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ヨネシゲの記憶  作者: 豊田楽太郎
1章 夢の世界へ
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第6話 晩餐 ※挿絵あり

 誰だって理想を思い描き、自分だけの空想の世界もあるかもしれない。

 だがその世界が理想と異なっていたら…?



 ここはヨネシゲ・クラフトが作り出した世界。

 簡単に言うと彼の空想の中である。


 彼にとってここは理想の世界である……いや、理想のはずだった。


 彼が思い描いたものとは異なることがいくつかある。

 美人であるはずの実姉メアリーが“THE男”ヨネシゲの顔にそっくりであったり、ヨネシゲの思い描いた世界に登場しないはずのユータが出てきたりと。

 ユータに関しては彼の世界に迷い込んでしまった訳であるのだが……

 そして健康的でスポーツ万能、自慢の息子ルイスは病弱体質であった。


 自分の理想とは異なるこの世界。

 この中途半端な世界は何なんだ!?

 そもそもここは本当に自分の空想なのか?疑問は積もる一方だ。


 ガチャン


「…………」


 ヨネシゲは無言で部屋を飛び出す。

 理想と異なる現実と直面したヨネシゲ。特に息子ルイスがキャッチボールもできないほど病弱だと知ってかなりショックを受けているようだ。


 ヨネシゲを追うユータ。


「ヨ、ヨネさん!」


 ユータの呼び掛けにも歩みを止めない。一体どこに向かうのだろうか?

 いや、行く当てなどないだろう。

 今のヨネシゲは放心状態、無意識で部屋を飛び出しているのだ。


 そんなヨネシゲを心配になりユータは制止しようと言葉をかける。


「ヨネさん!どこに行くんですか!?部屋に戻りましょう!」


「…………」


 しかしユータの声はヨネシゲの耳には届いていないようだ。何とかしてヨネシゲを止めないと。



「ここは!架空の世界なんです!」


「!?」


 その言葉にヨネシゲは足を止める。


 ユータは言葉を続けた。


「俺たちが居ちゃいけない世界なんです!」


 ヨネシゲは振り返りユータを見る。


「このままじゃ俺困ります。現実世界でやらなくちゃいけない事が沢山あります!ヨネさんだってそうでしょ?」


「正直俺は現実世界でやらなくちゃいけない事は一つもない……」


「ヨネさんっ!」


 ヨネシゲは現実世界でやることは無いと言うのだ。

 そんな訳あるはずない。彼には守るべき家族が居るし、他にもやることは沢山あるはずだ。

 とはいえこのままこの世界に居るのはヨネシゲも困るようだ。


「だが、この世界が俺の理想と異なるなら、ここにいる意味はない。帰る方法を探さないとな。頭がおかしくなりそうだ…」


「俺もずっと頭が混乱してます……」


「もう十分だな……。理想の世界は胸の内にしまっておこう…」


「ヨネさん……」


 ヨネシゲの切ない表情を見るとユータはかける言葉が見当たらなかった。


 静まり返った屋敷の廊下で二人は立ち尽くす。しかしその沈黙はすぐに破られる。


ぐう~


 突然ユータの腹が鳴り始めた。


「す、すみません…腹減っちゃいまして」


 恥ずかしさで顔を赤く染めるユータにヨネシゲは微笑みかける。


「腹は正直だな」


「へへへ……」


「腹が減っては戦はできん!まずは腹ごしらえだな!」


「そうしましょう!」


「俺たちのためにご馳走を用意しているみたいだしな」


「楽しみです!」


 いつもヨネシゲの一方的な話を聞かされていたユータであったが、この時は初めてまともな会話をした気がした。







 ユータとヨネシゲは夕食のため屋敷のリビングに来ていた。

 大きなテーブルの上にはご馳走が並べられていた。夕食と言うよりは晩餐と言う言葉が似合う。


 テーブルを囲むのは彼らの他にヨネシゲの妻ソフィアに実姉のメアリー、その他に三人の男女の姿があった。


 ユータは先ほどこの三人から自己紹介を受けたばかりだ。

 ヨネシゲ曰くこの三人は自分の空想の主要な登場人物。しかし三人のうち二人の女性はヨネシゲの思い描いているものと異なっているらしい……


 ユータもこの二人の女性を見て衝撃を受けていた。

 では三人について説明しよう!


 まず一人目が“レイラ・クラフト”

 ヨネシゲの実姉でクラフト三姉妹の次女である。

 メアリーとは三つ子の姉妹であると聞いていて予想はできていたが……

 ヨネシゲそっくりの40代後半の女性である。

 メアリーと同じ黒髪のアフロヘアーに青色のセーターがトレードマークだ。

 しかし、この女性ただ者ではない。

 “冷酷レイラ”と呼ばれていたグレート王国軍の元将校であった。


 グレート王国には五本柱と呼ばれる国の5つの要が存在する。

その内の一角がグレート王国軍。そのグレート王国軍の中でもかなりの実力者だったのがこのレイラだ。

 だが実力者と呼ばれていたのは彼女だけではない…


 二人目が“リタ・クラフト”

 ヨネシゲの実姉でクラフト三姉妹の三女。言うまでもなくヨネシゲそっくりの女性だ!

