幕間① 炎の仕事人「ヘリオス」
エルドレッド王国の王宮が倒壊する30秒前。
1人の男が依頼を終え、行きつけの喫茶店で休んでいた。
身長は2mを軽く超え、全身を鎧で包んだ黒き戦士。
椅子には三本の刀と大剣がかけてある。
顔はフルフェイスで隠され、目の部分だけが鋭い赤の光で見えている。鎧は流線型になっていてトゲトゲした箇所もあった。
男はコーヒーをすする。フルフェイスを脱がずに。
なんとも器用なやつだ。それに男からすると自身の拳に収まるくらい、コーヒーカップが小さいはずだ。
男はコーヒーの最後の一口を飲もうとした時、巨大な地鳴りが聞こえて手を止めた。
ウェイターを呼んでお金を渡し外に出た男は外の光景を見て絶句する。
それに気を取られていると土煙に襲われる。
男は見た。
土煙と一緒に街を駆ける人物を。
なぜお姫様抱っこをして走っているか分からないが、抱えている人物は相当怪我をしているようで男はその人物が人名救助をしているのかと納得した。
そして、男の脳裏に何故かその人物が、容姿が、動きが焼き付いたのである。
直球ストライク!バッターアウト、ゲームセットォォォオ!!
彼のチームはとうりすがりの人物チームと心な中で戦い、コールド負けした。
男は外に出た一瞬、斜めに傾き沈む王宮を見ていた。
考えたくないが王宮が……倒壊した。だが彼はエルドレッド王国の民ではない。ひとつ国を挟んだ西側のレンディミオン連合国出身で、ここには出稼ぎに来ていた。
彼の性格は愛国者ではない。その都度生きやすく、金の羽振りがいい国に来ているのだ。
彼は思う、王宮が倒壊した今、国の統制は大きく乱れるだろう。そんな中自分に来る依頼は何なのか。
予想はついた。
男は行きつけの喫茶店に別れを告げ、倒壊を続ける王宮に背を向け歩いていく。
彼がことの顛末と原因を知ったのはそれから1日後だった。
王都郊外の森を歩き、南下を続けていくとエルドレッド王国の兵士団に遭遇したのだ。
遭遇した、というか急に囲まれ武器を向けられた。
理由は黒色をしていて大きかったから。
兵士団は男に謝り、事情を説明する。
王宮を壊し、近衛兵団の長たる人物、戦術顧問シリウス・アルバロンの殺害及びその娘、ユイレ・アルバロンの誘拐容疑。
それら重大犯罪を起こした逃亡者「シューミッド姉妹」を捜索していると、そして男の容姿がその妹の方に似ていたから武器を構えてしまったのだと伝えた。
疑われた男は捜索隊がどのくらいの規模で動いてるのか、そして自分を捜索隊に雇い入れてくれないか?と提案した。
兵士団は規模を教えなかったが、男の装備を見て、どの額なら雇えるか聞いた。
男はことの重さからかなりの手練だと考え、金貨100枚を提示してくる。
兵士団はそれは高額だと言い、せめて5枚にしろと伝えた。
男はため息をついて、それでいいと話す。
彼の目的は別にあって報酬は二の次なのだ。
兵士団は逃亡者が国外に出る前に捕まえなければと男を急かし、男と兵士団は森を小走りで抜けていく。
空には捜索隊のタカが飛び逃亡者を探す。
男は考える、王宮を壊すほどの力を持つなら捜索隊の規模は想像を大きく超えるだろう。
今、王都から放射状に兵士団が散開しているだろう。
この隊じゃなくてもどれかが発見すれば応援要請は必ずと言っていいほど全部隊にかかる。
なら、この隊を捨てて私だけ向かえばいい。
男は光る眼光を細めて、ニコニコと笑った。