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巨人折伏

フルングニルの一族が存在していた頃、地上は著しい魔力不足に陥っていた。

フルングニル達が食い荒らしたわけではないが、まだ世界が創造されてそれ程経っておらず、魔力を持つ生命が増えていなかった。


魔力が枯渇して一族の弱い個体が倒れ始めた。共食いするわけにもいかず、フルングニル達は創造神に助けを求めた。


しかし、強大なフルングニルの集団が潤沢に魔力を得て繁栄することは創造神には都合が悪く、創造神はフルングニルに救いをもたらさなかった。


絶望したフルングニルは、当時のフルングニルの持つ高い魔導の技術力を使い、直談判するために神の世界への入り口を開いてしまった。


これが神々の怒りに触れて、フルングニルは滅ぼされた。


「つまり、どこかの臆病者がフルングニルに救いをもたらさず、自らにたどり着く扉を封じるためにフルングニル達を絶滅させたのだ」

「兄上、誰が聞いているとも限らぬ。やめるのじゃ」


フェンリルも創造神に危険視され、根源を質に取られている。フルングニルに同情する要素があるのかもしれない。


『モウシニタクナイ……』


フルングニルは悲哀に満ちた言葉を吐いている。

フェンリルがニヤッと笑っている気がする。


「そうだ娘よ。お主はヘラの加護を得ているのだったな」

「はい? そうですけど」

「これを使役してみてはどうだ?」


フェンリルはとんでもないことを言い出した。ヘラが慌てて止めに入る。


「兄上、とち狂ったのか? そんなことを言うから創造神様に目を付けられるのじゃ」

「狂ってなどおらぬ。このような居た堪れない状況で巨人を殺すのは忍びない。それに何か起こればこの娘を殺せば済むだけのことだろう」

「え、殺されるのは嫌です」


『タノム……タスケテクレ……』


レミリアは困ってしまった。事情を聞くと確かに可哀想なこと極まりないのだが、創造神に歯向かうことになるのではないだろうか。


「ヘラ様、フェンリル様の話は本当なのですか?」

「ノーコメントじゃ」


つまり否定しないということだ。

よくわからない理由で一族を滅ぼされる悔しさをレミリアは知っている。助けてあげたい。

しゃくに触るが、フェンリルは巨大な口を歪めながらニヤニヤしたままだ。


『セカイハイマダニ、ワレラヲコバムノカ? ワレハイバショガナイノカ?』


レミリアはベオウルフが受け入れてくれなければ居場所が無かった。魔王だの神だの、そちらの都合で生殺与奪を握られるのは許せないことだ。


「今回の件でフルングニルを蘇らせたのは光の者達だ。これを倒し、使役する。我が主はお喜びになるだろうな」

「主様なら、そうなりそうで怖いのじゃ」

「光の神も文句を言える立場ではないし、さしたる問題にはならんだろう」


フェンリルは創造神や光の神をこき下ろすが、闇の神には敬意を払っているようだ。神々もいろいろあるのか。

レミリアは決心した。


「私、やります!」

「妾は知らぬからな……加護は外さぬがのう」


外野は息を飲むばかりだ。アレイスターさえ口を挟もうとはしない。


「フルングニルさん、今からあなたを不死者にして私の僕にします。わかりますか?」


『ヨクワカラヌ……ワレハタスカルノカ?」


「たぶん、普通に生活できるようになると思いますよ?  あれ?大きすぎて無理かな?」

「大丈夫じゃ、フルングニルも体躯を調整できる種族じゃ。下限があるし燃費は変わらんがのう」


『タスカルナラ、ナンデモヨイ、タノム』


「なるべく小さいままでいてくださいね」


レミリアはフルングニルの身体に魔力を流す。たちまちフルングニルは闇に包まれる。


「う……フェンリル様を呼んだ時の魔力を回復させ忘れてました」

「巨人から奪った魔力を依代を介して分けてやろう」


フェンリルからレミリアに魔力が移動する。とたんにレミリアは楽になった。


「すごいです。ほぼ全快した気分」


フルングニルに充分魔力が行き渡り闇が晴れると、骸骨ではなく、金髪の2mくらいはあろうかという大男が真っ裸で現れた。


「ちょっ!?」


フルングニルは直立してレミリアを見ている。


「いや、見てないで誰かマントか何か貸してください!」

「流石にでかいな。こんな大男の服なんて仕立てないと売ってないぞ」


ベオウルフが近づいてきて見上げている。


「仕方ないのう。しばらくこれを着て、その間に仕立てるのじゃ」


ヘラが手をかざすと、フルングニルに黒いローブが着せられた。

フルングニルはレミリアにひざまづいた。


「ありがとう。あなたの名を教えて欲しい」

「レミリアですけど……」

「レミリア様、あなたに生涯の忠誠を誓う」


フルングニルは骨から蘇生した割にしっかり意思表示していた。


「あ、ありがとうございます。身体は特に異常はありませんか?」

「特に違和感は特にない。神に殺されたのはついさっきという感じだから、目が覚めた感覚といえば良いだろうか」


ベオウルフ達と同じように蘇生に近い状態になっているようだ。両親は傀儡のようになってしまったが、元の魔力量などで違うのだろうか。


「う……」


ベルの声がした。目を覚ましたようだ。

ベルは自分を抱えるリリと額に手を当てているアレイスターを交互に見た。

ベルを操っていた魔石はリリが目覚めた時砂になって消えてしまった。


「リリ、すまない。恩人の娘を、君を酷い目にあわせてしまった。ボクは何かどうしようもない衝動に勝てなかったんだ」


魔石に精神操作され、異常な精神状態ではあったがベルは意識はあったようだ。


「ベル、気にしないで。無事で良かった」

「そうだよ。ベル、かなり強力な精神操作と君は争ったんだろう?」

「アレイスター……」


ベルはアレイスターを睨んだ。


「なんでリリを戦闘に出したんだ。君の判断だろう?」

「もうリリは一人前だからね」

「成長したからといって別に戦わせる必要は無いじゃないか」


リリがベルの手を取った。心配してくれているのはわかるが、リリの気持ちはそうではない。


「アレイスター様と一緒に戦えるのはリリの喜び。アレイスター様が守ってくれるし、アレイスター様を守ることがらできる」


ベルは多弁なリリを見て、今の二人の関係をなんとなく悟った。一瞬、寂しそうな顔をしたが、笑顔に戻って言った。


「君たちはできているのかい?」

「へ?」

「おや、鋭いね」

「へえ、リリは想いを遂げられたんだね」


リリが驚いて顔を赤くしている。アレイスターが肯定したのでレミリアも驚いた。


「えー? リリ良かったね。アレイスターさんも隅に置けないなあ」

「まあ君たちが焚きつけたのは容易に想像がつくけど、リリは大切な人だからね」

「う……」


クリスと一緒に焚きつけたのはばれていた。遠くでクリスがニコニコしていた。

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