魔力を扱う練習
レミリアは今日から魔力の扱い方を教わる。
一応、アレイスターの助手という形なので、レミリアも仕事扱いになり、お小遣い程度の給料がもらえるらしい。
朝食が終わったら早速アレイスターの部屋に向かった。
部屋は相変わらず散らかっていて、昨日、本を退けたはずの椅子に、また本が積まれている。
これで仕事になるのだろうか。
「おはようレミリア。こんなに早く来てくれるなんて、やる気を感じるね」
「え、仕事と言われたので……もう少し寝てて良かったんですね」
「いや、毎日この時間でいこう」
アレイスターは朝からやる気満々だ。レミリアが来るや否や、早速講義を開始した。
「まずは闇の魔力を君の意思で扱えるようになろう。そのためにはまず、闇の魔力について知らないといけないよ」
闇の魔力は、魔族の神である闇の神の力を借りることで、発現させることができる。
人族の神である光の神の力、光の魔力と相反するものだ。
「やっぱりそこから入るんですか」
「何を言うんだい。魔導は使用する力の根源を知ることで、より効率良く結果を引き出すことができるんだ。それに、力を貸してくれる人を知らないのは失礼だろう」
「じゃあ、その闇の神様はなんて名前なんですか?」
「名前はわからないんだ」
創造神と、属性に関わる六つの種族の神の名前は知られていない。
もっと深淵を覗き、彼らの名を知ることができれば、強大な力を行使出来るかもしれない。
その眷属の神や精霊には名前があり、直接力を貸してくれる。
「ごめんなさい、もう大丈夫です」
「レミリア、君は探究心が足りないね」
その後、兵士の訓練場の隅で、実際に魔力を扱う練習を始める。
訓練中の兵士の視線が痛い。
文字だけが刻印されているシンプルな指輪を渡された。
人差し指に通すと、レミリアの指のサイズに変形した。
「わっ!?」
「教皇庁にある魔導学院で、最初に学生に配られる補助の魔道具だよ。力を込めると魔力を引き出してくれるから、あとは属性のイメージをするだけで済むんだ」
「ぐっと力を入れると何かが引っ張られる感じがします」
ベオウルフが倒れて焦っていた時と同じ感覚だ。
ついあの時の黒い雲をイメージしてしまった。
指輪から黒い雲が漏れ出した。
「いいじゃないか。力を抜けるかい?」
「えっと……」
力を抜くと、黒い雲は消えた。
「イメージと出力はもう出来ちゃうみたいだね。本当に初めてなのかい?あやしいなあ」
「初めてですよ。まあ、勝手に出ちゃったことはあるけど……」
「初めてにしては優秀すぎるよ。慣れてきたら、指輪を外して練習するといい。指輪は少し魔力を消費してしまうから効率が悪いんだ。安全性を考慮して、一度に大量に出力しないようになってるし」
それから、まずは簡単な魔法で、魔力の制御を覚えることになった。
「初日から魔法を教えるとは思わなかったよ。出力に1か月くらいかかる子もいるからね」
「魔導学院って何歳から入るんです?」
「人によるけどね。僕は10歳で入ったよ。それより下だと入れないかな。まだ魔力の少ない子供が枯渇すると危ないからね」
レミリアはあの時寝てしまった。
どうやら魔力を出し切ってしまったのだ。
「目標に魔力をぶつける『闇撃』と、自分の身を守るための『闇障壁』を身に付けよう。それらの威力調節で、制御を覚えてもらう。魔力には限りがあるから、枯渇しないように気をつけてね」
「やってみます」
「え? ちょっと待って、ここじゃ危……」
レミリアは訓練場の人型の的をじっと見る。
闇の神に力を貸してくださいと心で願い、ベオウルフを包んだ暗闇の雲を思い出す。
的に向かって魔力を射出する。
ズルっっと魔力を一気に吸われた。
『闇撃!』
闇の球がゆっくり尾を引きながら発射され、的まで届かずに落下し、轟音と共に砂煙を巻き上げた。
砂煙が引くと、辺りに大きなクレーターができていた。
「何をしているんだ!!!」
兵士長が激怒して飛び出してきた。
訓練場での特訓は禁止になった。
お昼ご飯を食べてから、人のいない荒野で訓練を再開することにした。
「結構歩きましたね……疲れました」
「今から練習するんだよ。君があんなことしなければ、もう少し近場でも良かったんだ」
最終的にノイマンまで現れて、田畑に被害が出るとまずいから、本当に何もないところを探せと言われた。
「まあ気を取り直して練習練習っと」
拳くらいの大きさの『闇撃』何度も撃ち出す。
速度も上がり、結構飛ぶようになってきた。
「レミリアは本当に飲み込みが早いね。明日はもう『闇障壁』の練習に移れそうだね」
「なんだか楽しくなってきました。って、あれ? 何かこちらに向かってきますけど」
「んー、どれどれ。あれはワイルドボアだね。毛の生えた豚の魔物。一直線にこっちに来てるね」
いうや否や、アレイスターはレミリアを抱えて跳躍した。その横を体長が大人2人分はあろうかというワイルドボアが通り過ぎた。
ワイルドボアは一度止まって、こちらに向き直った。
「明らかに僕達を狙ってるね。レミリア、君の魔法が当たったんじゃないのかい?」
よく見ると頭に何か当たった痕があった。
「えー? ごめんなさい!」
「仕方ないからそのまま倒しちゃってよ。今日はそれで帰ろう。『闇障壁』はまだできないだろうから、今日は僕が壁になるよ」
『ウインドシールド』
レミリア達を中心にドーム状の風のシールドが発生した。ワイルドボアは弾かれて近づけない。
「さあ、逃げる前に」
レミリアは意識を集中する。
『闇撃!』
拳よりはだいぶ大きな弾がワイルドボアに突き刺さる。3発で動かなくなった。
「やった!」
「お疲れ様。これだけ大きいと肉がたくさん取れそうだね。喜ばれると思う」
「持って帰れませんよ、こんなの」
アレイスターはワイルドボアの首を切って血抜きを始めた。
血抜きを終え、胸元から魔法陣が描かれた袋を取り出し魔力を込めると、ワイルドボアは袋に吸い込まれた。
「これで簡単に持って帰れるよ」
「その魔術、便利ですね。教えてください!」
「もちろんだよ」
その日、お城は豚肉祭りだった。