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5話

「まずはぼく達の自己紹介だね。ぼくは風の精霊! そして右から火・水・地の精霊だよ!」


「せ、精霊、ですか? えっと、失礼ですが幻覚……じゃないですよね?」


「んー、レフティアちゃんの時みたいに思いっきり頬を(つね)ってあげてもいいけど、動くの面倒くさいからいいや!」


 そこは同じように抓ってよ! って心の中で突っ込みを入れたくなる。

 それにしても自分の肩から声が聞こえてくるのはとても不思議な気分だ。

 他の精霊さんたちも気づいたら私の体やベッド上に定位置を見つけて寛いでいた。


「わ、分かりました。とりあえずあなた方が実在する精霊さんだということにして、続きを聞かせてもらっていいですか?」


「うんうん、物分かりが良くていいねえ。で、ここにいる彼女がぼくの友達(・・)のレフティアちゃん!」


「あ、はい。えっと、レフティア・アーヴェンブルグ、です」


 風の精霊さんに促されるままに私の名前を明かした。

 苗字を口にするのは少し躊躇ったけど、こういう場面ではフルネームを名乗るのが礼儀だと判断してアーヴェンブルグの姓を名乗った。

 そういえば私、まだこの人の名前を聞いていなかったな。


「っと、ここはぼくも名乗らないとね。僕の名前はアスティ。アスティ・ニールハルト。この国の王族に連なる者だよ……一応ね」


「っ! 王族の方だったとは! ご無礼をお許しください!」


「うわわっ! 急に動かないでよっ」


「あっ、ご、ごめんなさい!」


「ああ、そんな無理に起き上がらなくていいよ! 王族って言っても僕に権力なんてほぼないしね……」


「……そうなんですか?」


「まあ、いろいろあってね……」


 そう言って苦笑いして髪を掻くアスティ様。

 何か深い事情を抱えているのだろう。

 今のわたしにはそれを聞く(すべ)を持ち合わせていないので、黙って頷くに留めておいた。

 それから風の精霊さんは私の耳元まで飛んできて、「これからぼくが上手いことレフティアちゃんの状況を説明するから、適当に頷いておいて!」と耳打ちをした。

 それが済むと、任せて! と言わんばかりにグッと親指を立てて再び私の肩に乗った。


 それから風の精霊さんが語った内容は、嘘ではないけれど本当のことをいくつか隠したものだった。

 私レフティアは、アーヴェンブルグ侯爵の平民の(めかけ)の子で、家ではいつもぞんざいに扱われてきた。

 そしてこの顔のアザは、幼い時に顔が気に入らないという理由でつけられた呪術的な刻印であること。

 精霊さんたちとは幼いころに偶然出会って友達になったこと。

 そして15歳になったのを機に家を追い出されて、自分の居場所を顔のアザを消す術を求めて彷徨っていたところで崖崩れに合って今に至る――という設定を、一回も詰まることなく爽やかな声で言い切った。


「なんとか命を護ることはできたけど、ぼく達にはこれで手一杯で……そこに運よく駆けつけてくれたのが君というわけだ」


「そんな過去が、あったんだね。酷すぎる話だよ……」


 私は妾さんの子供じゃないし、顔のアザも生まれたときからあったものだし、一応は追い出されたわけじゃないけれど。

 確かにその説明のほうが私にとって都合がいいかもしれないと、そう思った。

 そしてアスティ様は私の境遇に同情してくれたのか、悲痛な顔をしている。

 かと思えば、こちらに急接近して私の手を取り、


「分かった。こうして出会ったのも何かの縁。これからは僕が味方になろう。まあ……名前だけの王子にできることは限られているけれど、出来る限りのことはしようと思う」


 そう言って気恥ずかしそうに笑うアスティ様を見て、私は何か心の奥から惹かれるものを感じた。

 そして私の手をやさしくベッドに置きなおしてから、


「ちょっと待っててね。用事を済ませてくる」


 そう言って再び部屋を出て行ってしまった。


「よーし! 作戦の第二段階も無事成功だね!」


「ふっ、やはり口と人間の扱いは〝風〟が一番上手いか」


「だな。オレならあんなぺらぺらと出まかせ言えねーわ」


「ふふ、混乱させてごめんなさいね、レフティアさん」


 アスティ様が出て行ってから、ほかの精霊さんたちも喋り出した。

 なんというか、私だけ置いてけぼりになっている感じがしてもやもやするけれど、精霊さんたちが私のために動いてくれたということは十分に伝わってきた。


「えっと、本当のところはどうなんですか? 私はどうしてこのようなところに……」


「それに関してはあのアスティくんが言っていた通り、崖下で倒れていたレフティアちゃんを保護して連れ帰ったってだけなんだけど」


「崖崩れを引き起こしたのはワシということだ。あの王子サマがちょうど近くを通りかかるタイミングを狙ってな」


「〝風〟が言うには、あの王子サマはどうも他の精霊たちからの信用度が高いんだと」


「ですから事情を話して行く当てがないと言えばきっと助けてくれるだろうと踏んだのです」


「ま、もちろん不埒な目的でレフティアちゃんを連れて行ったのならぼく達が手を下していたけど、そんなことはなくて良かったよ!」


 そう言って笑い合う精霊さんたち。

 なるほど、そういうことだったんだ。

 確かにその作戦は上手くいって、アスティ様が色々助けると言ってくれたけれど……


「皆さんのお気遣いはとてもうれしいのですが、なんというか……アスティ様の善意を利用しているようでとても申し訳ない気分になってしまいます……」


「んー、まぁそれについては否定できないし、ぼく達はキミさえ幸せになってくれればそれでいいとは思ってる」


「……でも」


「でも大丈夫さ! 彼ならきっと利用されたと知ってもキミを助けたことに後悔なんてしないだろうし、それに――ね」


「――ああ、そうだな」


「ですわね」


「うむ」


「……?」


 精霊さんたちだけで何か意味のありそうな納得をしている。

 なんだろう。とっても気になる。


「ま! 今はゆっくりと休んで、これからのことはまた考えよう! それじゃ、ぼく達はちょっと出かけてくるね!」


「あっ、ちょっ――」


 待ってください。そういう前に精霊さんたちはあっという間に飛び去ってしまった。

 ちょっともやもやするけれど、まだ体が少し怠いのでもう少しゆっくりさせてもらうことにしよう。

 今は何も、考えたくない。

 ああ、それにしても風の精霊さんが言いかけた言葉、気になるなぁ……


 ――例えどんな出会い方だったとしても、彼ならきっとキミを最後まで守ってくれるよ! 何故なら――


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