金髪ギャルと黒髪ロングの委員長と僕
放課後の教室。
帰りの準備をしていると、隣の席から声をかけられる。
「姫宮君、ちょっといい?」
「…委員長。どうしたの?」
「私、先生から仕事頼まれたんだけど、一人じゃ大変だから手伝ってくれない。」
「え、うん…。いいよ…。」
僕は姫宮 光琴。高校生だ。
今年、二年生になって、新しいクラスでの高校生活が始まったばかり。
自分で言うのもなんだが、僕はあまり目立つ存在ではない。
運動が苦手。勉強がそれほどできるわけでもない。イケメンと騒がれるような顔の作りもしていないし、身体も小さく男らしさにかけている。
クラスに何人かは必ずいるような、目立たない人だけでしか話をしない、日陰にいるような存在だ。
1年生の頃からそうだったから、その立ち位置については何も思うところはない。
静かで平穏な学校生活が送れたら、ぼくはそれで満足なのである。
ただ、二年生になってから、僕には少し心配なことがあった。
今、仕事の手伝いを頼んできた人物。
僕の隣の席の黒川 天音さん。このクラスの委員長だ。
成績優秀、運動もそつなくこなし、先生からの評価はすこぶる高い。
そして何より、その見た目。長いストレートの黒髪に整った顔立ち。キリッとした顔立ちはカッコいいし綺麗だ。身長も高めでモデルのようだ。すらっとした長い脚はいつも黒のタイツで隠されている。
そんな外見だ、男子からは常に注目されていた。
女子からも変に気取らなく気さくなところが人気のようで、いつも友達に囲まれていた。
その委員長。僕は密かに苦手にしていた。
何故なら…
こうやって仕事を頼まれるのは初めてではないからだ。
委員長は結構な頻度でこうして僕に仕事を頼んでくるのだ。しかも、他の人と話をしているときは笑顔でよく喋っているのに、僕に仕事を頼むときは真顔。にこりともしないし、まったく話をしない。
絶対に気が弱そうで使いやすそうな男だと思われてる。
だから面倒な仕事があるときだけ話しかけてくるのだ。
黒川さんはいい人だと、みんなが言う。
だけど、どんなにいい人でも自分に必要ないと思えば扱いは変わるものである。
そして、僕が気が弱いのは事実だ。
ただ仕事をやらされるだけとわかっていても僕は委員長の頼みを断れない。
断ってどうなるのか、もっと酷い扱いに変わることを考えると怖いのだ。
そこからイジメにまで発展することなんて容易に想像できてしまう。
委員長の隣の席になってしまったのが運の尽きだ。
せっかく地元を離れて一人、遠くの高校まで来た。今まで平穏に過ごせていたのに、もう中学のときのようなことにはなりたくない…。
こうして、今日もまた、僕は黙々と委員長の仕事を手伝うことにする。
「……。」
そんな僕の様子を見ている人がいることを、その時の僕はまだ知らなかった。
委員長の仕事の手伝いを終えて一人で昇降口に向かう。
仕事を頼まれてからは黙々と作業を進め、早めに仕事を終わらせた。
委員長からはお礼を言われたので、とりあえずはよかったと思ったのだが、この後も時間はあるかと聞かれてしまった。きっと委員長は別の仕事も頼むつもりだったのだ。
それを察した僕は、今日は用事があるからと急いで教室を出た。「この後、時間ある?もしよければ一緒に、」このセリフのあとに、いったいどんな仕事を頼むつもりだったのか、考えるだけでも恐ろしい。
もちろん僕に予定など何もない。逃げる口実だが、話を途中で遮って出てきてしまった。少し強引だったかもしれない。委員長の機嫌を損ねなければいいのだけれど…。
一抹の不安を感じながらもこれ以上、仕事を手伝わされるのは嫌だった。
気にしすぎないようにして、そのまま帰るために昇降口で靴を履き替えていると「ねぇ、姫宮君?だよね。」後ろから声をかけられた。
振り向くとそこにいたのは、学校ではとても目立つ金髪、他の女生徒と比べてもかなり短いスカート。知っている。
同じクラスの女子。派手な容姿と明るさで男子、女子問わず、いつも人に囲まれている。カースト最上位に位置するギャル。金谷 柚葉さんだ。
同じクラスだが僕とは住む世界の違う住人。もちろん話をしたことなど一度もなければ、席が近いなどの接点もない。そんな人がいったい何の用なのか、怖かったがもはや無視するわけにもいかない状況だ。
「そうですけど、何でしょうか?」
「えっと、いきなりごめん。アタシ金谷柚葉。クラスメイトなんだけど、知ってる、よね?」
「はい、知ってます。」
「よかった。話したことないから、もしかしたら知らないかと思って。」
安堵したように笑う金谷さん。その笑顔は僕が人見知りでなければ、素直に可愛いと思えていたかもしれない。しかし、人見知りの僕には何を企んでいるのか怖くて仕方なかった。
「そ、それで どうかしたんですか?」
「あ、ごめんね。えっと、さっき委員長に仕事頼まれてたでしょ?その事なんだけど。」
「は、はぁ。」
「最近よく手伝ってるなと思って、姫宮君ってクラス委員の仕事する係か何かなの?」
「違いますよ。そんな役職ではないです。」
「だよね。じゃあどうして、いつも手伝ってるの?」
「あれは委員長に手伝ってほしいと頼まれたからで、隣で頼みやすいからだと思いますけど…。」正直僕は金谷さんがこんな事を聞いてくる理由がわからなかった。どうしてこんなことを聞いてくるのだろうか。
「だけどさ、最近いつも手伝ってない?それにさほど量の多くないようなことまで。」
「それは、僕は頼まれてるだけで仕方なく。」
「仕方なく⁉︎ てことはやっぱり無理に手伝わされてるの?」
「え、そんなことは言ってな…」
「やっぱりそうだったんだ。あの女、姫宮君の優しさに漬け込んで…酷い。」
「いや、だからそういう訳じゃ」
「姫宮君!安心して、もしまた委員長に仕事頼まれたら、明日からはアタシが助けてあげるから!」
「え?」
「それじゃあ、急にごめんね。アタシ、友達待たせてるから、また明日ね!」
「あ、待って…。」
金谷さんは一人で納得し、僕の話も聞かずに走って行ってしまった。そもそも何故、金谷さんが僕と委員長のことを気にしていたのか。単に変な正義感を起こしているだけだとは思うが、訂正しておく方がいいかと思い、話を聞いてもらうために追いかけようとしたが、金谷さんが走って行った先に派手な外見のお友達がたくさん見えたのでやめておいた。
明日から?助けてくれる?そんな事頼んでないし、本当にそんなことになれば逆に悪目立ちしてしまう…。
まぁ冗談だろう、今まで何の接点もなかったのだ。たまたま目に留まって、何となくいい人ぶりたくなっただけのことだろう。明日には言った本人が忘れているに違いない。
少しの不安を感じつつも、楽観的に考えてそのまま帰宅する。家で過ごし、寝る頃には僕はそんな事はすっかり忘れていた。翌日、学校でどうなるかなんて想像もしていなかった。
こんばんは 美濃由乃と申します。
投稿している別の作品"派手なギャルと地味なぼく"がもうすぐ1章終了でキリがいいので、短編も投稿してみました。
こちらも連載できたらなと、見ていただけると嬉しいです。よろしくお願いします!