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蒼いクジラとネジ巻き人間  作者: JEDI_tkms1984 (原案:黒蜥蜴)
3/101

2 修理-1-

 ドアを激しく叩く音にカイロウは目を覚ました。


 ぼんやりした視界に時計が映る。


 午前9時を少し過ぎたところだった。


「ドクター、いらっしゃいますか!」


 彼のことをこう呼ぶ人間は限られている。


 それにこの凛然とした女の声。


 助手のリエにちがいない。


 カイロウは慌ててドアを開けた。


「いつも起こしてもらってすまないな、リエ君。急患かい?」


「ええ。ついさっき運ばれてきました。子どもが2人に、大柄の男性が1人です」


「部位は?」


「全て左足です。全損はありません」


「なら庭に置いてあるパーツで足りるな。きみ、いつもの場所から部品を車に積んでおいてくれ。私もすぐに準備する」


 カイロウは素早く顔を洗って身支度をすませる。


 彼が外に出たころにはリエは頼まれたことを全て片付けていた。


「手際がよくて助かるよ」


「仕事ですから」


「ああ、それから、私のことをドクターと呼ぶのは――」


「飛ばしますよ! しっかりつかまっていてください」


 助手席に座ったカイロウがベルトを締める前に、リエは既に発進させていた。


 このあたりは悪路が続くせいで車体が激しく上下する。


 だがそれを差し引いても彼女の運転はスピードを優先した危険な走行だった。


「もうちょっとゆっくり走れないか? パーツが壊れたらどうする」


 対向車と数センチ差ですれ違うのを見てカイロウは胆を冷やした。


「ちゃんと緩衝材で包んでますから!」


 車は砂利を蹴り飛ばすようにして坂道を登っていく。


「ああ――手際がいいな、本当に」


 彼は巻いた舌を噛まないように口を噤んだ。




 違反すれすれの走りのおかげで、目的地である作業場には5分ほどで到着した。


 待っていたスタッフが駆けつけ、車から荷物をおろす。


 その間に2人は術衣に着替え、全身を消毒して施術室に入った。


 整然と器具が並べられた部屋の中央。


 作業台に両手首と右足を拘束された男の子が横たえられていた。


「経緯は?」


「クジラの恩恵に飛びついた拍子に転倒したようです。そこに金属板か何かが落ちてきたようで」


 リエは淡々と述べたあと、一瞬だけ男の子を見てすぐに目を伏せた。


 彼の左足は膝から下がなかった。


「なにが恩恵だ。こんな目に遭ってまで」


 カイロウは男の子の顔を覗きこんだ。


 麻酔はしっかり効いているようである。


「始めよう。1番から3番までのパーツを持って来てくれ」


 スタッフによってただちに部品が運び込まれた。


 用意された様々な形状の金属を組み合わせ、まずは膝の切断部を円形状のチタンで覆う。


 そこに大小異なる棒状の金属を差し込み、ネジで固定。


「ん……このままでは駄目だな」


 持って来たパーツでは用途に少し余りがあったらしい。


 カイロウは小刀ややすりを使ってその場で長さを調節した。


「誰か、ここを押さえておいてくれ……そう、そうだ。そのまま向きを変えないように」


 ここからは繊細で複雑な作業が続く。


 強度を確かめつつ、可動部がスムーズに動くかを見る。


 パーツの組み立ては厳密過ぎてもいけない。


 常に動かす部分だからいくらかは遊びも必要だ。


 組み立てが終われば質感や色味に不自然さがでないよう、人工皮膚で外格を覆っていく。


「よし、これでいいだろう」


 カイロウとリエで入念にチェックする。


 最後に機器による検査を経て、異常がなければ施術は完了だ。


「検査結果が出ました。項目、全て正常です」


 リエが言うと、スタッフは安堵のため息をついた。


 実際にはこの後も定期的に患者の様子を診て、微調整を繰り返すことになる。


 義肢が完全にその人の一部となるには、最低でも半年はかかる。


 その場限りではない責任のある仕事に、カイロウはいくらかのやりがいを感じていた。

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