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転生




HRが終わり終業のチャイムが鳴った。

俺はカバンを担いで教室から一目散に飛び出し隣のクラスのドアを3回ノックした。

「はい」

教室から女性教師の返事がきたあと引き戸を開ける。


「タカっ!行くぞっ」


「おう!そういうことだから先出るわ。」


「コースケくん、いくら中村くんと仲がいいからってこっちのクラスじゃないのだから」


「ごめん、先生!今日はデビハン最新作の発売日だから!」


タカこと中村孝と俺は先生の話を流して、廊下を駆け出した。終業すぐだったこともあり下駄箱まではガラリとしていて非常に走りやすく駐輪場まで3分でつく。


「おい、タカ。あれみろよ!生徒指導の山下だぜ。」


「はぁ?校門で出待ちってまじ!?」


「よっしゃ、柵のぼるべ。」


「いや、自転車どうすんだよ!」


「俺らは天下のDKだぜ?店まで余裕だろ!」


俺たちは運動場と校外の道路の境に置かれたフェンスによじ登った。


「お、お前ら!待ちなさい!」

校門から山下の怒号が聞こえた。


「コースケ、早くしろって!」


「余裕だっつーの」

2人は山下が近づく前に道路へ降り、店まで駆け出した。

学校から街のゲームショップまでは1キロ程度でそう遠くない。


「なぁ、近道していこうぜ。」


「近道ってどうやって?」


俺は視界に入っている廃屋を指さした。

その廃屋の元はこの土地を収めていた地主の物で縁の深いものであり長年取り壊されていなかった。

しかしその廃屋さえなければ街へ直通の道路が作れたのだと以前、親父から聞いていたのだ。


「コースケ、あそこは入るなって…」


中村は走る速度をおとして俺を止めようと促す。

幼稚園からの腐れ縁だったから彼の性格はよくわかる。中村は怖がりだったのだ。今から行くのは廃屋。しかも結構年季の入った建物だ。


「何言ってんだよ。小学生の頃はみんなで行ってたじゃん。」


「あの頃は、あれが大切な土地だって知らなかっただろ?」


とうとう彼は立ち止まってしまった。


「うるせぇ、俺は先行ってっからな。」

中村を置いて俺は廃屋へ進んで行った。

ま、今日買えなくて後悔したって俺は知らねぇ。存分に楽しんでやる。


廃屋の門はひしゃげていて簡単に入ることが出来た。

俺は昔から馴染みあるルートで近道していく。所々腐っていたが安直に大丈夫だと考えて先を急いだ。

この廃屋は庭園付きの長屋で地主が生きていた頃は地区をあげての祭りもここで開催されていたそうだ。

30年前の話だけどね。



「コースケ!?どこだよ…」


俺が入ってきた門の方でタカの声が聞こえた。

あいつ、結局来たのかよ。しょうがないやつだな。迎えに行ってやるか。


「そのまま、直進してこい!あのルートだ!覚えてるだろ?」

俺も中村の方へ向かいつつこっちへも近づいてもらうため道を教える。


「おーい。まだ壊れてなかったのかよそれ。」


中村がヘラヘラと笑いつつ俺と合流した。

なんだ、全然行けるじゃん中村。入っちまえば怖かねぇな。


「んで、こっから忘れたんだけど。」


「おい、嘘だろタカ?毎日通ってたのにそりゃないぜ。」


「何年前の話だよ。忘れるって…」


「タカ、お前ここでゆみちゃんに告白したの覚えてねーの?」


「はぁ俺が?なんでこんなとこで。」


「俺も知らねぇよ。そんなこと…。確か誰かがゆみちゃんに告ったって話聞いた途端にだったけ?」


「いや、バリバリ覚えてるよそれ。」


そっか?みたいな感じの顔をしたら中村が笑う。

俺もそれにつられて笑った。俺たちはゲラでもあったのだ。おかげでクラスでは少し浮いてる。

いや、逆に面白いからいいと思うんだけどさ。


「あはは、はぁ。くるし…タカ。さっさと先行こうぜ。」


「s、そうだな。早くやりてーしなデビハン。」


そしてとある畳を踏んだ途端、俺の視界は一気に下降した。

次に感じたのはぬめっとした感触と滲み出てくる汚水であった。


「くっそぉ。腐ってたかぁ…おいタカ大丈夫か?」


俺は中村の方を向いたとき瞬き出来ずにその光景を眺めてしまった。彼は胴体に折れた支柱が刺さっていた。

腐っていた畳の下には折れた木材があった。

それと同時に俺のすねにも痛みが走り見ると木片が刺さっている。


