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王命

ギルベルトの合図で教会関係者に騎士達が一斉に襲い掛かり、神官や僧兵が次々と倒れていく。


「なんてことだ……」


ミドウは絶望するしかない。教皇庁の馬鹿どもの巻き添えでこんなことになってしまった。

室内にかけられた反魔法のせいで攻撃魔法は使えないが、現役時代のミドウは剣技を得意とした。異端者をよく切り刻んだ技だ。

隠し持った短剣で、向かってきた騎士を反射的に斬り倒す。


そんなミドウをギルベルトが両断した。あっけない最期だった。


「4小隊で四方の門を検閲せよ。残りは俺と共に教会の制圧だ」


ギルベルトは中隊を率いて出ていった。


いつの間にかヘラがレミリアのところまで移動していた。ヘラは騎士達の行いにびっくりしたようだ。


「地上は恐ろしい場所じゃな。妾が力を貸した方がもちっと綺麗に事が運ぶのじゃ」

「あまり見たい光景ではありませんでしたね……」


レミリアはヘラにお礼を言った。


「ヘラ様、ありがとうございました。おかげで先に進めそうです!」

「お役に立てたようで何よりじゃ。少し張り切り過ぎて我が主様に何を言われるかわからんが、妾はそろそろ退散しよう。月並みじゃが、困ったらまた呼ぶが良い。力になろう」


ヘラは霧散した。


国王は大臣達を呼びつけてあれこれ指示を出している。ヘラが消えたのを見て、レミリア達に声をかけた。


「アレイスター、ベオウルフ、それから魔族の娘レミリア。あらぬ嫌疑をかけてすまなかった」

「あの状況では無理からぬことです。ベオウルフの状態を隠してしまったのは我々の落ち度ですから」


レミリアが死んだベオウルフを操って云々の話は、聞いただけなら反逆にしか見えないのだ。国王は合わせてベオウルフの状態について聞いてきた。


「ベオウルフは生きているようにしか見えないのだが、実際どうなのだ」


ベオウルフが立ち上がって答える。


「心臓まで動いているので、死んだ実感は全くありません。さっき斬られた時は驚きましたが」

「ならば、ベオウルフの扱いについては先延ばしにしよう。アレイスター、異変があったら報告するように」

「かしこまりました」


ベオウルフはギルベルトに斬られても血を流さなかった。初めて、自分が普通ではないことを実感した。


国王はベオウルフに頭を下げた。


「ベオウルフよ。エレオノーレを失い、予は怒りに任せて其方を裁こうとしていた。どうか許して欲しい」


2年前、そしてつい先程。国王は我を失っていたとまでは言わないが、負の感情で動いてしまった。

ベオウルフはベオウルフで、自領でエレオノーレを守れなかったので、謝られると逆に恐縮してしまう。


「あいつを、エレオノーレを守れなかったことに関して、私が無力であったために陛下のご期待を裏切りました。私も合わせる顔がございませんでした」


まだ少し時間がかかるだろうが、この2人のわだかまりも溶けるだろう。レミリアはそっとベオウルフの袖を掴んだ。

王太子ラインハートが興味深そうにレミリアの顔を覗き込んでから、レミリアに話しかけてきた。


「最初に見たとき思ったんだけど、君やっぱりエレオノーレに似ているよね」

「最近よく言われます……」

「ラインハート様。勘弁してください」


ベオウルフが脱力したように言った。


「ああ、ごめんごめん。悪気は無いんだ。ちょっと面白いなと思っただけで」

「言われたらそんな気もするな。魔族の娘レミリアよ。其方もまた近くに来たら立ち寄るが良い」

「ありがとうございます」


似ていると言われても全く嬉しくはないが。


レミリア達は流石に疲れたので退出することにした。


「では、我々は失礼いたします」

「ご苦労だったな。調査はできるだけ急いでくれ。一応教会は押さえるが、情報の流出を完全に止めるのは難しい。教皇庁が準備する前にアルミダに到達した方が良いだろう」


国王に忠告された。また飛行三昧かとレミリアはゲンナリした。




アレイスターの屋敷に着く頃には夕方になっていた。昼食も取らずに大捕物をしたので全員くたくただ。

サラサが夕飯を用意してくれるまで、レミリア達は各々風呂に入ったり休んだりしていた。


夕食は、勝訴のお祝いということでサラサが腕によりをかけて、キラーバイソンのフィレステーキを用意してくれた。


「なんて柔らかいお肉なの! 肉汁が!」

「これはいけるな!」


レミリアとベオウルフは大はしゃぎで肉を食らっている。アレイスターとしては奮発しただけに満足してくれて何よりだ。

横では功労者であるオルトロスも盛られた生のお肉をガツガツと尻尾を振りながら食べている。


みんなひと段落したところで、アレイスターは今からの行程について話し始めた。


「そろそろいいかな。陛下の言う通り、事は急を要するからね。できれば直接アルミダを目指したい」

「問題なかろう。バリアントはノイマンがいる事だしあと一月は俺が居なくてもなんとかなる」


少しは仕事しろよとレミリアは思ったが、行程については2人に任せてついていくだけなので頷くだけに留めた。


「レミリア、ダイブイーグルを貸してくれないかい。リリにアルミダの手前の村まで来るように伝言したいんだ」

「リリを呼ぶんですか? 危ないんじゃありませんか?」

「リリはかなりの手練れだよ。父親から短剣で戦う術を叩き込まれてるし、魔導の適性もいくつかあるから」


アレイスターとしては、ここ2回の戦闘で反魔法によってアレイスターが無力化されたのをなんとかしたいのだ。

有名税は仕方ないが、相手がアレイスター対策を打ってきている。ベオウルフにはタンクをしてもらう必要があるので、リリに反魔法の術者を消してもらうのがベストと考えている。


「早速お願いしていいかい? なるべく魔力を込めて強化するんだ」


レミリアがダイブイーグルを召喚し、魔力を込める。アレイスターが懐から出した手紙をくくり付けると、ダイブイーグルは高速で飛び立っていった。


「こういう時、『シンクロ』をしっかり使えると間違いが無くていいんだけどね。少しは練習しているかい?」

「うー、シンクロは手付かずでした。ごめんなさい」

「バタバタしていたから仕方ない。余裕ができたら蝙蝠で練習しておいてね」


正直、レミリアは視界をシンクロさせたら酔うので、苦手だった。飛ぶ魔獣は視界が本当にやばいので、先に地面を跳ねるだけのうさぎさんでやろうと考える。


「それより、レミリアは無属性のシールドの取得が最優先事項なんだよ。使えるのが僕だけじゃ心許ない」


教皇庁は一部の異端査問官をはじめ、無属性魔法の使用者がそれなりにいるので、防げないとかなり大変になる。ベオウルフやリリなら避けるだろうが、レミリアだとクリスの二の舞になるのは目に見えていた。


「明日から移動の中休みで訓練しよう」

「それって休みなしじゃないですか!?」

「マジックポーションを飲めば大丈夫さ。今晩もちゃんと仕込んでから寝るように」


レミリアは明日からのスパルタレッスンに不安しか無かった。

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