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ヨネシゲの記憶  作者: 豊田楽太郎
3章 海からの悪夢
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第61話 エリックの実力

ここはヨネフト街道の道中。

マロウータン海賊団の襲撃により避難中だったクラフト家の人々は、後方から進軍してきた傘下の海賊団に追い付かれてしまった。

海賊たちは100人以上は居るだろう

その海賊の軍勢に立ち向かおうとする息子ルイス。

彼は母ソフィアや使用人、先行している避難中の民たちの逃げる時間を確保しようと時間稼ぎのため海賊と対峙しようとした。

正直なところ彼一人では時間稼ぎにもならないが、領主の長子としての自覚と責任がこのような行動を起こさせる。


覚悟を決めたルイスであったが、背後から聞き慣れた男の声が聞こえてきた。


「ルイス様、ここは私にお任せを…」


「エリック!」


ルイスの側に現れたのは執事のエリック。

主に病弱であるルイスの世話をするのが彼の役目だ。


「先程も言いましたよね?今ルイス様が命を落としてしまったら意味がないと…?」


ルイスは屋敷を出る前も村に留まると言い張っていた。

彼は民たちの避難完了報告を受けるまで屋敷から動けないと言っていた。

ヨネシゲが不在だったため領主の長子としての責務を果たそうとした訳だが、エリックはルイスも避難するよう促した。

“自分の命も守れなければ大切な民を守れない”

エリックのその言葉にルイスはようやく屋敷からの避難する決心をした。

形にとらわれず臨機応変に行動することも重要。

ましてや話し合いが通用しない非常識な輩は大勢いる。

今後そう言ったことも含めてルイスの教育をしなければならないと思うエリックであった。


「任せるにしても…エリック一人だけでは!」


この場は自分に任せてほしいと現れたエリックであるが、彼も特段力を持っている訳ではない。

一人であの海賊の軍勢を相手にするのは無謀すぎるとルイスは言うが…


「ルイス様も私と同じ事をしようとしていたではありませんか…」


「それは…」


そう、ルイスも先程まで一人で海賊を相手をしようとしていた。

人のことを言えないのである。

彼は反論できず黙りこくってしまった。

その様子を見たエリックはルイスに逃げるよう言うと、一歩ずつ海賊たちの方向へ歩み始める。


「エリック!危険ですから逃げるのです!」


「奥様の言うとおりだよ、戻るんだエリック!」


ソフィアと使用人の男がエリックに戻るよう言葉を掛ける。


「皆様、ご安心ください…」


エリックはその一言だけ言うと無言のまま歩みを進める。

周りが何を言ってももう聞く耳を持っていないようだ。

やがてエリックは迫り来る海賊たちと対峙することになる。


「なんだお前は!?どっかの執事か?」


海賊たちはエリックの服装を見て執事だとすぐに理解した。

彼らは数々の国や街を襲ってきた海賊たち。

当然、数えきれないほどの貴族を襲ってきた。

そこには必ず黒いスーツを着こなした執事と呼ばれる人物が居た。

エリックはまさしくその姿であった。

そして、執事の雇い主は貴族や資産家などのお金持ちである。

そうなるとエリックの背後に居る人物たちも…!


「お前の後ろに居る坊っちゃんは雇い主かい?」


エリックは背後を確認するとそこには、ルイスやソフィア、他の使用人たちが立ち尽くしていた。


(何をしているのです…!早くお逃げなさい!)


エリックは心の中でそう叫んだ。

しかし、エリックは知っていた。

ルイスやソフィアたちが自分の事を置いて逃げるような人たちではないことを。

気持ちは嬉しいのだが、今は大人しく逃げてほしい場面である。


「へっへっへっ…。この村の貴族って訳かい?少なからず金目のものは持ってそうだな。それにあの坊主や女は高く売れそうだ…」


既に海賊たちの目はルイスやソフィアにロックオンされていた。

金目のものは奪うだけ奪って、ルイスやソフィアを連れ去って売り飛ばすつもりだ。

そんな事はさせない…!


「持っているものを全て出せ!」


海賊たちは目の前に居たエリックを取り囲むと銃や剣を突きつける。

しかし、エリックは動く様子がない。


「ヒッヒッヒッ…怖じ気づいたか?」


無言のまま銅像のように立っているエリックを見て海賊たちは彼がビビって動けないのだと思った。

そんなエリックを海賊たちは嘲笑う。


「じゃあ、俺はあの坊主たちを…!」


海賊の一人がルイス目掛けて突っ走っていく。

突然剣を持って走ってくる海賊の大男を前にして、ルイスは恐怖で動けなくなってしまった。

その様子を見ていたソフィアや使用人たちの顔が青ざめる。

このままではルイスが危ない。

そう思った次の瞬間であった。


ルイスに向かって走ってきた海賊の男が突然紫色の光に包まれる。

同時に海賊の男の動きがピタリと止まる。

まるでその海賊の男だけ時が止まっているこの様だ。

一体何が起きているのか?