「いってぇ……。おい、タカ!?生きてるか?ごめん…俺のせいだ。近道なんてするって言ったから。」


中村の目は虚ろで俺を見ていなかった。自分の腹を見つめてビクビクと震えていた。


「タカ?タカ…おい。こっち見ろよ。」


何度も呼びかけるが全く返事をしない。

俺は埋まった体を出そうと畳を押すが、グジュっとした柔らかい感触と水が染みでるだけで逆に沈み込む。

ダメだ。ほかの誰かに協力してもらわないと。

当たりを見渡すが俺たちは廃屋の奥の方にいて人の気配はしない。そりゃそうか。ここは誰も入らないもの。


「コースケ…。お前のせいじゃ…ないよ。」


「タカ!?意識もどったか!」


「いや、虫の息ってやつかな…」


「なんだよ、それ。」


「ついて行く選択をしたのは俺だ。自分でこうなる運命を選んだんだから、コースケのせいじゃない。」


「おま、なに最後みたいなこと言ってんだよ!俺らまだデビハン買ってないぜ?」


「コースケはいつも前向きだよね。俺たちは小さい頃から一緒で死ぬ時も…」


中村の声はだんだん弱くなっていく。

よく見れば刺さった支柱の先は赤く染まって、下の汚水と混ざってよく分からない色をしていた。


「おい、タっ!」


喋った瞬間地面の底がとうとう抜けて俺は溜まった水の中に沈んで行った。バラバラと水の中で音が鳴ってどんどん下へ落ちていく感じがする。

息が出来ずにもがけばもがくほど深みに落ちていく。


タカぁ!


声を張っても口に汚水が入りむせかえる。

体の中に泥が入っていく。しだいに呼吸が出来なくなって、泥水に圧迫されて、肺が痛くなって、今まで味わったことの無い苦しみが俺を襲った。

落ちて1分後、おれの意識は途切れた。

その1分は長く永久だと思えるほどだった。




























「どう?これがあんたのやってきたことよ!」


「滑稽だこと。あんたにはお似合いだわ。」


「無様にもがきなさいよ!このブタ!」


うるさい。

誰だよそんな罵声を浴びせるやつは。

最悪だ。全身びしょびしょ。たぶん泥か。

タオルとかねーか…あ、布かこれ。


「はぁ!こいつ私のドレスで拭きましたわよ!」


「それはあなたが避けないからよ。」


「ブタの分際で、顔が洗えるとでも!?」


ドスっ。


腹に1発、大きな蹴りを入れられた。

しかし、顔を泥に付かないようガードしたため目を開けることに成功した。


視界には3人の女がたっていて重厚なドレスで身を包んでいた。容姿はとても綺麗で一瞬モデルに見えたが、顔の血相が怖くイメージは一気に下がった。


「俺が何したってんだよ!」


「あら、ブタに成り下がった上に知能もお下品とはそれはもうブタ以下ね。ドブネズミに格下げだわ」


「「あはははっはh」」


俺は笑う3人の美女?にメンチを切りながら立ち上がった。

瞬間、スネに打撃を受ける。


しかし、サッカーで培われた体幹で耐えた。


「こ、こいつ…。」


蹴った張本人は驚いたようで1歩下がった。


「消えろ!!」


俺はそれに合わせて怒鳴り声をあげる。


「ひっ!」


その声に萎縮したのか3人はおずぞずと下がっていく。

いや、そんな覚悟なら喧嘩を振ってくるなよ…。

3人は俺から一定距離離れたあとダッシュで逃げていった。

ドレスを着て走る時ってまじで裾を掴んで行くのか。


はぁ、なんでこうなったかねぇ…。

俺はいじめられるようなことしたっけか?


そうして自分に目線を落とした時、全身が泥まみれになっていた事とスネに大きな切り傷があることに気がついた。

それと同時に頭痛がおき、しゃがみこんでしまった。


「嘘だろ…。」


俺はしゃがんだとき胸に違和感を感じる。

恐る恐る触れてみてわかった。


いや、服も擦り切れててわからなかったが俺もあの3人と同じようなドレスを着ていた。


なんてこった…。


俺はあの時、廃屋の穴に落ちて…。


「タカっ!そうだ。俺が生きてるならあいつも!」


しかし、周りを見渡してもここには俺しかいなかった。


あたりは鉄の壁に囲まれた路地。

俺は落胆したまま、路地の出口に向かって歩いていった。壁にはたくさんの配管が付いていて綺麗なドレスとは全く合わない黒いものだ。


路地をでて目に入ったものは機械づくし。


いや、全然メルヘン違うやん!

