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不安な夜

その日の晩、レミリアは夕食の後でもう一回お風呂に入ってから、なかなか寝れずにぼんやりしていた。


1両日飛行魔術を使い続けたせいで精神的に疲労しているはずなのだが、今日会ったミドウに感じた恐怖が忘れなれないのだ。


(なんなのあいつ。全く会話にならないし)


ミドウは魔族だからとレミリアを蔑み、会話中1度もレミリアを人として扱わなかった。


(あんな酷い扱いされたの久しぶりだったなあ)


奴隷商から解放されてからは、バリアントの皆はレミリアを温かく受け入れてくれたし、アレイスターとの旅でも、ここまで来る旅でも魔族だからといって嫌な事は無かった。

昨日話したベルも魔族を滅ぼすなどと言ってはいたが、レミリアのことはベオウルフの仲間として真摯に話してくれた。


(やっぱり外の人族はあんなものだよね。もしベオウルフさまとかバリアントのみんなが先に亡くなって、そのまま私一人になったらどうなるんだろう)


などと、うじうじと考えていると、窓の外でクリスがニコニコしながら手招きしていた。


「クリス? ドアからノックして入ってって言ったじゃない。もう」


とか言いながらバルコニーに向かうが、丁度話し相手が欲しかったので嬉しかった。


しかし外にに出てもクリスはいない。

キョロキョロしていると左から声がした。


「レミリア」


そちらを向くと隣のバルコニーにベオウルフがいた。

夜風に当たっていたようだ。レミリアのように寝れないんだろうか。月に照らされた端正な横顔が格好良く、姿勢も良いので相変わらず絵になる男だとレミリアは思った。


「どうした。寝れないのか」

「はい」


ベオウルフも寝れないなら話を聞いて貰おうかなと思った。


「昼間の男が怖くて寝れないんです」

「ん? あの程度の実力の敵ならお前に指一本触れさせはしないが」


そういうことではなく、先程考えていたことを話す。

ベオウルフはなるほどと思った。

自分とて死体死体と嘲られ、非常に不愉快だったのだ。地味に繊細なレミリアは気に病んでしまったのだろう。


ベオウルフがふと見ると、森で寝泊りして薄汚れている時と違い、湯浴みをして身を整えたレミリアが月の光に照らされている様はとても美しく、まるで月夜に遊ぶ妖精のようだった。

なにを考えているんだと、ベオウルフは頭を振ってから考えた。


教皇庁の魔族蔑視は病的で、特に急進派の人族至上主義者は異常人格者の集まりだ。査問会とやらも何をしてくるかわかったものじゃない。


レミリアの不安を除けるような言葉を探していたが、放置した感じになってしまったようだ。レミリアが訝しげに呼んできた。


「ベオウルフさま?」

「ああ、すまない。どう言ったらお前に安心してもらえるか考えていたんだ」

「もう。せっかく話したのに放置されたかと思っちゃいました」


相変わらず思ったことをすぐ口に出す女だ。裏が無いのは良いことだが。


「魔族だからと言うがな、同じ人族同士だって分かり合えなければあんなものだ」


教皇庁の仕官を断ってから、延々と嫌がらせを受けている。レミリアほどではないが辟易している。


「レミリアはこんな短時間でバリアントの連中に受け入れられた。今後のことなんて心配しなくても、お前は上手くやっていけるさ」

「バリアントは優しい人ばかりですから」


ベオウルフの父親が死んでも若造についてきてくれた人物が中心になっている。自然とそういう人の集まりになっているのかもしれない。


「それに、今からお前に仇なす連中を倒しにいく。教皇庁自体は必要な機関だから残すが、あの狂信者どもは俺が根絶やしにしてやるから安心していい」

「ベオウルフさまもかなり危険です。本当に無理しないで欲しいです」


光の魔力のエキスパートばかりの集団だ。その気になればベオウルフを浄化する魔術は四方八方から飛んできそうだ。


「そいつは恐いな。魔術的なことは俺はからっきしだからアレイスターやお前に任せるよ」

「はい、命に代えても護りきって見せます!」

「おいおい、俺の立場が無いだろ」


なんで弱ってる女にこんなことを言わせているのか状況がよくわからないが、ベオウルフはアレイスターに言われたことをレミリアに伝えたくなった。


「そうだ、アレイスターの奴に言われたんだがな、俺が今の状態のままだと、お前との寿命差を気にしなくて良くなるらしいんだ。ずっとお前を護るために丁度良いと思っている」


なんだろう、微妙にプロポーズめいていないか? と思った。これは喜んでいいのだろうか。


「その、嬉しい話なんですけど、ずっと私といてくれるんですか?」


ベオウルフとしては別にやぶさかでは無かったが、少し飛躍しすぎた言い方になっていたようだ。


「まあお前に安心して欲しくて伝えたんだ。少し飛躍しすぎたかな? とにかくレミリア、もう遅いし安心して寝よう」


最後は少し照れ隠しが入ってしまったかもしれない。

レミリアはニコニコしている。


「ではそうしますね。話を聞いてくれてありがとうございました」


レミリアは安心して眠れそうだった。少しドキドキするけれど。


「そうだ、エレオノーレの件なんだが……その似ているとかなんとか、我が妹とはいえすまなかった。実はアレイスターにも指摘されていたことだったのだが」


この男は何を言っているのだろう。恐らく、隠していたことを謝りたいと考えていたのだろうが。

もう気にしていないからいいけど、クリスの話が無かったら微妙に嫌な気持ちになっていたかも。


完璧な大人の男かと思っていた。さっきのプロポーズ紛いの発言が台無しだ。


あと、ベオウルフは結構アレイスターとの間で、レミリアの話題を共有しているようだ。友情ってやつだろうか。


「気にしていないから大丈夫ですよ。ではもう寝ますね。ベオウルフさま、おやすみなさい」

「あ、ああ。おやすみレミリア」


レミリアが部屋に戻っていった。


「俺は何を言っているんだ。しかし、気にしていないのか」


少し妬かれているかと思っていたが、何ともないのか。ベオウルフは自嘲して苦笑いする。

さっさと寝てしまおうと、ベオウルフも部屋に入った。


盗み見していたクリスは、ベオウルフの不甲斐なさに呆れていた。せっかくお膳立てしてあげたのに。

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