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3話【精霊視点】

「私が普通に生きていくことを許してくれる場所が欲しい、かぁ……」

 

 夜風と共に小さな手で彼女の長い髪を撫でる。

 きっと疲れが溜まっていたのだろう、話している途中で倒れるように眠りに落ちてしまった。

 そんな彼女の体を〝風〟がゆっくりと浮かせてやった。


「さて、どうしようかみんな」


「話を聞く限り、あいつをこのまま家に帰すのはよくねーと思うぜ」


「同意ですわ。ですがずっとここに留まっているわけにもいきません」


 レフティア・アーヴェンブルグ。

 貴族の娘に生まれながらも誰からも愛されず、むしろ憎まれながら生きてきた孤独な少女。

 精霊たちの王として皆から頼られ、愛され、導き手となるべき存在だったはずの彼女が。

 まさかその王の証のせいで迫害を受けていたとは思いもしなかった。


 なにしろ彼らはつい先ほど目覚めたばかり。

 王が不在の間はずっと眠りにつきながら、この地の自然を守り続けてきた。

 そして待望だった王の帰還、そしてその呼び声に応じて嬉々として駆け付けたというわけだ。


 レフティア・アーヴェンブルグは力を得た。

 これが意味することはつまり、彼女を迫害し続けた王国の民、彼女を嵌めた妹、そして彼女の純心を弄び裏切った王子に復讐することも可能になったというわけだ。

 しかし、彼女は直接的なそれを望まなかった。

 いや、そんな激情すらも湧きあがらないほど疲弊していたのだろう。


「〝風〟よ。主を運べ。ワシらの手で主が平和に暮らせる場所を探そうではないか」


「それは構わないけどさー、ちゃんとキミたちも手伝ってよね!」


「おいおい〝地〟よ。オレ達がこの地を離れたらどうなると思っているんだよ」


「それがどうした〝火〟よ。ワシらがこの死の大地(・・・・)(よみがえ)らせたのは、先代の王がそれを望んだからだ。断じて人間どものために善意でやったことではない」


「それにわたくし達の王を迫害したなど国よりも彼女に着いていく方がずっと大事です。言い方はよくありませんが、彼らの国がどうなろうとわたくし達には知ったことではありません」


「〝水〟も言うねー。もしかしてちょっと怒ってる?」


「気分はよくありませんね。王であることももちろんですが、こんな可愛らしい女の子を傷つけるなんて、そんな人間の気が知れません」


「まーそうだな。正直オレも人間より(あいつ)のほうが大事だ」


 精霊たちの意見はすぐに一致した。

 そもそも今の人間たちが精霊の存在をほとんど気に留めていないのと同じように、超自然的存在である精霊にとっても人間のことは大して重要だと思っていない。

 そんなことよりも、せっかく姿を現した王をすぐ傍で護ることのほうがずっと大事だ。


「よし、じゃあぼくが風に乗せて他の精霊たちに聞いてみるよ。どこかいいところはないか、ってさ」


「おいおい、そんな曖昧(あいまい)な聞き方でいいのかよ」


「うるさいなー、急いでるんだからいいでしょ。それ、いけ!」


 〝風〟の精霊の呼び声は、音よりも早く空を駆け、各地に散る同胞たちへと届けられる。

人間に近い知性と姿形を持つ精霊は数少ないが、そうでない精霊ならこの世界にたくさんいるのだ。

 その数はそれこそ人間の個体数なんかよりもずっと多い。

 そんな同胞たちの小さな情報をかき集めることで、愛しい王の安住の地を探し出すのだ。


 これがこの地に吹く最後の安らぎの風かもしれないな。

 そんなことを思いながらも、〝風〟は夜の世界を駆けていった。


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