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8話 陣地転換





気を失ってからどれくらいたっただろう。

ソファに寝転んだまでは覚えているがそれ以降の記憶がひとつもない。しかも、なんだか頭が重く起き上がりたくない。


ソファからキッチンの方を見るとフランが荷物を整理している。ユイレも手伝っているようだ。

しかしまぁ、大きいカバンだなぁとおもう。

あんな荷物今までなかったぞ。


今まで、無かった? ん?おかしい。

俺は2人をじっくりと見た。

そして飛び起きた。




「買い物行ってた?」


「うん。」


ユイレが素直に返事をし、その言葉にはなんの悪気もない。

確かに寝たのは自分だしなぁ。


「姉様、これお土産です。」


フランが差し出したのは、黄色い果物のカットフルーツ。

俺はそれを瞬時にパァイナポ-だと分かった。


「ありがとぉ!」


俺はパイナップルの入ったパックを天に捧げ喜びを露わにする。

2人はノワールが嬉しそうに小躍りしているのを見て安堵した。置いて出かけたことは気にしていないようだ。


ノワールはフォークを持ってきて1口食べる。

甘酸っぱい味が口内を満たし、甘い蜜で溢れる。

乾いていた喉が潤い、味覚が手を挙げダンスしているようだ。それ程ノワールの脳は糖を欲していた。


お酒を飲んだときと違った純粋に嬉しいといった表情にフランとユイレは買ってきて正解だと心からおもう。

私たちはこの顔が見たかったのだと改めて感じた。



しかし、ノワールは食べる手を止めた。


「2人も食べなよ。ほらっ」


ノワールはユイレにフォークで刺したパイナップルを差し出す。

ユイレは一瞬戸惑うが、んっ。と言いながらノワールがフォークを1回弾ませる。


ユイレは申し訳なさそうな顔をして頂く。


「ね。 美味しいでしょ?これって南国で取れる果物なんだよ。暑い地域の物って水分と甘みが強いんだよね。」


ノワールはフランにもパイナップルをあげる。

お土産を買ってきた側が、何故か餌付けされる構図になる。

うーむ。ノワールが楽しそうだからいいか。


3人で1人前を分けたためあっという間になくなる。

しかし、ノワールはカットフルーツなんてこんなモンだろって考えているから不満はない。

逆に2人が申し訳なさそうにしている。


「もー、そんな顔しなくてもさ。また食べれるって、大丈夫大丈夫。」


そんなこんなで3人は荷解きを行う。




それから時刻は流れて、フランはこれからのプランを話し始めた。


「……まず、重要なのは早急にエルドレッド王国から出ることです。そのためにいくつかのルートがあります。1つはホップス港から船で出て海を渡る。2つ目は陸路でこのまま森を歩いて隣国へ入る。どちらが簡単で安全でないか、1つ目は海を渡るので現在の物資では難しいとこもありますが追っ手が来にくい、それと逃げる範囲が大きいのでそういった点で安全だと言えます。次に2つ目を選択するのは簡単です。しかし逃げるのが難しい。」



「どっちもどっちか。 俺の意見としては陸路で行くのがいいと思う。理由は足が軽いからだ。船となれば買うか借りるかで資金がいる。それに多分高額だから、歩けるうちは選択しないかな。」


「そうね。出来れば歩かない方向で行きたいけど…この別荘にあったお金が今の全財産だし。」


「了解です。ならば陸路に決定します。次に決めるのはどの国へ行くかです。ホップス港の逆、北へ行けばネイニル共和国。西に進めばスケイル国。一応どちらもエルドレッド王国の傀儡国なので追っ手は着いてこれるでしょう。重要なのは国へ入ったあと簡単に隣国へ行けるかです。」


「1つ国をまたいで、本命はその隣ってことか。」


「そうです。北へ超えれば山岳地帯で鉱山が有名なロイツ連邦。西へ超えれば海に面すレンディミオン連合国。」


「個人的にレンディミオン連合国に行きたくないわ。あそこはエルドレッド王国と軍拡競争していた国だもの。仲も悪いし。」


「といって、ロイツ連邦もってとこなんですよね。あの国は国交をあまりしてきませんし、今どうなっているかの把握も難しい。」


「なら、すぐに隣国へ移らずエルドレッド王国の傀儡国に留まって様子を見たらどうだ?」


「確かに、じっくりと考えていいかもしれません。」


「では、傀儡国と言っても最近独立疑惑のあるスケイル国に行きますか。追っ手とスケイル国の国境警備隊で1悶着起こせるかもしれません。」


「東は行かないのか?」


俺がそれを言った途端、2人の顔が険しくなった。


「東の隣国、グレイドルは傀儡国だったけど去年、エルドレッド王国に戦争をふっかけてきたの。それで今は停戦状態にある。実際、今条約を破棄して攻めて来るかもしれない。」


「ユイレさんの言うとうりになる可能性は比較的大きいです。 では目標はスケイル国に決定しました。持てる物資は各個人のリュックに入れて、持てないものはデュエリストに積みます。」


それを合図に一同は旅支度を始める。

ここからは速度が重視される。追ってに捕まりでもしたら亡命は難しくなってくるだろう。

まるで餌を見つけた蟻のように時間が経てば経つほど、その数は増していき次第に手がつけなくなる。

荷物の分配は、フラン>ノワール>ユイレの順。

ユイレは重い荷物を持っての長距離移動は難しいと判断した結果だ。

こうなると戦闘員の機動力が無くなるので、ユイレの対抗砲(アンチ・キャノン)に頼らざるを得ない。

それも承知もうえだ。


3人はエレベーターに乗り込み地上へ出る。

天気は3人の出立を応援するかのように雲ひとつない快晴。

時刻はお昼の15時をすぎる。


これから一行は街道沿いに西進を行う。

植物と同じ色の外套を着てフードを被り、素性を隠す。デュエリストの大きさはどうすることも出来ないので各部に荷物をつけ、布を巻き運搬用に見立てて偽装した。


この荷物じゃ空は飛べない。苦肉の策。

彼女らは渋い顔をして歩を進めた。

10月の冬前なのに何故か額が汗ばんできた。

遅れ気味のユイレを心配してか、ノワールは最後尾について、彼女の荷物を持ち上げてやる。


「大丈夫か?」


「ごめん。」


「謝らなくていいよ。訓練も受けてない人なら当然さ。助け合っていかなきゃ。」









ノワールはひとつの仮説を立てていた。

それはユイレの意識について。

一昨日、王都にいた頃。

自分と一緒に転生したであろう親友がユイレの意識の中に潜んでいると確認した。


そして、自分もそうであったように魂の主導権をどちらかに譲渡しない限り混ざりあった状態が続き、両者の魂同士が干渉し合う。

そうなれば思ってもみないことを起こしたり、幻聴が聞こえたりする。

では、今のユイレはどちらなのか。

王宮に攻撃した時は明らかにこの世界のユイレではない。

肝心なのはその後だ。


俺の経験上、最終的に残るのは一つの魂だけだと考えている。どちらが大切かと聞かれると親友だと答えるであろう。

しかし、ユイレ・アルバロンと言う人物に助けられた事実もある。



今、彼女の魂はだれか。それだけがずっと気がかりで、だから心配する。どちらもいなくなってほしくない。


どうか安全に何事もなくスケイル国へ。

ノワールは心の中で強く願った。







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