ドレス関係ないやん!


どこ見ても蒸気が上がりプシューっと鳴っている。



街ゆく人が泥まみれの俺をチラチラと見てくる。

うー。視線が痛い。

明らかにここは工場地帯。泥だらけのドレスを着ていても俺は多分、ここの人達より階級は上だろうな。


だって遠くに綺麗な城が見えるんだもん。

蒸気で出たり被ったりしているがここから見てもくっきりと輪郭がわかるくらい景色と合ってない。



俺が何することも無く城を眺めていると。

目の前に1台の馬車が近づいてきた。



「ノワール姉様ぁ!お迎えにあがりましたぁ!」



んな!?

人形にような白い肌に真白の髪。除くは朱色の瞳が2つ。

さらに純白で飾られたドレスを着ている。


今、俺を姉と呼んだか?

もしかして妹なのか?


彼女が乗った馬車は俺の目の前で停止し、扉が開いた。

中には先程の女性がいて、おしとやかに座っているではないか。俺は躊躇せずに階段をあがり馬車に乗った。





「今朝、ノワール姉様が誘拐されたとお聞きし市内を駆け回っていたところです。まさか貧困街にいらっしゃるとはグレーズ家の三姉妹には一杯食わされましたね…。でも、ノワール姉様のやってきた事と比べると些細なものでしょう?うふふふふ。」


泥をかけられ、蹴られ…それのどこがささいだって言うんだ。

この世界の住人は頭がぶっ飛んでるのか?


「あら、随分しおらしいですわね。ノワール姉様…よっぽどこたえたのでしょうか?」


俺は多分あの城に向かってそうな馬車に揺られながらぼけーと窓の外を眺めた。どこを見ても城が視界に入る。

街は城から円状に広がっていて、街道は螺旋状になっているのだろうか?


しかし、目の前の彼女はよく喋る。

俺が聞いてないにも関わらず俺、いやこの体が過去に行ってきた残虐非道を延々と話しているではないか。

まぁ、聞いたところこの国は王政で王子が25の誕生日を迎えるまでの5年間をかけて妻となる人物を選ぶ制度が決められているようだ。王子は全員で3人。ちょうど2年単位で25歳になるようで今年は1番上の王子が25歳。そして、ついこないだ正妻の発表が行われた。


同時に国の暗部がこの体ことノワールの罪を顕にした。

罪と言うのは財力をチラつかせ自分の手駒にしたり、逆にそれで陥れたり、毒による殺害未遂もしたようだ。



ははーん。

では、ノワールこと俺は罪はバレたが王宮追放や投獄はされていないと…そして、絶賛それに不服な王女候補が精神攻撃に来ているのか。


ははーん。

俺は悪役令嬢の魂に転生したってのか。


俺のゲーム脳が瞬時に答えを導き出した。

窓を見ていなければにやりとした表情をこの妹にバレていたことだろう。こいつがノワール側だと良いのだが違った場合は殺されかねん。


彼女はマシンガントークを終え、俺に話を振ってきた。


「ノワール姉様はこれからどうされるのですか?」


「どうされるのか、と言われてもなぁ。王宮に行く方が危ないのでわ?」


「まぁ、確かにそうですけど王国中に姉様の行為は知れ渡っておりますのでどこに行っても同じ境遇になります。」


彼女はにこやかに笑った。

いや、嘲笑った。


「なら、王宮の方が比較的安全みたいね…。」


「あ!でも知らされていないとこがありますよ!貧困街です。あそこには新聞社もないですから情報は月に一度のラジオ周回のみ。ノワール姉様の開示は2週間前ですので今戻っても大丈夫ですね!」


こいつ、俺にもう一度あそこへいけと言うのか。

確かに男心燻られるとこであったけど貧困街という名前で行きたくない。


「ノワール姉様。城門が見えてきましたよ。やっとシューミッド家の担当領地に帰って来れますね。んー、ノワール姉様の机は無いかもですけど、ふふ。」


こいつ、味方なのか敵なのかどっちなんだよ…。

だがしかし、ここで諦めてはせっかく助かった命がもったいない。俺なりに全力で足掻いてみるか。


前世の贖罪の意も込めてな。







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