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フルングニル

レミリアが「死の神ヘラ」のページに広げた魔導書に魔力を流し込んでゆく。


「ヘラ様、力を貸してください」


何の反応もない。力を度々借りすぎたのだろうか。考えてみれば、前に呼び出してから数日しか経っていない。

もう一度魔力をしっかり流してみたが、反応が無い。


「ヘラ様ー!」

「自分達で何とかしろということなのかね」


アレイスターが魔導書を閉じようとする。


『待て待て』


レミリアの頭の中にヘラの声がした。


「ヘラ様?」

『そうじゃ。直ぐ行くからそのままにしておるのじゃ』

「アレイスターさん、そのまま開いておけって」

「え? 会話しているのかい?」


念力通話なんて魔術をどう行っているのか問い質したい気持ちを抑えながらアレイスターが魔導書を元のページに開き直すと、闇と共にヘラが現れた。


「ヘラ様、お忙しかったですか?」

「いや、事態が事態じゃから、呼ばれずとも出て行こうかと考えて主様に相談しておったのじゃ。主様が殊の外ご機嫌でのう」


人族がフルングニルを復活させるなどという大問題を起こし、人族の保護者である光の神は責任能力を問われるだろう。ヘラが早くに情報を持ち込んだため、光の神々で内々に処理することはもうできない。それだけで闇の神は笑いが止まらないらしい。


その上、ヘラが加護しているレミリアと共に参戦できるため、討伐の恩も着せれるというものだ。


「子供の喧嘩の話を聞いているみたいですね……」

「まあそう言うでない。それで、どこまで力を貸せるかということなんじゃが」


ヘラ程の高位の存在が直接手を貸すのはダメだと言われたらしい。その上でフルングニルを倒す策を模索しないといけない。


フルングニルは今の状態だと再生能力のせいでまともに倒すことは不可能だ。魔力を失い活動を停止するまで放置したいが、捕食して魔力を吸収することができるため危険な上に永久に動くと考えて良いだろう。


「なので、妾の根源を使ってレミリアに魔力を吸収する力を持つ魔獣を召喚してもらうのじゃ」

「え、命と引き換えとか嫌ですよ?」

「うむ、そこは代替材料でカバーじゃ。命のやり取りを免除してもいいのじゃが、先日主様に釘を刺されたばかりじゃし、なんとかならんかのう」


ヘラはアレイスターをみた。真っ赤な目でおねだりしている。アレイスターに断れるはずが無い。


「構いませんけど……」

「すまんの。あと、そこの勇者の力を最後にアテにせねばならぬ。治療するから闇の魔石を勇者の額にかざすのじゃ」


アレイスターはリリが抱えているベルの額に黒い石をあてた。


「暫くしたら元に戻るじゃろう。そのままでおるのじゃ。その間にレミリアに働いてもらうとしよう。代替材料をレミリアに渡すのじゃ」


アレイスターはエリキシル剤をレミリアに渡した。


「今回の召喚は、レミリアの魔力と命を糧として妾の根源を利用して、レミリアが使役する犬っころを依代として魔獣を召喚するのじゃ」

「ん? それってオルちゃんは無事なんですか?」

「たぶん? まあ不死者だから大丈夫じゃろう。犬っころを使わねば恐らく魔力が足りぬ。それだけのものを召喚するのじゃ」

「ということは犬の魔獣なのですか?」


アレイスターが言うには、召喚魔法は似たような生物を依代にすると大幅に魔力を節約できるらしい。


「まあ似ているとしたら狼じゃな。ただ狼だの犬だのは禁句じゃ。神と言っても過言ではないものを召喚するから失礼の無いようにするのじゃ」

「神様ですか」

「妾の兄であるフェンリルを召喚してもらうのじゃ」


もはや神話の世界に突入している。アレイスターは長年生きてきたが、この1か月以上の不思議に出会ったことはない。


「ヘラ様のお兄様って、思いっきり神様ですよね? ヘラ様が参戦するのはダメなのにお兄様はオッケーなんですか?」

「妾は交信するためにレミリアに魔力を使わせておるだけで、レミリアの魔力で顕現しているわけではないからのう。今回はちゃんとレミリアの魔力で召喚してもらう。それに兄上は特別なのじゃ」


