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エレオノーレの服

ベオウルフとアレイスターは夕食に呼ばれて広間に集まっていた。

しかし、もうリーベル子爵夫妻もアレックスも席についているのにレミリアとカロリーナがなかなか来ない。


「呼びに行かせたが取り込んでいるようなので、先にいただこうか」


リーベル子爵がそう言うので皆食べ始めた。ベオウルフ達も何が何やらだ。


「どうしたんだ? アレイスターは何か聞いているのか?」

「いや、僕もさっぱりだよ。服を取りにいったんだっけ?」


アレックスはカロリーナから伝言されているが、意味を把握しかねる。


「レミリアさんを少し休ませてから来るらしいよ」

「体調でも崩したか。まあカロリーナに任せておけば大丈夫か」




そんなこんなで、メインが来る直前くらいにレミリア達が現れた。


「遅れてしまい申し訳ございません」


カロリーナが先に入って一言謝った。


レミリアはひとしきり涙を流したあとで目を真っ赤にしていたので腫れが引くのを待っていたのだ。

クリスが部屋の外に顕現して、迎えにきたように装ってレミリアの目に癒しをかけてくれたので、慌ててやってきた。


「まあ良い良い。早く席につきなさい」

「もう、あなたはカロリーナに甘いのだから」


リーベル子爵が着席を進めてくれた。もう輿入れして3年にもなるが、未だに義娘に甘いのだ。


遅れてクリスとレミリアが入ってくる。クリスはニコニコしながら、レミリアはごてっとした慣れない服と慣れない身体でぎこちなく歩いてくる。


「あの、私がカロリーナ様にご迷惑をかけてしまって。申し訳ございません」


レミリアが上目使いに謝ると、見ていた男性陣が固まった。


殺伐とした状況と残念な性格で忘れがちだが、レミリアは超美少女なのだ。しかも少し成長して女性らしさが増しているし、軽い魅了まで発生する。


初めて着る貴族の衣装に軽い化粧で、レミリアは歩く芸術品と化していた。綺麗な薄紫の髪も儚げで、どこぞの貴族の令嬢のようだ。


アレックスまで影響を受けているので、足でも踏んでやろうかと考えながらカロリーナは言った。


「自分で言うのもなんですが、素晴らしい出来に仕上げて参りましたわ」

「ふふふ。レミリアさん可愛いですよね」


クリスまでそんなことを言うものだから、レミリアは首まで真っ赤になってしまった。もう部屋に帰りたい。


「レミリア、よく似合っているね。まあ立ってても仕方ないから君たちも座ったらいいよ」


アレイスターが、さらりと着席を促した。ベオウルフは横でむっつりしているのか固まったままだ。


「温め直すからゆっくりお食べなさい」


子爵にそう言われながら食事を始める。

借りた服で袖が真っ白なので、決して汚せないレミリアは緊張しながら食事をしている。


それなのにカロリーナがとんでもないことを言い出した。


「お兄様、見覚えのある服ではございませんか?」


ベオウルフが食器をガチャっといわせる。子爵夫人が眉をひそめる。


「カロリーナ、お前のいたずらか。その服はどこにあったんだ」

「どこにあったも何も、私の洋服ですよ。実は、カロリーナ様と王都で服を見に行った時に、お揃いで買おうって話になって一緒に買いましたの」


公女が着るような高級な服のため貧乏田舎貴族の娘には手が出ない価格だったので、エレオノーレに下賜されたようなものだったが。


「そうだったのか。あいつ、気に入ってたんだろうな。そればかり着ていた時期があったからよく覚えているよ」

「何を言っているんです。お兄様がめずらしく褒めたから喜んで着ていたのに。お蔭で私は最初の一回しか着れませんでしたわ」

「俺のせいかよ」


食卓に笑いがおきた。


レミリアは心中複雑過ぎた。そんなベオウルフに思い出深い服を着ているとは。選んだ時にカロリーナが一瞬ためらったように見えたのは、この為だったのか。


その場で言ってくれたらいいのにと思わざるを得ない。カロリーナには微塵も悪気はないのだが。むしろ本人が言ったように、何かしらの進展を促しているのだ。


(それはなんとなくわかるけど、ベオウルフさまにはどう映っているんだろう。何も言ってくれないし、私が思い出を踏みにじっているとか思われていたら本当に嫌だ……)


もう食事の味がしないし、食が進まない。

正直、座天使のせいて身体はガタガタだし、こんなことなら早く部屋に帰りたい。


そんなことを考えていたらクリスが気遣ってくれた。


「レミリアさん、顔色が優れませんよ? お付き合いしますから夜風にでも当たられてはいかがですか」


言われたら丁度いいかもしれない。リーベル子爵の手前、部屋に篭るのもためらわれるし、準備してくれたカロリーナにも申し訳ない。


……何よりベオウルフに何も言ってもらえていない。


丁度視線から逃れられそうな場所にロフトがあるし、クリスに話でも聞いてもらおうと思った。

しかしクリスは本当に良い人だ。いつも助けてくれる。


「そうですね、ちょっと行ってきます」


マナー違反なのか、貴族のことはよくわからない。

立ち上がって少し歩くと慣れない身体でまたよろめいてしまった。とっさにベオウルフが手を貸してくれた。そのままロフトまで手を引かれる。


「あ、あの」

「危なっかしいからな。嫌か?」


決して嫌ではないが、嫌な聞き方だった。みんなが見ているのが気になるだけだ。

だからレミリアはベオウルフが手を離さないように手を強く握り返した。


召使いがロフトへの入り口を開けてくれたので、2人は外に出て行った。


「お兄様、意外と大胆なのね」


カロリーナは実の兄の突然のリードに興奮気味だ。


「本当に微笑ましいですね」


クリスは聖女様らしく微笑んでいる。


「クリスさん、素晴らしい策士ですわね」

「見ていてもどかしいですからね」


聞いているアレイスターは苦笑いしかない。レミリアのいろいろな負い目をベオウルフはどうカバーするのか。


「若いのう……」

「ですねえ……」


ついていけないリーベル家の面々を他所に、みんな他人の恋路を楽しんでいた。

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