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断罪

ターンアンデッドの光がベオウルフの身体からレミリアの魔力を奪う。


「ぐっ……」

「ベオウルフさま!」


ベオウルフが力を失ってひざまずく。しかし一撃とはいかないようだ。ターンアンデッドは低位の不死者を浄化する魔術だ。ミドウは手練れではあるが、上位の不死者を滅したり、辺り一帯を光で覆うような高出力はクリス程の魔力量を持たないと不可能だ。


アレイスターが小声でレミリアにアドバイスする。兵士に聞こえるが仕方ない。


「レミリア、拡散してしまうから効率は悪いが、遠隔でも魔力のリンクは繋げる。集中するんだ」


レミリアはベオウルフに魔力を送るように集中すると、何かがベオウルフと繋がったような気がした。ずるっと魔力を吸われたがベオウルフが少し持ち直したようだ。


「しぶといですね。貴方達もやりなさい」


ミドウは連れてきた神官達にもターンアンデッドを放つように命じる。

いくつもの光がベオウルフを包む。その度にレミリアの魔力が吸い出された。


「くううう……」


レミリアは堪らず座り込んでしまった。でも倒れるわけにはいかない。自分が倒れたらベオウルフが消えてしまうのだ。


「レミリア! 大丈夫か!」

「ベオウルフさま! 消えたら嫌です!」


レミリアの悲痛な叫びが響き渡る。

ミドウは嫌らしい笑いを浮かべながら言った。


「汚らわしい魔族が邪魔をしておりますな。先に八つ裂きにした方がよろしいかと」

「貴様! レミリアに手を出したら必ず殺す!」


ベオウルフが恫喝するが、この場では意味のないことだ。


魔導士長がアレイスターに話しかけた。


「言っておくがアレイスター、今のまま手を貸せば君の反逆罪も確定だ。君がどのような事実を握っていてもだ。アレフヘイムから君を預かっている私でもどうにもならぬ。なんとか頭を使え」


王宮魔導士長クラウディアはクォーターエルフの女性だ。茶色くて長い髪、顔立ちは整ってはいるが割と人族寄りの姿をしていて、耳が少し尖っている。若い女性に見えるが100年近く生きており、まだ50歳にも満たないアレイスターは随分面倒を見てもらっており、とにかく頭が上がらない。


「クラウディアさんは無茶を言いますね……」

「面白いものを見せてくれると期待しているぞ」


横にいるギルベルトが眉をひそめている。エルフの血だろうか。あまり権威的なものに縛られない。一応人族のコミュニティにいる以上、付き合っては見せているが。


「その魔族を即刻処刑しろ」


国王はレミリアの処刑を許可した。さっきから魔族とベオウルフのやりとりに違和感は感じるものの、魔族を迫害せずとも容赦する必要は無いのだ。


レミリアは残された魔力で『闇の壁』を展開する。

国王の命令で周囲の騎士がレミリアに刃を立てようとするが魔力の壁を越えることができない。

レミリアはその隙にバッグに入れていたマジックポーションを飲み干す。


「どうやらベオウルフを使役しているのは本当のようだな。かなりの魔力量だ。この魔力でバリアント領をいいようにしていたのですなあ」


ミドウが聞こえみよがしに大きな声で言う。レミリアはちょっと頭にきた。御前ではあるが大声で叫ぶ。


「ベオウルフさまは私を救ってくれただけです! バリアントをめちゃくちゃにしようとしたのは貴方達でしょ! 私の村だって! もういい加減にしてください!」


国王はレミリアの発言に少し耳を傾けた。アレイスターはチャンスかなと思ったが、先にミドウが反応した。


「何をしているのです。不死者を操り王国の領地を乗っ取ろうとした汚らわしい魔族を縊り殺すのです!」

「まだ言うの? もう許せない!」

「レミリア、こちらから仕掛けては相手の思う壺だ!」


アレイスターが制止するが、レミリアがオルトロスを召喚すると、オルトロスは即座に元の姿に戻ってミドウに飛びかかる。レミリアは念のため指示を出す。


「オルちゃん、ブレスは駄目だからね」


ミドウ達が慌てて『光の盾』で進路を塞ぐが、オルトロスが凄い力で暴れてシールドに噛み付いたりするので止めるのが精一杯だ。


軍務大臣が動いた。騎士団長のギルベルトに指示を出したようだ。軍務大臣ゴッドフリード伯オットーはギルベルトの父親で、ゴッドフリード伯爵家は2代続けて騎士団長を務める軍部の名門だ。


アレイスターは反逆者の烙印を覚悟しなければならない瀬戸際にいた。しかし、ヘラを呼び出そうにもレミリアがあれでは難しいし、攻撃魔法は反魔法で封じられているので、シールドを張るか、目眩しで逃げるくらいしか出来ることはない。


ギルベルトがオルトロスに向かって跳躍した。誰も目で追えない速度で一瞬でオルトロスの目前に到達し、大剣で一刀両断にした。


「オルちゃん!」


その瞬間、レミリアからごっそりと魔力が奪われ、オルトロスが再生した。

オルトロスは気が動転しているのか後ろに跳び下がって威嚇だけしているので、レミリアは慌ててオルトロスを回収する。


「ギルベルト殿、あの魔族を殺らねば不死者は滅びませぬぞ!」


ミドウが叫ぶ。

レミリアは慌てて『闇の壁』を展開し、クリスも首飾りから『光の盾』を展開する。


ギルベルトは今度はレミリアに迫り、大剣を振り下ろす。レミリアは悲鳴を上げて目を閉じてしまう。

王国最強の男の一撃に『闇の壁』と『光の盾』は容易く砕け散り、大剣がレミリアに届く直前、ベオウルフが丸腰で2人の間に割って入りレミリアを押し除ける。


ベオウルフが出せるだけ出した結界も全て砕け散り、ガードで振り上げた左腕ごと、ベオウルフは左肩から下に大きく切り裂かれた。

ベオウルフの傷口からは血ではなく闇の魔力が漏れている。ギルベルトは驚いている様子だ。


「もう本当に人ではないのだな」

「いや! ベオウルフさま、起きてください!」


ベオウルフは倒れるが、レミリアが泣き叫びながら送る魔力と引き換えに完全に再生する。しかしベオウルフは立ち上がれない。


「しぶといが、これで終わりだ。悪く思うなよ、魔族の娘」


再びギルベルトが大剣を振り下ろしたその時、

クリスが今まで召喚していた能天使とは違う、鎧を身につけた天使を顕現させて、その大剣を受け止めた。

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