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戦後処理

ベオウルフはギルベルトと談笑していた。一度真っ二つにされたのに、気にしていないのだろうか。


ベオウルフが王都の学校に通っていた頃、ギルベルトは特別講師として何度か授業をしていたらしい。

その頃はまだギルベルトの父オットーが騎士団長で、ギルベルトは一つの騎士大隊の隊長だった。


ベオウルフが国王に剣を教えて貰っている時もたまに同席してベオウルフを指南していたり、ベオウルフの師の一人だった。


「よくその弟子を真っ二つにしてくれましたよね」


ベオウルフはギルベルトに対しては珍しく丁寧な言葉遣いで話す。


「陛下や上司の命令には何があっても従うようにしておかないと、いざと言う時身体が動かないぞ」

「そんなもんですかね」


言葉が丁寧なだけで、割とぞんざいな態度なのはいつものベオウルフだ。

ギルベルトはレミリアに言った。


「まあ人を食ったような奴だが、ベオウルフは良い奴だ。見捨てずに良くしてやってくれ」

「ちょっとギルベルト様。俺が拾った側ですから」

「ギルベルト様ありがとうございました。来てくれなかったら誰かさんはやられてました」

「そうだな。あの程度に遅れを取るとはベオウルフも腕が鈍ったな」

「ぐ……」


ギルベルトは今からフィーンフィルの返事を待って、王国の代表として教皇庁に責任の所在をはっきりさせて賠償を求める役をするらしい。

王国の大使館にしばらく駐在して事後処理を行う。


「じゃあ俺は行くぞ。2人とも仲良くな」


ギルベルトは去って行った。


「俺たちもそろそろ動くか。おい、クリス」


ベオウルフが死体の横で佇んでいるクリスに近づいていく。近くに力天使と4人の聖女がいる。

レミリアもベオウルフの後を追った。


クリスの横の死体は妹のアドルフィナのものだ。クリスにしては珍しく冷淡な顔でそれを見ていた。


「私は冷たい女です」


レミリアが横に来た時、クリスは語り出した。


「私達姉妹は小さい頃から魔導の素養があり、聖女にさせたかった親には厳しく指導されて育ちました」


クリスは最初から大人顔負けに魔力量が高く、神官だった父より高度なことをすぐにやってのけるため、両親も期待して可愛がってくれたようだ。


アドルフィナも並以上ではあったのだが、そんなクリスに劣等感を抱いていて、次第にクリスと口をきかなくなり、きつく当たるようになっていた。クリスもそんな妹が苦手になってしまった。


「妹が亡くなってもあまり心が動かなくて。聖女失格です」

「クリスは私のお父さんお母さんを救ってくれたし、その身体になったのも私達魔族の為に怒ってくれたからじゃないの。クリスは冷たくなんかないよ」

「でも……」

「それに妹さんが苦しそうな時のクリスは辛そうでしたよ?」

「アドルフィナ、助けられなくてごめんなさい……」


クリスは涙を流した。


「うむ……我もそろそろ帰ろうと思う」


力天使が突然レミリアの方に話し出した。


「力天使様ありがとうございました。なんだかんだで随分助けていただきました」

「今回は人族の不始末を片付けてくれて礼を言う。我が主のお気に入りである光の巫女経由にはなるが、仲間である其方にも今後何かあれば力を貸そう」


力天使も姿を消した。


「なんだか座天使様に無理に力を借りなくても良かった流れですね」

「まあ……順番は大事ですよレミリアさん」


天使がいなくなり、遠慮していた聖女達が集まってきた。クリス子飼いだった聖女達をアドルフィナが引き継いでいたが、上手くいっていなかったようだ。


「クリス様、戻ってきてくださいませんか。私達にはクリス様が必要なのです」


代表しておさげの少女がクリスに懇願する。

クリスは困った顔をした。見捨てるのは気がひけるが、教皇庁に戻るのは難しいだろう。


「異端者として追われた身ですし、このような身体なのと、レミリアさんから離れられないので、難しいかもしれません」

「じゃあ私たちも連れて行ってください!」

「え?」


意思は全員一致しているようだ。さっきからヒソヒソ話していたが、そういうことだったのか。


「いやいや、親御さんがなんというか……」

「全員、両親は説得します! こんなところにいたくないし」

「うーん……」

バリアント(うち)は構わないぞ。穀潰しは必要無いが、聖女ならいろいろ足りないものを補ってくれそうだ」

「やった!」


ベオウルフが軽い口調でいうと、聖女達は喜んで飛び上がる。クリスがジト目でベオウルフを見る。


「ベオウルフ様、そんな思い付きで……」

「バリアントに来てくれる者を拒む理由はないさ。賠償で教会の連中を突き返して、クリス達に教会を運営してもらってもいいな」

「いいですね、それ!」


レミリアもノリノリだ。クリスもまあいいかと思えててきた。こんなのばかりでバリアントは面白い。聖女達も別の生き方を見つけてくれるかもしれない。


準備ができたのか、カイエンが宿への案内役を連れてきた。


「後片付けは任せて、宿に案内するからゆっくり休んでくれ。また準備ができたら連絡する」

「言いたいことは山ほどあるが、今は厚意に甘えよう」

「ベオウルフ卿、俺は逃げも隠れもしない。また会合で追求すればよい」


ルカリオが死んだ今、最も首謀者に近いのはカイエンだ。教皇達は責任を取らないだろうから、カイエンには重罰に処されるはずだ。


「組織って面倒ですね。フルングニルさんが暴れても誰も出てこなかったのに」

「実際、教皇様はほぼ関わって無いから仕方ないとも言える」


当のフルングニルはずっと突っ立っている。まだ身体に慣れていないのだろうか。


「フルングニルはバリアントで現代のことを教育してから外に出した方がいいね。しばらくはストックしておいた方がいい」


アレイスターはそういうので、一応フルングニルに断って収納した。命令を断ることはなかった。


ずっとそうしていても仕方ないので、レミリア達は宿に向かった。ベルはエテメンアンキに拠点があり聖女は自宅があるので各々帰途についた。

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