4話前編 ユイレ・アルバロン
破壊されたバルコニーと客間。
今まで暮らしていた普通が一気に崩れていった。私の今後起こるイベントはある程度予想を立てていたのだ。
悪役令嬢を告発し虐げられてきた現状を改善し地位を得る。
そして王子の信頼をかっさらうことも出来た。おかげで辺境だと罵ってきた王宮直下の令嬢にも復讐した。
アルバロン家も復権しある程度の実権を握っている。
そして、最後の目標。
私は敵だったものと仲良くなってその子も救うつもりでいた。これは私の偽善かもしれないが、自分の手で人間をどん底に落とした、経験など持ちたくなかったのだ。
私は聖女のように生きていきたかった。
もう…。それは無理だ。
この世界に生まれて17年。
それなりに頑張ってきたつもりだ。エルドレッド王国の歴史や政治を分析しどう貢献して行けるか模索もしていた。
あの時は楽しかった。もう一度、学生というものを味わえたから、まるで人生をリセットしたような。
ゲームだったらどうだろうか?
これはトルゥーエンドを指しているのか
それともバッドエンドか。
「お嬢様!?はやくお逃げ下さい!行きましょう。」
執事や奉公人、使用人が私を連れていこうとする。
逃げてどこへ行くというのだ。このまま隠れて、危機を回避しシューミッドは排除しました、お疲れ様でした。
アルバロン家は流石だなと、シューミッドを全て排除した王宮の守護者だと評されるのか?
それか、王宮を実質破壊した迷惑物として扱われるか。
しかも私は宣言している、シューミッドに不可侵であると。
私が放心状態になっている間、外は騒がしくなってきて周りにいた人間も散っていった。
結局、お前らも自分が可愛いのだ。だれも私を最後まで守ってくれるものなど、こんな戦争状態のようになればいなくなる。
瞬間、私の視界に黒い塊が降ってくる。
それは大量の銃弾を受け大量の血を流していなかった。
流せる血も流し尽くしたのだろう。
最後は巨大な散弾をくらい壁に叩きつけられた。
私はそれを見て吐いた。
しっかりとソレを見ようと確認しようとしても嗚咽してしまう。
ソレはフラン・シューミッドだった物だった。
「う、おぇ…。ふフランさん!!」
私が近づいて顔を支えてあげても目は焦点を合わせない。
顔の角度を変える度に目はクルクルと回る。
「ねぇ!!フランさん…起きて起きてよ!」
代わりに壊れかけたヘンテコな機械音が返事する。
〖エネルギー0%、戦闘継続不能…パージします。〗
フランに着いていた兵装全てが離脱して四肢がもげた彼女がずり落ちてきた。
私はそれを抱き抱える。
何度も、何度も謝った。あなたを殺したのは自分だと。
悪役だとしても、その人にも人生があって家族や友人がいる。正義を執行するにはいつも犠牲は付き物だと人は言う。
そこで生まれる死は……。必然的なものだと。
正義は「カッコイイ」ことではない。
そんな意味とは程遠い恐ろしいほどに「自己中」な考えである。
「正義を貫く」ということは
「自分の考え・信条」が通るためならどのような手段を使っても実現させるという意味が含まれる。
ということはそのような利己的な目的のために関係のない人たちまで
騒動や暴力に巻き込まれて場合によっては死んでしまっても
やむを得ない。
巻き添えを食わない「正義」なんてのはおそらく皆無。
そんな講義を遠い昔、受けた気がする。
でも、私は多数が良いと思える方向へ進ませた。
覚悟もなかったのに。
泣き続けていると、フランのおでこが開き中からチップが出てくる。
私はそれに見覚えがあった気がした。
機械から出てくるもの…メモリー…記憶…データ。
私はそれを渡してならない。壊されていけないものだと理解する。
「ごめんなさい、フランさん。あなたのお墓は後で必ずつ、つくり…ますから。」
泣きじゃくる顔を拭いて立ち上がる。
ケジメをつけよう。
この惨劇に…。私が終わらせるのだ。
始めることに遅い早いもない。やるかやらないかなのだ。
私はチップを握って屋敷の廊下へ飛び出て階段を駆け下りる。
高い靴やドレスなどいらない、この場面で男性に媚びる必要などない。運動をしていなかった自分を恨むように太ももを叩く。動けと、走れと。
ノワールさんの落下したのはバルコニーから見えていた。
場所に検討もついてる。
どうか間に合って、ノワールさん、生きていて。