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蒼いクジラとネジ巻き人間  作者: JEDI_tkms1984 (原案:黒蜥蜴)
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3 調達屋-1-

 日が沈み、民家の明かりもまばらになった頃。


 ダージは音を立てないように通りを横ぎった。


 目指すは同業者の間で”第3の聖地”と呼ばれている東の丘。


 この辺りで3番目にクジラの恩恵が多く降る場所、という意味だ。


 普通は恵みの雨が降ると同時か、やや間をおいて飛び込むのが定石だが、彼は敢えて数日後のこの深夜を選んだ。


 もちろん目ぼしいものは採り尽くされているだろう。


 行ったところでそれこそガラクタしか残っていないにちがいない。


 ――というのは素人の考えだ。


 探してみれば意外と宝はどこにでも転がっているものだ。


 それにモノの価値は人によって異なる。


 骨董品のように意外な物に高値がつくことだって珍しくはない。


 この業界で成功する秘訣は一に目利き。


 次いで必要なのは、無価値と思う物でもとりあえず持ち帰る貪欲さだ。


「今日は月が出てないからな。足元に気を付けろよ」


 今夜は仲間のクイとネメアも一緒だ。


「気を付けるのはお前だろうがよ! 連中はどこから襲ってくるか分からんぜ!?」


 クイは大笑した。


 この屈強な男はダージが雇った用心棒だ。


 周辺には稼ぎを横取りする賊も多く、万が一のときのための保険だ。


 現に数日前、貴重な獲物を強奪されてしまっている。


「ま、もらってる分はしっかり働くから、安心してくれやっ!」


 彼は拳を鳴らして豪快に笑った。


 ダージは舌打ちした。


 どうも彼は品性に欠ける。


 筋骨隆々で頼りにはなるが、もう少し思慮深さが欲しいところだ。


 これでは何のために人目を忍んで行動しているのか分からない。


 そもそも賊を避けてこの時間帯を選んでいるのだから、目立ってしまっては意味がない。


「あんた、ちょっとは静かにしなよ。ご近隣の皆さまの迷惑になるだろ」


 もうひとりの用心棒、ネメアがたしなめる。


 こちらは女ながらボディガードとしての体力や腕力は男に負けていない。


 見た目にも強そうだがそれだけでなく、女性特有のしなやかさも見える。


 わざわざ深夜に行動するという、隠密性が必要な理由をちゃんと理解しているようだった。


 次からはクイを雇うのはやめよう、と思いつつダージは闇にまぎれるように町を移動した。




 目的の聖地までは町を出て、さらに数十分ほど歩かなければならない。


 途中の道は整備されていないから、移動には意外と時間がかかる。


 ダージたちは小さなランプを手に、丘を目指す。


「お前さんよう! なんでわざわざこんな遠い場所を選ぶんだ?」


 先ほど注意されたばかりだというのに、クイはまた大きな声で言った。


「漁り場なんて他にいくらでもあるじゃねえか」


「静かに……! あるものを回収しに行くんだよ」


「あるものって何だ?」


「行きゃ分かる。無事に持ち帰れたら報酬を上乗せしてやるよ」


「そりゃ景気がいいや!」


 どうやら静かにしろ、というのは彼には難しい注文のようだ。


 なだらかだった道に勾配がつきはじめる。


 ランプの灯をしぼり、できる限り自分たちの存在を隠す。


 ダージは微苦笑した。


 この仕事を始めて間もない頃、落下物による負傷を避けるため、今のように日が沈んでから出かけたことがある。


 その時、辺りにほのかな火がいくつもゆらめき、彼は人魂が出たと言って慌てて引き返した。


 仲間にそのことを話すと、あそこで死んだ者たちの霊が成仏できずにさまよっているという。


 怖くなったダージはしばらく夜の外出を控えていたが、のちに人魂の正体が同業者であることを知る。


 彼らが持っていたランプだ。


 幽霊の話が広がったのも、おそらく競争相手を減らすための策略だったのだろう。


 いま自分がその人魂になっていることに、ダージは妙な懐かしさを感じていた。

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