王都
翌日、レミリアは少し寝過ごしてしまった。ベオウルフとアレイスターは早く起きて素振りや読書をしていたようだ。
レミリアは慌てて顔を洗ってから手櫛で髪を直して2人に挨拶する。
「おはようございます」
「おう、おはよう。よく寝たな」
「おはようレミリア。もうすぐ出れば昼過ぎには王都に着くから、ご飯を食べたら行こう」
レミリアがアイテムボックスから取り出したホノのサンドイッチを食べ終わると、再び王都に向けて飛び立った。
アレイスターとしては教会に集められた僧兵の襲撃があるかもしれないと警戒していたのだが、その心配は徒労に終わったようだ。
特にさしたる事もなく、アレイスターの言っていた通り昼過ぎには王都の城壁が見えてきた。
「なんですかあれ。壁が山みたいなんですけど」
「王都はでかいからな。近くに行くともっとすごいぞ」
フィーンフィル王国の王都フィーンフィルは中央建築物である王城は空高くそびえ立ち、城壁に囲まれた街も延々と続くようだった。ベオウルフの言う通り、近づけば近づく程レミリアは圧倒されていった。
さらに近づくと、城壁は地面からでは上まで見ることができないほどの高さだとわかった。
「どうやって作るんでしょう、こんなの」
「城壁は手作りではなく、大勢の魔導士による土の創造魔術で作っているはずだよ。王城も基礎は魔術によるものだったかな」
南門の付近で着地すると、入門待ちの人でごった返していた。突然降り立ったレミリア達に周囲の人が注目する。
「かなり悪目立ちしてませんか?」
「しかもこんなのに並んでいたら昼を食い損ねるぞ」
「そうだね、大人しく東門から入ろうか。できれば旅行者のフリをして入門したかったんだけど」
東は王都内の住民のみ使える門になっている。早く入れるが帰宅がばれるのだ。ベオウルフが面倒くさそうに言った。
「東門ならすぐに入れるのに別にこそこそする必要はないだろう」
「昼を食べていたらいきなり呼び出しとか嫌じゃないか」
たくさんの人に見られながら南門から飛び立つと、今度は東門に降り立った。東門では住所と名前を確認されるが、アレイスターは顔パスだった。
「アレイスター殿ではないですか。今お戻りになったのですか? どうぞどうぞ」
東門の兵士が目ざとくアレイスターを見つけて通してくれた。しかし、これで王まで筒抜けになるとアレイスターは言う。
「そこまですぐ伝達するか?」
ベオウルフは半信半疑だ。
とりあえず、アレイスターの邸宅に向かうことにした。
東門は居住区なのでまだましな方だが、それでも人だらけだった。しかもやたらと広く、いつアレイスターの家に着くのかわからずレミリアは疲れてきた。
「まあ貴族は馬車で移動するね。たぶん王に呼び出されるから、その時は借りてあげるよ」
領地は無いが、アレイスターも名誉貴族の地位を与えられており、給料のような形でじゃぶじゃぶにお金をもらっている。
見えてきたアレイスターの屋敷も立派なものだった。王国の技術の礎である魔導研究所の職員は好待遇なのだ。
「一応不在の間のハウスキーパー的なことは依頼しておいたんだけど、普段はリリが全部してくれるから、彼女がいないと不自由かもしれない」
「半年近くバリアントにいてもらったからな」
久しぶりのはずの屋敷は綺麗に清められており、アレイスターが依頼した臨時のハウスキーパーは良く仕事をしてくれたようだ。アレイスターが関心したように見て回っている。意外と細かい男だ。
「リリも一人じゃ大変そうだし、ちゃんと雇ってもいいかもね。また寝所を用意してもらわないといけないから頼まないと」
「シーツはあるでしょうから私がしますよそれくらい」
「じゃあお願いしようかな。2階の客間に案内するよ」
アレイスターに案内された屋敷は広かった。ベオウルフの屋敷の半分くらいはあるかもしれない。リリは1人でどうやっているのだろうか。
「俺はいつもの部屋を借りるぞ」
ベオウルフは先に部屋に入って行った。
隣がレミリアの部屋に、その隣がクリスの部屋になった。
「何日滞在するかわからないから、やっぱり使用人には来てもらうよ。お風呂もあるから、自分で湯を作れるなら入っていいよ。汗を流したければどうぞ」
「え! お風呂入りたい」
レミリアはすぐに風呂に行くことにした。クリスも行きたそうだ。
「あら、私もご一緒してよいですか?」
「精神体でも気持ちの良いものなんです?」
「気持ち的なものですよ」
2人は笑いながら行ってしまった。
そのとき、屋敷の外に馬が止まった音がした。気のせいではなかったので、アレイスターは1階に降りて玄関を開いた。
外には騎士が2名立っていた。
「アレイスター殿、ようこそお帰りくださいました。東門からバリアント卿と一緒に帰宅されたと報告があったので確認に参りました。陛下が調査報告を心待ちにしておられます」
「ああ、やっぱり筒抜けなんだね」
アレイスターはゲンナリした。ベオウルフも降りてきていた。
「本当に伝わるんだな。しかし陛下にまで伝わるとはやっぱり過敏過ぎないか」
「うーん、まるで僕達が来る情報が先にあったみたいだね。まあ丁度いいや。陛下に謁見を希望したいんだ。また謁見時間が決まったら教えてくれないかい」
「かしこまりました」
騎士達は帰って行った。
「とりあえず腹が減ったぞ。何か食べにいこう」
「そうだね、レミリア達が風呂から出てきたら行こうか」
「女の風呂は長いぞ」
ベオウルフ達が空腹のまま半刻ほど待つと、上気したレミリア達がやってきた。レミリアは元気が無いように見えた。
「お待たせしました」
「長かったぞ……ってレミリアお前のぼせたのか?」
「いえ……」
クリスが苦笑いしている。レミリアは何も言わないが風呂場でクリスの身体を見て、自分とのあまりの差にショックを受けたのだった。
「じゃあ食事にいこうか」
アレイスターの一声でみんな歩き出した。




