表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

月の恋人

月の恋人-花-

作者: 楓海

 月の恋人の続きでは無く、全く別の月にまつわるラブストーリーです。

 ボクはひまわり。


 嵐の夜、酷い風に揺られ雨に打たれボクは折れない様に頑張った。


 嵐が止むと黒い不気味な雲の切れ間から優しい月の光が(こぼ)れ始める。


 月の柔らかな光がボクを照らして、魔法をかけたんだ。


 ボクはひまわりの妖精になって、軒下に咲くひまわりの花から飛び出した。


 ボクは自由が嬉しくて辺りを踊り回った。


 踊りながらボクは道を進んだ。


 あっちの庭からもこっちの庭からも、月の光の魔法にかかった花の精たちが踊っているのが見える。


 みんなお友達になったり、恋をしたり、忙しそうだ。


 だってボクたちの生命(いのち)は永遠だけど短いんだ。




 ボクは踊っている内に海に来てしまった。


 夜の砂浜に一人の少女がとても倖せそうな笑顔で、服のまま水浴びをしていた。


 少女はおかっぱで濃いピンクのワンピースがよく似合っていて、ボクはお友達になりたくて近付いた。



 彼女はボクに気付くと小首を(かし)げボクを見詰めた。

 それから悪戯(いたずら)っぽい笑みを浮かべるとボクに、無遠慮に水をばしゃばしゃ掛けて来た。


 嬉しくなってボクも彼女に水を思い切り掛け(まく)った。


 水に濡れた彼女は美しくて可愛らしかった。


「キミ、名前は? 」


「リル。

 アナタは? 」


「ミシェル

 キミ、何処から来たの? 」


「さあ、何処からでしょう?

 当てたら、海にダイヴさせてあげる」


「ええっ!?

 じゃあ、当てない! 」


 リルは答えてもいないのに、ボクの背中をグイグイ押して、水が(ひざ)まである処まで押すと力いっぱいボクを突き飛ばした。


 ボクは思い切り顔面から水面に飛び込んだ。


 ボクはべしゃべしゃの顔をリルに向けて怒鳴った。


「何するの!? 」


「髪が黄色いワカメ! 」


 リルはボクの黄色い髪を指差して笑った。


 ボクは立ち上がると顔に貼り付く前髪を掻き上げ抗議した。


「酷いじゃないか! 」


 宝石みたいに、キレイに輝く瞳でボクを見詰めて言った。


「ごめんね」


 あれ、以外に素直………………。


 リルはボクに近付くとボクの頬にキスをして、走って行った。


 走って行くリルの濃いピンクのワンピースが薄いグリーンに変わって行った。


 リルは急に立ち止まってしゃがむと濡れた砂で遊び始めた。


 ボクが近付くと砂を盛りながらリルは言った。


「ねえ、お城を作るから手伝って」


 ボクは、まだ少し怒っていたから(しばら)く考えてから言った。


「もう一度、頬にキスしてくれたらいいよ」


 リルはボクを見上げてじっと見詰めた。


 ボクはその見詰める眼にドギマギして言った。


「いやなら、いいけど……………」


 リルはにっこり笑うと立ち上がってボクの頬にキスしてくれた。


 ボクは嬉しくなって勢いよく(かが)むと砂を沢山積み上げた。


「大きな大きなお城作ろう! 」


「大きな大きなお城作りましょ」


 リルとボクは顔を見合せて微笑んだ。


 気づけば黒い不気味な雲は消え去り、いつの間にか丸い月がとてもキレイな夜になっていた。


 砂は無限にあるからボクとリルはそれこそ大きなお城を三日三晩掛かって作り上げた。


 お城が出来上がるとボクとリルは抱き合って喜び合ったけど、疲れ過ぎて二人してへたり込んだ。


 太陽が照り付く砂浜で、ボクとリルは出来上がったお城の前に並んで座ってずっとお城を見ていた。


 砂がキラキラ光ってキレイだった。


 ボクはリルの可愛い横顔に言った。


「砂の粒がとてもキレイだよ

 赤や薄い水色なんかが混ざって」


「そうね」


 リルはボクを見て笑った。


 ボクは立ち上がってリルに手を差し伸べて言った。


「お嬢さん、一曲お相手を………………」


「よろしくてよ」


 リルは気取って言うとボクの手に手を載せた。


 ボクは何時か何処かで聴いた歌を歌いながらリルと踊った。


 ボクはリルの手を上げてリルに回るよう(うな)したのにリルの足がもつれて、転んだ拍子にぶつかってお城の一部が崩れてしまった。


 リルは怒って言った。


「へたっぴい!

