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宗教との対立

国王は真摯にエレオノーレの話を聞きたいようだ。父親としての顔が垣間見えた。


「魔族の娘よ。愛する我が娘エレオノーレの命が失われたことについて、真実を知っているなら是非教えて欲しい」

「わかりました。アレイスターさんお願いします」


レミリアはアレイスターに丸投げした。お喋りだけは得意と言わんばかりだ。

何も出来なかったことを深く恥じているアレイスターは苦笑しながら引き受ける。


「助けられなくて本当に悪かったよレミリア。では陛下、半年の時間をいただきバリアントで調査した結果をご報告いたします」


50年前の司祭の告発本の内容から見つかった、魔族の奴隷を使った即死術式の罠。

レミリアの件で残された奴隷の取引ルートから、ベオウルフの殺害にその方法が使われた可能性が高い。


また、被害者の状態の類似性からエレオノーレの死因にも紐つけられると説明した。


「我々は教皇庁こそが一連の事件の真犯人だと告発いたします」


アレイスターはそう言って締めくくった。


「教皇庁の、魔族を捨て駒にした即死魔術だと?」


国王は怒りに震えた。愛娘はそのような非道な魔術の犠牲となったのか。

妾の子だったエレオノーレを息子のラインハートだけは可愛がってくれてはいたが、それでも長い間肩身の狭い思いをさせてしまった。


それがやっと想った男の元に嫁ぎ、幸せを掴む矢先だったのだ。

最初は守れなかったベオウルフに失望した。ベオウルフにあらぬ疑いすら抱くようになってしまった。幼いころから剣技を教え、親友の息子だけに可愛がってきたというのに。


王太子も目を伏せている。義妹ではあったが、とても仲が良かった。アレイスターに魔法を教わるまでは、他人の顔色ばかり窺うような子だった。魔術を知りベオウルフと出会って次第に明るくなっていった。王太子としての教育が辛い時、励ましてくれたのはエレオノーレだった。婚約の報告も嬉しそうにしにきてくれた。


国王は怒りを込めてミドウに問いかける。


「ミドウよ、貴様はバリアントの再調査を強く推していたな。全てを知っていながらベオウルフを陥れる為に予を欺いたのか」


ミドウは青ざめていた。中央はなんてことをしでかしてくれたのか。しかもこちらを巻き込んで。

異端査問官であったミドウは即死術式のことは知っていたし、恐らくバリアントでそれが使われたのであろうことはわかっていた。


どれだけ情報の秘匿に自信があったのか知らないが、再調査などという火遊びをミドウに持ちかけて、これでは逆にミイラ取りがミイラになったようなものだ。

しかも、動機は一司教がベオウルフに面子を潰されたなどという私怨でしかないのだ。


「陛下、恐れながら、再調査の要請について私は中央から命ぜられるまま動いたに過ぎません。詳細は説明いたしかねます」


ミドウはごまかそうとしたが、アレイスターは見逃すつもりはない。


「君の立場と異端査問官という経歴で何も知らない筈は無いのだけどね」

「黙れアレイスター! そもそも、殺害方法がわかったところで、文献にも記載があることだ。誰にでも実行できるのではないか? 例えばその告発本の著者が術式を知っていて、何か残していたとか。あるいは貴様の権能なら術式が分からずとも再現できるのではないか」


もう無茶苦茶だ。ミドウは苦し紛れに思いついたことを口にするだけだった。しかし、意外と辻褄が合ってくる。


「しかも、その魔族の娘は生きているではないか。貴様の主張では仕掛けられた奴隷は死ななければおかしい」


ミドウもそれに気づいたのか饒舌になってきた。


「魔術を使ったのはやはりその魔族の娘だ。即死魔術をどこかで知った魔族の娘が同胞を使った即死魔術でバリアントを陥れたのだ。やはり魔族というのは汚らわしいものだ」

「ちょっと! いい加減にして欲しいんですけど」


レミリアが怒りを露わにするが、即死魔術の贄にされたはずのレミリアが何故か生きている理由と、即死魔術の仕掛けに関与していないことを説明できなければレミリアの容疑は晴れないのだ。


「アレイスターよ、我々教皇庁が奴隷を送り込んだという証拠でもあるというのか?」

「残念ながら推察の域を出ないね」

「ほら見たことか。証拠も無いのに我々を貶めおって。正に赦しがたい神への冒涜だ。貴様らは異端扱いではなく、必ず破門にするように中央に進言しておくからな」


ミドウが非難がましく言ってくる。破門という言葉を口にした。これは教皇庁からの最大級の敵対宣言である。

異端認定されると教皇庁の教義と相対する思想の持ち主ということで、異端査問官を派遣され思想の矯正や懲罰を与えられることになる。

破門されると、問答無用で教皇庁の討伐対象となり、教皇庁の主戦力による討伐が行われる。バリアントは灰塵と帰するだろう。

現状、本人が殺される点では変わりないが。


奴隷商と繋がるニックには逃げられたので、アルミダとエテメンアンキを調べないと証拠は出てこない。

アレイスター達は国王にその調査への協力を頼む為に来たのだ。


「陛下、私たちは先程の報告と合わせて、それを調べるための協力をお願いできないかと思い、やってきたのです」

「協力か? 何をすればいいのだ」

「レミリアの件で奴隷を用意した街はアルミダであると把握できております。そこの奴隷商を力尽くで調査したいのです。また、それでわからなければエテメンアンキに乗り込みたいと考えています。それをフィーンフィルからの調査としていただきたいのです」


国王は考えた。もはや一領主と教皇庁とのいざこざの域を超えていた。これで王国がバリアントに加担すれば、王国は教皇庁との戦争に縺れ込むだろう。

エテメンアンキを潰すだけなら容易いことだろう。だが宗教というものはそう簡単には潰せない。

最初は各地の信者による組織的な反乱が起きるだろう。それを鎮圧すればゲリラ戦やテロリズムとの戦いすら懸念される。

ガラリアとの前線を維持するためには避けねばならないことだった。ガラリアはこれに乗じて戦力を更に投入してくるかもしれない。


「アレイスター、これは政治的な問題になってくるぞ。調べて何も出てこなかった場合、其方らの首で済む問題ではない。我が国の戦況は其方も十分にわかっているだろう」


国王も感情的には、教皇庁の犯行であることに概ね賛同する。しかしミドウの言うことにも一理あるのだ。それは払拭されないと協力には及び腰にならざるを得ない。


アレイスターもそれを国王が懸念することは想定していた。ここで一手を打たないと、先に進まないだろう。ヘラを出すタイミングは今しかない。


「陛下、教皇庁が奴隷をバリアントに送り込んだ明確な証拠はございません。しかし、レミリアが犯人ではないことを証言できる証人がいます」


恐らくヘラは術者の情報は明かさないだろう。レミリアの無実を証明し、真犯人が存在することだけは提示することはできる。ヘラという神を見た国王が話に乗ることに賭けるしかない。


「暗殺をしかけた者の内通者でも味方に付けたということか? よくわからぬな」

「馬鹿な! 仮にそんな証言をしたところで、貴様らの仕込みかもしれないではないか」


国王は半信半疑、ミドウは噛み付いてきた。


「実際にお会いいただくのが早いでしょう。嘘など仕込みようの無いお方ですから」


アレイスターは闇の魔導書を取り出した。

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