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ルカリオの切り札

ルカリオは持ってきた包みをアドルフィナに突きつけた。そしてアドルフィナがクリスに抱いている妄執を利用してアドルフィナを煽動する。


「今のままでは私も君も奴らに敗北し裁きを受けるだろう。これを使えばそれを防ぎ、クリスティナを超えることもできる。これに魔力を送り、力を求めなさい」


カイエンにはルカリオの無駄な足掻きを理解できなかった。


王国の騎士団長まで現れ、もはや戦術的に勝利したところで懲罰は免れないのに、これ以上戦って何か意味があるのだろうか。


「ルカリオ様、おやめください! もう勝敗は決しました!」

「黙れ! ベオウルフ1人消せぬ無能め。貴様のせいでこのような事態になったのだ」

「なんだと……」


カイエンの瞳に怒りが宿る。

全てはルカリオから始まったというのに。


アドルフィナはルカリオから包みを受け取り、魔力を込める。姉を超えれるなどという意味不明な発言に心動かされたというのか。


アドルフィナが抱えた包みが禍々しい魔力を帯び始める。


「カイエン、あれは何をしているんだ」


アレイスターがカイエンに聞くが、カイエンも詳しく知るわけではない。


「あれは教皇庁がルカリオ様の指揮で研究している聖遺物なんだが、どんな結果が出てくるのが俺にもわからん」

「止めた方がいいんじゃないですか?」


レミリアもやばい感じがしたが、近づき難い。

誰もが動けずにいた。


「もう遅い。終わりの始まりだ。全員死ぬが良い」


ルカリオが言うと、包みが膨れ上がりアドルフィナの魔力を際限なく吸い始める。


「あ……ああ……誰か助けて」

「アドルフィナ!」


身体が言うことを聞かず、包みの中身が危険なものであることにアドルフィナは気づいたが、どうすることもできずに声を上げた。

クリスが声をかけるが近寄れない。


アドルフィナは魔力も生命力も吸い取られ老婆のように変わり果てて倒れた。


『マダ、タリヌ……』


地獄の底から聞こえるような声がした。


「みんな、離れるんだ!」


アレイスターの声に、立てる者は全員退避する。ベオウルフがリリと一緒に動かないベルを抱えて逃げる。


「おいカイエン、ベルはどうしたら元に戻るんだ」

「後でなんとかするから石は壊さずに持っておけ」

「危ないな。壊すところだったぞ」


アドルフィナから力を吸い尽くした何かは、膨らみながら次第に人の骨格を形成し始めており、近くにいたルカリオに手を伸ばした。


「何をする! 私は味方だぞ、離せ! ぐ、がああああああああ」


その骨だけの巨大な手にルカリオは握り潰されながら力を吸い尽くされる。干からびてしまったルカリオだったものが地面に投げ捨てられる。


その何かの骨格がさらに形成され、神殿の大きさ程の、上半身だけの巨大な骸骨が現れる。腰骨の付け根が地面から流れ出す魔力の渦から生えており、下半身は無い。


『マダマダ、タリヌ……』


骸骨は倒れている神殿騎士団員を漁り始めた。アレイスターは手加減していたので、動けないだけでまだ生きている者ばかりだ。


「た、助けてくれ!」「ぐがああああああ!」「嫌だ!嫌だあああ!」と団員が叫ぶ阿鼻叫喚の地獄絵図とともに、バキバキグチャグチャと骨や肉の握り潰される音が辺りに響き渡る。


「やめろ!」


カイエンが骸骨の腕に殴りかかった。光の魔力を込めた拳で正拳突きを放つが、骨が少し欠けただけですぐに戻ってしまう。


『ジャマヲスルナ』


骸骨が巨大な手でカイエンを捕まえようとする。カイエンは必死に避けている。

ギルベルトが飛びかかり大剣でその手を両断するが、それも直ぐに再生する。


『メザワリナコビトドモ』


骸骨が身体から魔力を噴き出した。強力な威圧だ。


『ゼンブクラッテヤロウ』


骸骨が手を振り、ギルベルトとカイエンを打ち付けた。ギルベルト達はガードするが壁の方まで吹っ飛んだ。

骸骨は再び神殿騎士団を捕食しようと腕を伸ばす。


クリスが力天使(ヴァーチャー)を召喚する。ちょっと無理をしすぎたか、クリスがほぼ見えなくなった。

聖女達が神々しい天使を見て息を呑んだ。


「光の巫女よ、何故また我を呼ぶのだ……なんだあれは!?」


力天使(ヴァーチャー)は巨大な骸骨を見ておどろくが、それが発する魔力を感じるとなんとなく記憶にあるものだった。しかし、記憶にあるそれは骸骨の姿ではない。


「人間ども、随分と中途半端な状態でアレを蘇らせたものだな。とんでもないことになっているではないか」

「力天使様はあれが何なのかご存知なのですか?」

「あれはフルングニルの遺骨だったものではないのか?」


力天使はフルングニルの遺骨と言った。確かにルカリオは何かの包みを持ってきていたし、カイエンはその中身を聖遺物と言っていた。遺骨で間違いないのだろう。


「フルングニルというのは、創造神様が我らの主である6つの属性の神々を創造した時に意図せず作り出されてしまった『巨人』達の種族名だ。当時はそれなりの数が繁殖した。今は絶滅しているが」

「神様、というわけではないのですか?」

「神という程ではない。それなりに力はあったのだが、ある時創造神様に楯突いたため、我が主達が協力して討ち滅ぼしたのだ」


つまり、神々と戦争をした種族ということだ。ルカリオはそんなものを意図的に復活させようとしたのだろうか。とんでもない奴である。


強い魔力を感じたのか、フルングニルは力天使に手を伸ばしてきた。


「貴様、この私を捕食しようと言うのか。無礼な」


力天使はその腕を剣で払い除ける。


「おい、自分がフルングニルだという自覚はあるのか?」

『オマエ、ナゼシッテイル……ワレラヲホロボシタ、カミノケンゾクカ!』


フルングニルが力任せに力天使に腕を叩きつけ始める。力天使もかなりの力を持つが、流石に部が悪そうだ。


「人間ども、少し力を貸してやるから何とかしろ!」


力天使がフルングニルの攻撃を受け付けてくれるらしい。しかし、こんなものどうやって何とかしろというのか。


ギルベルトとカイエンは体勢を持ち直したので、力天使と共にフルングニルに攻撃を加えている。ベオウルフも参戦した。


リリはまだ動けないし、ベルも正気に戻っていないようだ。アレイスターはリリとベルに寄り添っている。


「アレイスターさん、ヘラ様を呼びましょうか」

「それはいいかもね。力を貸してくれるかわからないけど、知恵だけでも借りたいところだね。早速やろう」

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