 お城が崩れちゃったじゃない! 」


 ボクはリルの物言いに頭に来て言った。


「キミがボクの合図を無視するからだろ! 」


「アナタのリードが下手だからでしょ! 」


「キミが下手だからだよ! 」


 ボクとリルは大喧嘩になった。


 そこへ赤い髪のキザッたらしい男がやって来てリルに話し掛けて来た。


「君のそのワンピース、とても素敵だ

 俺と来ない? 」


 リルは赤い髪のキザッたらしい男に手を伸ばした。


「いいよ、行く」


『そんな奴と行っちゃうの? 』


 ボクはそう思ったけれど言葉にはしなかった。


 リルのワンピースの色が赤紫に変わった。


 赤い髪のキザッたらしい男がリルの肩を抱いて遠去かって行くのを見てボクは気付いた。


『ボクはリルに恋してたんだ……………………………………』


 リルは赤い髪のあんなにもキザッたらしい男に微笑み掛け行ってしまった。


 ボクはお尻から根を生やしそうなほど、じっとお城を、何日も座って見守った。


 お城は渇いて、砂が風に(さら)われて少しずつ壊れて行った。


 やがて雨が降ってお城は崩れ、海に流れてただの(ゆる)やか

な砂山になった。


 きっとリルはもう帰っては来ない。


 だってリルはボクに恋をしてた訳じゃ無いから……………………………。


 ボクの涙も海に流れた。


 月は(しぼ)んで消えた。


 そしてまた、膨らみ始めた。




「ミシェルー! 」


 誰かが呼ぶ声がしてボクは辺りを見回した。


「ミシェルー! 」


 声の方を振り返るとリルが………………………………。


 ボクは驚いて動けなかった。


 リルは砂浜を遠くから、一生懸命走りながらボクを呼んだ。


 走って来るリルが幻で無い事を願いながらボクはリルを待った。


 リルはボクの処まで来ると息を切らして言った。


「ごめんなさい

 ワタシが莫迦(ばか)だったの

 情熱的だけど誰にもそうなの

 あんな不実な薔薇なんて、もう知らない

 アナタの(そば)がいい」


 そう言ってボクの胸に額を預けてリルは泣いた。


「可哀想にリル、辛い想いをしたんだね」


 リルは小さく(うなづ)いた。


 ボクはずっと言いたかった言葉を言った。


「好きだよ、リル」


「ワタシもミシェルが好き」


 リルの赤紫のワンピースは淡いグリーンになった。


 リルがボクの顔を見詰めたから、ボクは思わずリルの口唇に口付けた。


 眼を閉じて応え、口唇を離すとボクを見て微笑むリルはとても可愛らしかった。




 それなのにリルは行ってしまった。


 銀髪の気取った奴が水際を歩いて、ちらりとこちらを見ただけなのに、リルはワンピースを白色に染めて行ってしまった。


 リルは細い腕を後ろに回して手を組み、そいつの周りをまとわりつくように前を歩いたり横を歩いたりして、嬉しそうに微笑み、(しき)りに話し掛けながら行ってしまった。


 置き去りにされたボクは待った。


 なんとなくだけどリルはまた、帰って来る気がしたから。


 そして、それはその通りになってリルは青紫にワンピースを染めて戻って来た。


「鉄砲百合はやたら汚れるのを気にしてつまんないし、ラベンダーは直ぐに浮気するの

 やっぱりアナタの傍が一番だって気付いたの」


 リルのワンピースの色は勿論薄いグリーンになった。


 でも、リルが戻って来た日から日照りが始まった。




 何日も日照りが続いてボクとリルは疲れ果て背中合わせに座ったまま、恨めしく空を見上げていた。


「雨、降らないね」


「降らないね」


 海の水さえも干上がってしまうんじゃないかって思えるほど、ジリジリとお陽様は大地を焼いて草木たちをしなだれさせた。


 ボクとリルも少し痩せてしまった。


 海風は雨雲を運ぶ事無く、虚しくボクたちの頬を(かす)めて何処かへ行ってしまう。


 リルが言った。


「夏が終わる前にワタシたち枯れてしまうのかな」


「そしたらボクたち永遠に逢えなくなるよ

 そんなの嫌だな」


「そうなったらワタシ、哀しい………………………」


 ボクは水平線に眼を凝らし、彼方の黒い塊に眼を見開きリルに言った。


「リル見てっ!

