第64話 カワシンの疑心
※今回はマロウータン海賊団サイドのお話です。
西ヨネフトの港から南へ少し進むと“南ヨネフト島”と言う無人島がある。
南ヨネフト島は、ヨネシゲが領主を務めるヨネフト地区の領土として管理されている。とはいえヨネフト地区の人でも島に立ち入る事は滅多にない。強いて言えば、クラフト兵が遠泳訓練で訪れるくらいだろうか。
南ヨネフト島の中心部は小高い山になっており、その辺り一面が木々に覆われている。島には珍しい動物や植物が生息しているようだ。
いつもなら穏やかな南ヨネフト島であるが、今日は何やら騒がしい。
島の周りにはバナナ印のドクロを掲げた海賊船が続々と集結していた。そう、この船団はマロウータン海賊団である。
海賊たちは次々と南ヨネフト島に上陸すると、ヨネフト地区から奪った食料で炊事を始めていた。
その様子をマロウータン海賊団最高幹部のキャロルと、部下のカワシンが眺めていた。するとカワシンがキャロルにあることを問いかける。
「それにしても……奴らと争ってメリットなんかあるんですかい?大人しく奪う物だけ奪ってとんずらした方が良かったんでは?」
カワシンの疑問に思っていた。何故このタイミングでヨネフト地区を襲撃したのか?勿論食料が底をついたため、やむを得ずヨネフト地区に上陸したことは理解している。
しかしクラフト三姉妹に対する長年の恨みがあったにせよ、このタイミングで喧嘩を売るのは自分達にとって分が悪い。何故なら先日敵からの返り討ちと食料不足の影響で戦闘員たちもかなり疲弊しているからだ。
クラフト三姉妹への復讐はマロウータンとキャロルが決めたことだったので、幹部のカワシンと言えども命令を聞くしかなかった。
でもここは幹部として真意を確認しておきたい。そう思ったカワシンは思い切ってキャロルに問いかけたと言うわけだ。そしてまもなくキャロルから返答が返ってくる。だがそれはカワシンが予想もしていなかった内容だった。
「それが……アタシにもマロさんにも解らない……」
「ど、どういうことです?」
「当初、アタシとマロさんは食料を奪うことだけを考えていた。三姉妹がヨネフトに居るのは知っていたが、復讐までは考えていなかった。今のアタシらにはそんな余裕はないからね……」
「では何故!?」
「悪魔が囁きかけてくるのさ……クラフト三姉妹に復讐を!ヨネフトに地獄を見せろ!とさ……」
なんとキャロルはヨネフト地区を執拗に攻める理由が悪魔の囁きだと言うのだ。あまりに予想外の理由にカワシンの目が点になっていた。
キャロルの言っていることは流石に冗談だろうと思っていたカワシンだが、彼女の表情は真剣そのものだった。
「嘘だと思うだろ?でも本当なのさ……アタシにも信じられない。でも奴に囁かれると自然と行動を起こしてしまう。まるで操られてるかの様にな……」
キャロルの意味深発言にカワシンはこれ以上問い掛けないことにした。彼女の言っていることは強ち嘘ではないだろう。
思い返してみればカワシン自体もヨネフト襲撃の際はやたら好戦的であった。まるでヨネフト地区の襲撃を楽しんでいるかのように……
そう考えると自分も悪魔にとやらに操られているのか?疑心をカワシンは抱き始める。
キャロルとカワシンが無言のまま立ち尽くしていると、海の方が何やら騒がしい。二人は海の方へ目を向ける。するとこの南ヨネフト島に向かって海上を移動している噴水のような物を発見する。
「マロさんか……」
キャロルは噴水らしき物を見るなり、それがマロウータンの操ってる物だとすぐに解った。
「マロウータンさん、奴らを沈めることができたんですかね?」
カワシンがキャロルにそう尋ねると彼女は渋い表情を見せる。敵にはあのマックスも居る。いくらマロウータンとは言えどもこの短時間で彼らを抹殺するのは不可能だろう。
ひとまずキャロルたちはマロウータンを出迎えることにした。
海上に発生させた噴水の上に乗って戻ってきたマロウータン。その彼の顔面は腫れ上がり、鼻からは血を流していた。
「マロさん!一体何が!?」
マロウータンの腫れ上がった顔に驚いたキャロルはマロウータンに問い掛けると、彼は怒りの表情を滲ませながらそれに答える。
「ヨネシゲとか言うオヤジの仕業さ……!確か奴は三姉妹の弟だったよな?許さん、許さんぞ……!いい気になっているのも今のうちだぞっ!!ウホォォォォッ!!」
マロウータンの怒りの雄叫びが島中に響き渡る。
つづく……
豊田楽太郎です。
毎度投稿が遅く申し訳ありません。
次回はできるだけ早めの投稿を心掛けます。
尚、『ヨネシゲの記憶』今後の投稿についてのお知らせがあります。
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