神獣フェンリルは戦闘力だけなら創造神に匹敵する力を持つが、非常に荒い気質を危険視され、創造神に根源を握られている状態だ。神よりは格が落ちるため、天使程度の消費で召喚できるのだ。


「そろそろ戦っておる者どもも疲れておるじゃろう。早めに始めよう」

「ベルさんが起きませんが大丈夫でしょうか」

「余程抵抗したんじゃろう。かなり強めに暗示をかけられておるな。心配せずともじきに目覚めるじゃろう」


抵抗したということは、ベルはレミリア達と会って改心したのだろうか。これで復活したら、真に仲間となる日も来るかもしれない。


「オルちゃん、おいで」


オルトロスが寄って来る。元の姿なので昼間の太陽の下では凄い迫力がある。これを相手にした神殿騎士団には同情しかない。


「立派な個体じゃのう。これなら申し分ない」


ヘラに褒められたオルトロスは得意げだ。蛇の形をした尻尾をフリフリしている。残念ながら可愛くはない。


「ごめんねオルちゃん。今からオルちゃんの身体を借りて召喚をします。何が起こるかわからないのだけど、ちょっと我慢してね」


動物虐待チックだが、オルトロスは観念して協力してくれそうだ。

横でヘラがせっせと魔法陣を描いている。


「これで良いじゃろう。使えるなら好きに使えば良いから、この魔法陣は覚えてくれて構わぬぞ」

「私そういうの苦手っていうか……」

「仕方ないのう。魔導書を出すのじゃ」


アレイスターが魔導書を出すと「神獣フェンリル」の名前と魔法陣のページが刻まれた。


ヘラはフルングニルのいる方に聞こえるように言った。


「今から大規模魔法を使う。合図をしたら退避じゃ」


戦っている4人は満身創痍だった。両断しても粉砕しても即時に再生され、こちらはフルングニルの攻撃が掠っただけで魔力を持っていかれる。


特にリーチの短いカイエンの消耗が激しかった。カイエンが助かったとばかりに声の方に振り返ると、声の主は全身が漆黒で真っ赤な目をした禍々しい魔力を放つ大女だった。

横には即死術式の罠を施したが、フェイからは魔力が足りず発動しなかったと報告を受けた魔族の娘が立っている。


先程から魔獣オルトロスを使役し、この大女を従えているあの娘が、魔力を持たないなどということはあり得ない。自分達は触れてはいけないものに触れ、今こうして敗北しているのだろうとカイエンは悟った。


ベオウルフとギルベルトは別に初見ではないので「了解」と頷くのみだったが、1人、驚愕して固まってしまった者がいる。


力天使だ。力天使には見ればそれがヘラだと分かった。さっきまで周りには地上の民しかおらず、見下して偉そうにしていたが、属性こそ違えど自分より高位な眷属神を顕現できる者が潜んでいるとは思わなかった。


いわば、平社員を相手に偉そうにしていた課長が、平社員の中に役員の身内が混じっていることを知って焦っている感じだ。いちいち自分を喚ぶななどと言ってしまった。


「力天使様! 危ない!」


クリスの声がして咄嗟に避けたが、力天使がいた場所を巨大な手が切り裂いた。

力天使は再び戦闘に集中することにした。


「光の眷属よ、気を散らすと危ないのじゃ。妾が現れて驚いたのかのう」


力天使はせっかく持ち直したのに、ヘラに絡まれてしまった。無視するわけにはいかない。


「申し分ございません。まさか眷属神でも最高位でいらっしゃるヘラ様にお目にかかるとは思わなかったもので」

「うむ、妾もこの人族の不始末に身を呈して地上の民を守る光の眷属がおるとは思わなんだ。お主の素晴らしい献身は我が主を通じて、光の神に伝わるように計らうのじゃ」

「ありがたき幸せにございます」


力天使はそろそろいい加減にしてもらわないと攻撃を受けてしまいそうだと思ったが、フルングニルの動きが止まっていた。

フルングニルは凝視しているのかわからないが、ヘラの方を向いていた。


『カミ……ダト?』


フルングニルは明らかな敵意をヘラに向けていた。

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