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2話

 私は結局、何者だったのだろう。

 生まれ持った顔のアザは、なんだったのだろう。

 答えは最後まで分からなかったし、これから分かることもないだろう。

 何故なら私はそれを知る機会を永久に放棄したのだから。


 でもなぜだろう。

 どうしてか、不思議と体が軽くて暖かい。

 実体のない優しい何かに包まれているような、そんな不思議な感覚だ。


「お、目が覚めたみたいだよ!」


「まったく、あと少しで取り返しがつかなくなっていたところだったぜ」


「まあ結果としてお救い出来たので良かったではありませんか」


「フッ、腐っても我らがの主というわけか」


 声が、聞こえる。

 誰の声だろう。

 分からない。

 でもなんでだろう。この4つの声に、親しみを覚えている自分がいる。


「――ぅ、ん」


 ゆっくりと体を起き上がらせ、目を開く。

 暗い。夜の世界だ。

 そして私の目の前には、こちらを覗き込む4人の見知らぬ男女がいた。

 

 一つだけわかることがあるとすれば、彼ら(・・)は人間ではない。

 何故なら、4人の背には羽が生え、その体は私の手のひらに乗るくらい小さかったからだ。

 誰だろう。こわい。それとも、これは私の幻覚?


「やあやあ、気分はどうだい?」


「えっと、大丈夫……です。その、あなた方は一体……」


「ぼく達に名前はないよ。でも人間はぼく達のことを〝精霊〟と呼んでいる」


「……精霊?」


 聞いたことがある。

 私が生まれた国、エルメリア王国は、四種の精霊の加護の下に成り立っている、と。


 地の精霊が荒れ果てた大地を鎮め、風の精霊が濁った空を整え、人間が住める環境を創り出した。

 そして水の精霊がこの国に美しく豊富な水資源を与え、火の精霊が生み出した鉱石は民に手軽な火起こしの手段を与え、人々の生活を豊かにした。

 

 昔読んだ本に、そんなことが書いてあった気がする。


「そう、精霊さ。ちなみにぼくが風の精霊!」


「オレが火の精霊で」


「わたくしが水の精霊」


「そしてワシが地の精霊というわけだ」


 緑の光を纏う風の精霊、赤の光を纏う火の精霊、青の光を纏う水の精霊、茶の光を纏う地の精霊。

 夢でも、見ているのだろうか。

 だって私はさっき――


「あいたたっ!!」


「だいじょーぶ! ここはあの世でも夢の世界でもないよ! ほら、立って立って」


 風の精霊さんに頬を思いっきり(つね)られた。

 だけどそのおかげでぼんやりしていた視界がはっきりとした。

 ここはあの世なんかじゃなくて、さっきまで私がいた現実の世界だ。

 そのことを理解した私は、ゆっくりと立ち上がった。


「えっと、その。色々聞きたいことがあるんですけれど、まずその、なんで私は無傷で生きているのでしょう」

 

「それはそこの〝風〟が、空気のクッションを作ってアンタを受け止めたからだ」


「へへ、本当ギリギリだったよ。あと少しぼく達を呼び出すのが遅かったら、キミは死んでいたんだよ?」


「そ、そうなんですか……? でもどうして精霊さんたちが私なんかを助けたんですか?」


「それはお主がワシら精霊の王だからだ」


「精霊の王、ですか?」


「その通りです。昔、わたくし達の王だったお方はこう仰りました。今より数百年後、お前たちの王となるべき人間の少女が誕生する。その王たる者がお前たちを呼んだときは、力になってやってほしい、と」


「そしてその新たなる王は、前の王と同じ精霊紋(せいれいもん)が体に刻み込まれておる、とな」


「それってつまり――」


「その顔のアザだ。それがオレ達精霊との繋がりの証。で、その紋を通じてアンタがオレ達に助けを呼んだから、こうしてわざわざ来たってワケだ」


 待って。状況が呑み込めない。

 この忌々しい顔のアザが、精霊さんたちを私をつなぐ精霊紋で、それを持っている私は精霊の王??

 いきなりのこと過ぎて理解が追い付いていない。


「だいじょーぶ? 今の説明で分かってくれた?」


「まあ今すぐにすべてを理解する必要はねえだろう。ただ今日からオレ達がアンタの味方に付く、ということだけ覚えていればいい」


「己の身を投げる、などという愚かしい行為に走るにはきっと何かしら重い悩みを抱えておられるはず。なんでも、というわけにはいきませんが、わたくし達に叶えられる願いは叶えましょう」


「そういうことだ。ワシらの力、どう使うかはお主の自由。さあ、言ってみるがいい。お主はワシらに何を望む」


 何を、望む?

 急にそんなことを言われても……

 私の願い。私が欲しいもの。私がしてほしいこと。

 なんだろう。いっぱいありすぎて、逆に何も思い浮かばないよ。


 でも、そうだな。

 本当に願いをかなえてくれるのなら、一つだけ。

 私がいつも夢見ていた、そんな些細な願いを。


「わたしは――」


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