 他の姉妹と同じ黒髪アフロにオレンジ色のセーターがトレードマークである。

 彼女も“恐怖のリタ”と呼ばれてたグレート王国軍の元将校である。


 ちなみに改めての紹介となるが、ヨネシゲの実姉でクラフト三姉妹の長女“メアリー・クラフト”も“怒りのメアリー”と呼ばれていたグレート王国軍元将校。

 クラフト三姉妹は屈強な元軍人なのだ!その実力は三人揃えば一国の軍隊と張り合えるとまで言われていた。

 見た目だけでも恐ろしいのにその実力も兵器並みとは…!


 そして三人目が“マックス・エレファント”

 ヨネシゲの永遠の相棒である中年男性だ。

 年齢はヨネシゲの一つ上。

 温厚な顔つきで白髪の髪をオールバックで決めている。身長はユータとメアリーの中間くらいか。


 彼もまたかなりの実力者らしい。

 かつては“鬼のマックス”と呼ばれていた保安局の敏腕捜査官だったらしい。鬼と言う肩書きより人情派と言った方が似合っている。


 ちなみに保安局もグレート王国五本柱の一角。その役割は警察みたいなものであり、彼は現実世界で言うところの刑事であった。


 元将校のクラフト三姉妹にヨネシゲの相棒。ただ目の前に居るだけでかなりの威圧感だ。


 ユータはヨネシゲに小声で話しかける。


「ヨネさん…」


「なんだ?」


「なんでヨネさんの空想にはこんなに強い人達がいるんですか?」


「この世界で俺は悪党から民を守るヒーロー的存在。そんなヒーローの家族や相棒は強者でなくてはな。俺は姉さんやマックスより強い設定なんだ!」


「そ、そうなんですか…」


 ヨネシゲはこの世界ではヒーロー的な存在である。悪党たちから民を守るのがヨネさんの役目。

 そんなヨネシゲと共に戦うのがマックスやメアリーたちなのだ。

 物凄く強い仲間たちに、その仲間を率いるもっと強いヨネシゲ……


 この世界はヨネシゲが主人公の物語であるから“ヨネシゲ最強”は当たり前か。


「だが……」


「どうしたんです?」


「姉さんたちの顔はあんなんじゃない……」


 ヨネシゲは落胆した表情でそう嘆いた。


「何こそこそ話してるのよ?」


 こそこそ話している二人にメアリーが気付く。


「いや、何でもないよ。姉さん…」


(これが俺の姉さんか……)


「料理が冷めちゃうわよ!早く食べましょう!」


 レイラの言葉を合図に晩餐が始まった。

 ユータとヨネシゲがこの世界に迷い込んで初となる食事だ。二人は今まで起きたことを忘れ、目の前に出された美味しい料理や酒に夢中になった。







 ここはヨネシゲの屋敷の一室。

 照明は消えており月明かりだけが頼りな状態だ。そんな部屋のベランダから夜空を眺める一人の少年がいた。


 色白の肌に青い瞳。サラサラした薄い金色の髪を耳が隠れるくらいの長さで切り揃えられている。女の子と見間違えそうになる美少年だ。


 彼の名は“ルイス・クラフト”

 そうヨネシゲの息子である。

 スポーツ万能で喧嘩も強く女子にモテモテの息子……のはずだが、この少年はキャッチボールもできないほど体が弱いらしい。小柄な体で咳き込む姿は更に弱々しく見える。


 ここ数日は体調を崩し寝込んでいた。

 その体調も少しは回復したらしく今はベッドから起き上がり自室のベランダで夜風に当たっていた。しかし真冬の夜の風に当たるのは体には良くない。


 するとルイスの様子を見に来たエリックが現れる。


「ルイス様、こちらにいらっしゃいましたか!」


「ご苦労様です、エリック」


 エリックの主な仕事はルイスの世話係だ。

 ルイスが生まれたときから面倒を見ており第二の親的存在である。ルイスはエリックのことを強く信頼していた。


「冬の夜風は体に障ります。お部屋にお戻りください」


「わかりました……」


 ルイスは部屋に戻る間際、エリックに声を掛ける。


「エリック、いつも迷惑ばかりかけてすみません…」


「ルイス様……」


「僕の体がもう少し強ければ……」


 ルイスは自身の体の弱さで周囲に迷惑かけていることを後ろめたく感じていた。そんなルイスを気遣いエリックは言葉をかける。


「ルイス様、謝らないでください。確かにお体は弱いかもしれませんが、私はルイス様のお側に居れて幸せでございます」


「エリック……」


「それに、お体が弱いのはルイス様の責任ではありませんから……」


「え?」


「さあ、お部屋の中に入りましょう。この寒さは体に堪えます」


「はい……」


 部屋に戻る二人の主従。

 その表情はどこか憂いを帯びていた。







 晩餐が始まってから一時間は過ぎたであろう。

 ユータは目の前の光景に唖然としていた。何故なら晩餐ではなく荒れた飲み会のようになっていたからだ。









挿絵(By みてみん)




