に問題はなかった。

いたって普通の商人。

ただ、すこぶるお人好しなようだ。


最初は疑っていたが、乗車して正解だと思う。

実際、ユイレの足はダメになっていてユイレのために速度を落として歩いていた。

姉様も体力はあるが限度がある。

ほとんど根気で進んでいたようだし、ユイレを支えていたことで倍に負担を抱えていた。


自分が2人を運んで良かったが、いざ戦闘になったとき両手が空いていないと不味い。

チームの最大火力という面もある。


フランは薄暗い森の中を見ていた。

あの中から敵が出てきたら、と悪いイメージが湧いてくる。

運転手は依然として陽気だ。

慣れた行商人になると夜もへっちゃららしい。


それからまた、何時間か時が進む。


あたりはもう、真っ暗でヘッドライトの周辺以外見えない。

運転手は車の速度を若干落として、夜道を警戒しながら進む。陽気な音楽も荷台の揺れもなくなった。

タイヤが地面を駆ける音だけが聞こえてくる。



それに混ざる草をかき分ける音。

常人の耳では聞こえないくらいの微かな音が、10…いや20は聞こえる。


木々の間から赤い線が残像のように光ったり消えたりを繰り返す。その光は走るトラックを追いかけているようだ。

運転手は気づいていない。


フランの視界に「警告」の文字が現れる。

その警告はデュエリストの戦術データベースに記録されている情報から示し、赤眼の接近を表す。


彼女は急いでデュエリストに着いていた荷物を外す。



赤眼(アカメ)とはなにか、人に危害を与えるもの。この世の敵。地獄の使者。

DNAに特殊な欠損が成長過程で生まれた場合、発現する後天的な変異で個体が強化される病気と言われている。

どれくらい強化されるか、それに規則性はない。全く変わらないやつもいれば新たな分類が必要になるほど逸脱した個体になることもある。


彼らは旅人達から人類の天敵と言われるほどだ。


フランは昔、お父上に質問をした。

何故、強い兵器が必要なのか。

お父上、シューミッド伯爵はこう答える。


――人を存続させるためさ。


幼き私には人類に天敵などおらずいちばん怖いのは同じ種族の人だと考えてきた。

だが、実際目にしてわかった。


これは恐ろしいと。

森を飛び交う無数の赤い眼光。

それは虫のように変則的に移動している。


こんな時の対処はどうしたらいい。

デュエリストで太刀打ちできる小ささならいいが、この数は厳しいな。



「おわっ!赤眼か、運悪ぃな今日はよ!」


トラックの運転手もミラーに写った眼光を見て焦りだした。


「すまねぇが、大きく揺れるぜ!」


運転手は魔法石に飛ばせと命ずる。

触媒を通した命令から、トラックは速度を大きく加速させる。しかし赤眼との距離は離れない。


「ちくしょう、こいつら足が早いタイプか!」



この運転手ではダメだ。振り切れない。

そう判断したフランはデュエリストにかかっていた布を取り外し、立ち上げる。


朱色の眼光が光る。

圧縮された空気を排気して拡張兵装にエネルギーをチャージする。



「おいおい、2足歩行輸送機で迎撃するのか!? やめとけ、パワー負けするだけだぞ!」


「運転手さん、2人を任せていいですか?」


「お、おう。それはわかってるが、お前だけじゃ――」


わかっている。

しかし、鳴り止まない「警告」がことの重大性を表している。戦術データベース、それはエルドレッド王国が所有しているデュエリストのOSを使用した兵器全てが収集したビックデータ。

そのどれもに赤眼との戦闘で犠牲者無しの報告はない。


ここで4人がひと塊になるよりターゲットを移した方が生存確率は上がる。



「――行きます!!」


デュエリストは荷台から飛び出した。


瞬間、フランは後悔した。

自分の横を通り過ぎていく無数の眼光。


その全てがトラックに向けて伸びている。



「そんな!なんでっ――姉様ぁ!?」


フランはロケットエンジンで反転し、両手に放電を発生させる。

間に合え、間に合えと心で唱えて疾走するトラックに向かう。

トラックは思いのほか早く。

さっきまでの遅さはデュエリストを乗せていたからだと理解した。

しかし赤眼はそれについて行く。

奴らはまだ、力を隠していた。トラックの速度は120km/hのフルスロットルだ。奴らの最大速ははるかに凌ぐというのか。


デュエリストの飛行機能はあくまで補助、主に陸戦を想定それて設計されており飛行速度はMAX100km/h。



フランは思いっきり大きな声で叫んだ。

あのとき起こさなかった私が悪いのだ。



「起きてぇぇぇえ!姉様ぁぁ!!」



その声に反応し荷台から青い光が見えた。

私は自身の出力を犠牲に、右腕の拡張兵装をノワールに向けて発射する。



拡張兵装はノワールの魔法石の輝きに導かれ転送される。

そして、0.02秒の換装が終わる。


ノワールは状況を理解していなかったが、周囲の赤い線を見て、非常時だとわかった。




「上限を3段階まで解放、雷電を使用する。」



暗闇は現れた青い電流によって照らされる。

トラックを襲っていた、動物の正体はネズミだった。


中には赤眼じゃない個体も多く混ざり周囲に群がっている。

ノワールはその光景に気持ち悪さを感じた。


「焼け死ね!!」


雷電は荷台の直下に放たれ、群がるネズミ共を一気に感電死させる。その電圧の強さにネズミは燃え上がった。


フランは取りこぼしを左腕の拡張兵装で放電して殺す。


敵はある程度排除したところで運転手に声をかける。

運転席からは反応がない。

異常を察したノワールはトラックの前方に移動して、座席を見た。


そこにはネズミに食い荒らされた男の姿が。


ノワールは彼に取り巻く屑を放電で殺す。

運転手は既にこと切れていた。


直進していたトラックはカーブに差し掛かり、ノワールが前を見た時は既に遅く、木に衝突した。


ノワールは衝突時に飛ばされたユイレをキャッチして地面に背中から衝突する。

全身から空気が抜け、ぐへっと変な声が出る。


「きゃあ!?ノワールっ!」


「ここは不味い…逃げるぞ…。」


トラックの魔法石は砕け、緑の粒子を空気中に放っている。

この世界の車は燃えない。

しかし、120km/hで衝突した結果、前方は完全にひしゃげてプレス機に潰されたようにペシャンコになっている。

まるでスクラップのように。

緑の光は赤く漏れ出す血を怪しげに照らしていた。








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