 雨雲じゃないかな! 」


「え? 」


 ボクとリルは水平線の彼方に見える黒い塊がゆっくりと大きくなるのを、期待を膨らませて見詰めた。


 それは少しずつ大きくなって、景色をぼやけさせ、やがてボクとリルの頭上を覆い、砂浜を濡らした。


 雷鳴りが鳴って激しい雨が降り注ぐ。


 リルは跳ね回って喜んだ。


 リルとボクはびしょびしょに濡れながら両腕を広げ、声を上げて笑い、雨を歓迎した。


 ピカピカ光る雷鳴りをライトにボクとリルは両腕を広げたまま踊り回った。


 あんまり近くで雷鳴りが鳴ったので、驚いたリルはボクに抱き付いた。


 ボクとリルは雨を浴びながらずっと長い事抱き締め合っていた。


 たっぷりと雨を降らせた雲は去って行き、丸い月の明かりが海を照らしていた。


 月を見上げたリルの顔は見る見る青ざめ、ワンピースの色が濃い茶色に変わった。


「ワタシ、行かなくちゃ!

 ミシェル、さようなら! 」


「行かないで、リル! 」


 振り返ったリルは哀しそうな顔でボクを見詰めた。


「アナタも帰らなきゃ、死んでしまう! 」


「ボクはそれでも、リルの傍に居たい! 」


 リルの眼から涙が零れて顔を(ゆが)ませると走って行った。


 ボクは追い駆けた。


 リルは手を優雅に躍らせながら坂を登り、階段を駆け上がり、公園を横切って、何処かの家の花畑を通って、細い小路を右に曲がったり左に曲がったりした。


 リルを見失わない様にボクは必死で追い駆けた。


 貧しそうな家の小さな庭に咲く紫陽花(あじさい)の前で立ち止まった。


「リル! 」


 リルは振り返った。


「早く帰って! 」


「いやだ!

 リルが大好きなんだ! 」


「死んじゃう! 」


「それでもいい!

 リルを忘れたくない! 」


「朝が来る!

 月が消えちゃう!

 その前に早く! 」


 ボクは駆けてリルを抱き締めた。


 リルもボクの背中に腕を回してボクを抱き締めた。


「もう、こんな風にリルを抱き締める事もできなくなるんだよ

 それなら、消える最後の瞬間までこうしてたい」


 リルの感触が不確かになって行った。


 そうじゃ無い、ボクが…………………………………。


 リルは両腕を広げると透明になってボクの腕をすり抜け紫陽花に溶けて行った。


 涙を残して。


 ボクの手も透明になって行く。


 軒下のボクの花弁(はなびら)は散って茎も葉も枯れてしまったのだろう。


 紫陽花の花言葉は、移り気。

 ひまわりの花言葉は、アナタだけを見詰める。


 ボクはリルを好きだった証に一粒の種になってリルの隣に留まろう。


 リルの直ぐ傍で、春には土に根を張ろう。


 そして、ボクとリルは来年また恋をするんだ。 




       fin




 読んで下さり有り難うございます。

 水渕成分様の熱烈なラブコールのお陰で月の恋人-花-がこうして形になって、とても嬉しく思うと共に水渕成分様に深く感謝したいです。

 マンガでは8ページのショートショートで、出逢って恋をして種になると云う単純なストーリーだったのですが、そのまま文章にしてしまったのでは、余りにもつまらないので、めいっぱい脚色しました。

 楽しんで戴けたなら倖いです。

 




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 花たちのダンス、といった感じで、華麗ながらも切なくて、いいですね…!
2022/12/22 23:20 退会済み
管理
[良い点] とても素敵なラブストーリーです。 花言葉が、そのまま花の精の性格になっているんですね。 ラストは、哀しい終わりでしたが、来年またふたり会えるといいなぁとおもいました。
[良い点] 切なくピュアなラブストーリーです。 短いお話ですが、しっかりと最後までまとまっています。 ラストを終える頃に温かい気持ちになるような、作者様の人柄を映した展開です。 [一言] お疲れ様です…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