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糾弾

一行が連れて行かれた先は、謁見の間だった。意外なことに、正式な形で国王への謁見を許された形だ。


謁見の間は荘厳な作りで、入り口に立っただけでは奥にいる人物の顔がよく見えないくらいの広さだ。

この場にいるだけで圧倒されそうだ。レミリアはちゃんと話せるか不安になってきた。


奥の壇上の玉座には、まだ誰も座っていない。

玉座の下には多くはないが、身分の高そうな格好をした貴族や騎士が待機していた。


レミリア達から見て壇下の右側に騎士団長ギルベルトと上司の軍務大臣、アレイスターの上司に当たる魔導士長が立っている。軍部のトップ3だ。

左側には宰相である国務大臣と数名の文官、令状に印を押したとされる法務大臣、昨日のミドウ司祭がいた。財務大臣がいれば文官のトップも揃うのだが、こんな茶番に立ち会う程暇ではない。


ミドウの後ろには神官や僧兵が待機しており、謁見の間全体にも騎士が配置されている。先程の中隊が全員いるのだろう。魔導士も数名見えた。彼らは反魔法を使っているはずだ。


3人は奥に立っている人物達の手前辺りまで連れてこられた。特に拘束などはされていないが、10名くらいの騎士に囲まれている。ミドウが嫌らしい笑を浮かべているように見えた。


レミリアはフードを取らされているが、王国では魔族は迫害の対象ではなく、今のところは特に酷い目には遭っていない。


少し待つと、文官の1人が国王の入室を告げる。

全員がその場に跪くと、慌ててレミリアもそれに倣った。


玉座の奥から金髪でたくましい体つきの壮年の男が現れた。フィーンフィル王国国王バルバネス3世だ。その後ろから現れたバルバネスを若くした感じの男が王太子ラインハートだ。

国王は玉座に座り、王太子はその横に立った。


「面を上げよ」


国王から声がかかり、全員が起立する。


「軍務、政務のトップである卿らを急に呼び出してすまなかったな」

「恐れ多いことです。全く問題ございません」


王国宰相兼国務大臣ハーネスブルグ公ヨシュアが応えた。宰相という肩書の割に30代半ばにしか見えない、黒髪で知的な雰囲気で端正な顔立ちの若い男だ。ハーネスブルグ公爵家は代々宰相を輩出する名門だが、決して血筋だけでなれるものではない。

ヨシュアは末の子だったが、公爵家始まって以来の天才と言われ、兄を全て蹴落とし、老齢の父から宰相の座を譲り受けた。


「エレオノーレ様のことで進展があったとお聞きしました」


国務大臣がそう言うと、国王は今回招集した要件を語り始めた。


「エレオノーレの調査の為にバリアントに送っていたアレイスターから、結果報告をしたいと謁見の申し立てがあった。しかし」


国王はベオウルフを睨みつけた。


「教会から看過しえぬ報告があったので、まずこちらを優先する。ベオウルフ、アレイスターが魔族と組み、王国に反逆したという内容だ」


国王はベオウルフ達に声をかけない。エレオノーレのことでベオウルフとはわだかまりがある。アレイスターは釈明の機会が与えられるか少し不安になったが、勝手な発言はこの場では許されない。


「国王陛下、発言をお許しいただきたいのだが」


法務大臣カールセン侯ベアテルが前に出た。人の良さそうなかなり老齢の男だ。細い目で、白毛の髭をのばしており、仙人のような見てくれだ。


「なんだベアテル。申せ」

「儂の手の者の報告で、教会が儂の印が押された令状を持って、被告人の元に先走ったらしくてのう。一応言うておくが、捜査令状程度に押す印に儂はいちいち関与しておらん」


どうやらドヤ顔で見せられた書類は大したものではなかったようだ。


「もちろん、今回話を聞いて刑罰を下す場合は儂が印を押すことになるがのう」


ミドウの口の端が少し引きつったように見えた。

国王は面白くも無さそうに教会勢に目を向けた。


「教会は熱心なことだな。しかし今回の報告は正直、簡単には信じられぬ。まずは今回この3人を告発したミドウ司祭から真偽を証明してもらおうか」

「かしこまりました」


ミドウが前に出る。


「できれば教会式に査問会の形式を取らせていただきたいのですがよろしいでしょうか。この件は自白していただくか、もしくは実力行使するしか証明する手段がございません。平和主義の教会てしては、できれば前者を取りたいので」

「査問会だと? まあ許す」


査問会。嘘をつかないことを神に誓わせて質問攻めにする、教会が異端査問に使う手法だ。異端査問官の多くは言いがかりをつけて暗殺する手法を取るが、そうもいかない相手や公開処刑したい場合はこの手法を取る。結果は同じだが。


「バリアント卿ベオウルフ、アレイスター卿、魔族の娘レミリアよ。この場で嘘偽りなく、我が問いに答えることを神に誓え」


何をするつもりかわからないので警戒するが、国王を前にして誓わないわけにはいかない。3人とも嘘偽りなく答えると誓った。

ミドウはニヤニヤしている。


「まずアレイスター卿。バリアント卿の体は死体と化している。卿はそれを知っているな?」


いきなり核心を突いてきた。場がザワッとなった。

魔導士長もいることだし、アレイスターとしては観念するしかないというところか。ミドウが急かす。


「早く答えろ。イエスかノーか答えるだけの話だ」

「知っております」


会場が騒つく。状況がよくわかっていないようだ。ベオウルフは普通に動いているので、見た目ではわからないのだ。


「魔族の娘レミリアよ。その死体を貴様が操っているな?」


今度はレミリアに飛んできた。しかもとんでもない質問だった。答えはイエスだが、そんなこと言えるはずがない。

レミリアはアレイスターを見た。アレイスターも考えあぐねているようだ。


「早く答えろ。所詮は汚らわしい魔族だな。我らが神への誓いを早々に破る気か」


レミリアは答えられない。正確には、どう答えるのが1番良いのかわからない。

ベオウルフが横から小声で言った。


「レミリア、なるようにしかならない。言ってしまえ。もし連中が暴発しても俺がお前だけは守り通す」


レミリアはベオウルフを見てから質問に答えた。


「はい、です」


ミドウが目を見開いて笑い声を上げ始める。


「ふははは! 以上でございます。時期はわかりませぬが、この魔族はバリアント卿を殺して魔術で操り、バリアント領を乗っ取った反逆者です。アレイスター卿は知りながらその悪行に加担しております。恐らく2年前の事件もバリアント領を狙ったこの魔族の犯行かと」

「それは違います!」


レミリアは叫ぶが誰も聞く耳など持たない。

国王が立ち上がった。


「アレイスターよ、貴様とは長い付き合いだったがこのようなことになろうとはな。残念だ」

「お待ちください、陛下」

「今のが事実ならもはや話を聞く必要を認めぬ」


言い訳しえない事実が混じっており、全面的には否定できない。ベオウルフを元に戻しておけば良かったのだろうか。

勝ち誇ったようにミドウが追い討ちをかける。


「陛下、魔族の処分はともかく、ベオウルフ卿の身はこの場で我々が浄化したく存じます。いつまでも死体に彷徨かれては王城が穢れます故」

「構わぬ、やれ」

「やめてっ!」


レミリアが慌ててベオウルフに駆け寄ろうとするが騎士に阻まれる。


『ターンアンデッド』


ミドウのターンアンデッドの光がベオウルフに収束する。

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