「あなたがシゲちゃんを!キノコ狩りなんかに行かせたから!こんなことになったのよっ!」


「キノコ鍋にキノコが入ってなかったらただの鍋よ!」


「何っ?だったら他の鍋を考えなさいよ!」


 取っ組み合いの喧嘩をするメアリーとレイラ。


「がぁ~!がぁ~!」


 大きなイビキをかき床の上で大の字で眠るマックス。


「ヨネフトの~♪港に~♪朝日が昇る~♪」


「それ!それ!それ!」


 朝日が昇るのではなく、テーブルの上に登り歌って踊っているのはヨネシゲとリタ。


「あなた!リタお姉様も!テーブルから降りてください!」


「メアリー様!レイラ様!お止めください!」


「マックス様!起きてください!」


 ソフィアや使用人たちはヨネシゲたちの暴走を止めるのに奔走していた。しかし酒が入った奴らは手強い!


「なんてところに来てしまったんだ……」


 ユータは苦笑いをしながら言葉を漏らす。自分が学生の頃だってこんな飲み会はしなかった。


 それにしても……


(こんなに楽しそうなヨネさんは初めて見るかもしれない……)


 職場の飲み会でヨネシゲが酒を飲んでいる姿は何度も見ている。その際、ヨネシゲに一度絡まれると例のごとく延々と彼の話を聞かされた。だが今思うとその表情にはどこか影があり、飲み会を楽しんでいる感じはしなかった。しかし、今目の前に居るヨネシゲはどうであろうか?


「ほい!ほい!あらよっと!」


(楽しい、なんて楽しいのだ!こんなに楽しいのはいつ以来だ?)


ヨネシゲは酔っぱらいながらも頭の中で思っていた。


(やはりここは理想の世界か!?)


「ほい!!ほい!ほい……」







 夜も更け大荒れだった晩餐も終焉を迎えた。

 三姉妹は各々自室に戻り、マックスは千鳥足でヨネフト村にある自宅へと帰宅した。


 ヨネシゲはユータと使用人に運ばれて今は自室のベッドの上で夢の中である。


「ウチの姉さんが……むにゃ……」


 ヨネシゲは笑みを浮かべながら寝言を言っていた。そして一緒に居たソフィアがユータにお礼を言う。


「ユータさん、遅くまで主人の面倒見てくれてありがとう」


「いえ!助けてもらったうえに美味しい料理までごちそうになっちゃって。」


「ふふっ、ユータさんもお疲れでしょう?早めにお休みになってください」


「ありがとうございます!」


 そしてユータは眠っているヨネシゲの方を振り返る。


「ヨネさん、楽しかったですか?俺ももう寝ますね、おやすみなさい。」


 ユータはヨネシゲの部屋を後にし用意された寝室へと向かった。








 とある小料理屋が炎に包まれていた。

 そこでは消防隊による必死の消火活動が行われている。それを見守るかのように大勢の人が群れていた。


 そんな人の群れをかき分け一人の若い男が燃え盛る小料理屋へと進んでいた。その男の顔は顔面蒼白、絶望の表情である。


 消火活動の行われている小料理屋の手前まで近づくと警察官に制止される。


「君っ!危ないから戻りなさいっ!」


「離してくれっ!」


 警察官たちに体を押さえれ暴れる男。すると男が衝撃の言葉を口にする。


「まだ中にっ!妻と息子が!」


「!?」


 男の言葉に警察官は恐る恐る後ろを振り返る。そこには大炎上の小料理屋が……

 外壁が燃え尽き骨組みが見えていた。

 その光景を見た警察官は男に無情な言葉を突き付ける。


「だ、だめだ。もう間に合わない!」


「!!」


 しかし男は更に暴れ始める。


「まだ生きている!頼むから!離してくれ!」


 そして次の瞬間である。


 ドーンっと言う大きな爆発音と共に小料理屋は崩れ去っていった……








「……はっ!?」


 ここは真夜中のとある屋敷。その一室でベッドから飛び起きる男。その男の正体はヨネシゲである。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 ヨネシゲは悪夢で目を覚ます。

起き上がったヨネシゲは息を切らしていた。


「夢……か……」


 自分が見ていたのは夢だと気付き安堵するも、その表情は悲しみに満ちていた。


「いや、夢じゃ……ないんだ…」




 ヨネシゲの記憶……


 そして理想と現実。



つづく…

豊田楽太郎です。

いつもヨネシゲの記憶を応援してくださってる皆様、本当にありがとうございます。

今後ともヨネシゲの記憶をよろしくお願いします。


仕事の方が忙しいため次話の投稿が遅くなるかもしれません。

ご承知おきくださいませ。

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