暗躍
奴隷やめました。
レミリアが退出した後、ベオウルフとノイマンは今回の件について話していた。
「見る限りレミリア自身は何も企んでなさそうですな」
「そうだろう? そんな器用な娘には見えない」
「しかし」
ノイマンは眼光を強めた。
「あれを扱った奴隷商人も、背後にいる教会も、何を企んでいるかわかりません」
世界には様々な信仰があるが、創造神を奉る宗教が最も主流で、各国にその教会が点在している。
各地の教会の元締めである教皇庁は、大陸中央にある「始まりの都」エテメンアンキ周辺の領地で自治権を認められており、中心人物である教皇は強大なガラリア帝国にすら発言力を持つ程の影響力を持っている。
教会は基本的に魔族を人族の敵と教義している。特に急進派の連中は魔族を滅ぼすことを目的とし、地上で暮らす魔族の村を攻撃する。ベオウルフもそのような部隊に仕官するよう誘われたことがある。
ベオウルフは断ったので、目をつけられている。
「せっかく仕掛けてきた乗ってみたのだ」
「そこは次から一言相談していただきたいですね。教皇庁の思う壺ですよ」
「もう異端者すれすれの扱いだからな」
「冗談ではありません。それから、あのニックという役人、身辺を調べてみました」
奴隷商とやりとりした役人、ニックについて、ノイマンの中では疑惑が膨らんでいる。
「まあ十中八九、教会の回し者だな。護衛無しで怪しげな奴隷商人に大金を渡しに行くつもりだったみたいだ。何か出たのか?」
「いえ。両親はおりませんが、この領の者でした。慎重になっているのか、尻尾は見せません」
「引き続き監視しておけ」
「かしこまりました」
外は暗くなりかけていた。
レミリアが厨房に行くと、丁度ノーラが食事を取りに来ていた。
「やっほーレミリアちゃん、ご飯終わった?」
「ノーラちゃん、こんばんは。ううん、何か貰って部屋で食べようと思って来たとこ」
「私も今からご飯なの。メイドの控え室で食べる決まりなんだけど、今ご飯は私だけだから一緒にどう?」
「え、行ってみたい!」
聞いていたホノが、一膳用意してくれた。
「はいよ、レミリア、昼は食が進まなかったみたいだね」
「ごめんね、ホノさん。お昼前にちょっとあって」
「食べれない時は減らすから言っておくれ」
「はーい」
メイドの控え室は、厨房の隣にある手狭な休憩室だった。
ノーラと晩ご飯を並んで食べる。
今日は鳥の香草焼きとサラダとスープだ。
「今年は少し不作気味だったんだって。穀物や野菜がいろいろ高くて、みんなのご飯を少しずつ減らしてるんだって。だからホノさんとかうるさいの」
「そうなんだ。それでも村のご飯よりはずっと多いよ。塩も貴重だったし、こんなに美味しいご飯なかなか食べられないよ」
二人でもぐもぐ食べる。
「そういえば、ノーラって呼んでもいい?」
「私も言おうと思ってた。レミリア!」
最初にノーラが声をかけてくれた時のまま、つられてちゃん付けになっていた。ノーラはもう友達だが、もっと親しくなりたかった。
「お昼、元気無かったってアンナが言ってたよ?なにかあったの?」
「うーん……どう言ったら良いのかな」
言えることと言えないことがあるけど、
誰かに聞いてもらいたい気がする。
もちろん全部は言えないけど。
「……ベオウルフさまに迷惑かけたって、アレイスターさんに言われて」
「あー、領主様、思い切ったことしたよね。レミリアと、お友達になれたから良かったけど」
ノーラはにっこりと笑いかけてきた。
(ノーラは感情豊かで可愛いなあ……)
「私も村では歳の近い女の子がいなかったから、嬉しいよ」
「えー? 照れるなあ」
二人で笑った。
「でもさ、領主様、レミリアのことになると、兵士や召使いにさせたらいいことを自分でしたがるんだよね。今日だってさ、厨房にわざわざレミリアのご飯のこと指示しに来たり。レミリア、大事にされてる?」
「え??」
そう聞くと、死霊魔術とは関係なく、ベオウルフが気にかけてくれてるのかと思い、悪い気はしなかった。
悩んでいた気持ちが少し楽になった。
「なんだか嬉しそう。やっぱり昨晩いいことあった?」
「なんにもないよ!」
楽しく食事ができた。
いろいろあったけど、レミリアは明日から頑張れそうだった。