ルイスは恐る恐る海賊の男の顔を見上げる。

何故か海賊の男の表情はとても苦しそうだ。

額から大量の汗を流し、おまけに鼻水や涎まで垂れ流していた。

海賊の男は振り絞るような声でうめき声を上げていた。

すると更なる異変が海賊の男に起きる。

海賊の男の体は徐々に捻れてゆく。

ゆっくりと雑巾を絞るが如く…

海賊の男の悲鳴が辺りに響き渡る。

やがてバキバキという骨が折れていく音を上げながら男の体が更に捻れていく。

その体からは血などが吹き出していく。

そして、海賊の男は衝撃的な姿へと変貌を遂げ絶命した。

紫色の光が収まると男の亡骸はその場に倒れる。

その亡骸の状態を例えるなら、きつく絞り上げられた雑巾だ。

体中の水分や血液、内臓などが全て絞り出されてしまった。

あまりに衝撃的な光景を目の当たりにしたルイスは気分が悪くなりその場に座り込んでしまう。


一体誰がこんなことを!?

海賊たちは辺りを見回すが、敵らしき姿は見えない。

そんな海賊たちにエリックが口を開く。


「ルイス様には指一本触れさせません。あなたちもあの様になりたくなかったら大人しく退却しなさい。」


なんと今の現象はエリックの仕業のようだ。

それを聞いた海賊たちはエリックから間合いをとる。


「貴様、特殊能力の使い手か!?」


海賊たちはエリックに向かって一斉に武器を構える。

人間を雑巾のように絞り殺すなんことは特殊能力を使わないとできないであろう。

海賊たちは警戒する。


一方クラフト家の人々も驚いた様子だ。

エリックが特殊能力の使い手だったなんて信じられない。

それどころか彼が武術の稽古をしているところすら見たことないのに、どこで特殊能力など覚えてきたのか?

一同不思議でたまらなかった。


「さあ…退却しなさい。」


「うるせぇ!蜂の巣にしてやる!!」


海賊たちに退却を求めたエリックであったが、海賊たちは聞く耳をもたず、機関銃をエリックに向け引き金を引く。

辺りに機関銃の銃声がしばらくの間響き渡る。

ルイスやソフィア、使用人たちはその場に伏せて銃声が鳴り止むのを待っていた。


これ程の銃弾をまともに受けたら命はない。

蜂の巣どころか人間としての原形をとどめていないだろう。


しばらく続いていた銃声も鳴り止んだ。

どうやら弾が切れたようだ。

通常なら“ざまあみろ!”と言った具合で勝ち誇った表情をする彼らであるが、今は目の前の光景に戦慄していた。

何故ならエリックは不適な笑みを浮かべながら無傷でその場に立っていた。

それだけではない。

彼らの放った大量の銃弾は紫色の光に包まれながらエリックの手前で浮いていた。

そして、その銃弾の弾頭はエリックではなく海賊たちの方へ向けられていた。


「お、おい…よせよ…!」


海賊たちはそう言いながらエリックから後退りしていく。


「私は忠告しましたよね?退却しろと?」


エリックはそう言うと右手を海賊たちに向けて構え始める。


「チェックメイト…」


「やめろぉっ!!」


その瞬間、宙を浮いていた大量の銃弾が海賊たちに向かって放たれる。

海賊たちはバタバタとその場に倒れていき、気付いたら全滅していた。

100人以上もの海賊をエリックは一人で倒してしまったのだ。


エリックはルイスの側まで歩み寄る。


「ルイス様、お怪我はございませんでしたか?」


「僕は大丈夫ですけど…一体どこでそんな大技を?」


エリックはルイスが生まれてから17年間ずっと側で面倒を見てきた。

二人の間には強い信頼関係が生まれていた。

しかし、エリックは謎が多い人物だ。

あまり自分の事を語ろうとしない。

それ故、エリックがこんな特殊能力が使えるなど知らなかった。

まるで、ヨネシゲやクラフト三姉妹、マックスの技を見ているかの様だった。

相当訓練していたに違いない…

だとしたら、いつどこで訓練していたと言うのか?

ルイスは不思議で仕方なかった。

するとエリックがルイスの問に答える。


「こんなこともあろうかと日々こっそり訓練してました!」


いや、こっそり訓練していたにしてはレベルが高すぎる。

専門的な訓練を受けていたのか、もしくは生まれ持った才能なのか?

彼は何かを隠している…

ルイスはエリックを問い詰めようとするも…


「今は避難するのが優先です!いつまた海賊が姿を現すかわかりません!」


「…そうですね」


恐らく今倒した海賊はほんの一部に過ぎないだろう。

第二陣、三陣と港の方から再び押し寄せてくる可能性が十分あり得る。

ここで一息ついている余裕などないのだ。


「私はルイス様の為なら何でも行います。ルイス様を守る為なら…」


エリックのその言葉にルイスは恐怖を覚える。

辺りを見回すと見るも無惨な海賊たちの亡骸が倒れていた。

確かに彼らは残虐非道な海賊たちであり、殺らなければ殺られてしまう。

しかし、これだけの人間を殺害しておきながらエリックはすました表情をしていた。

まるで人を殺害する自体に抵抗を感じていない様子だ。

そしてルイスを守るためなら何でもするとエリックは言う。

つまり自分の事を守る為なら、人間も躊躇わずに殺すと言うのか?

ルイスはそんなエリックが怖くなった。


「さあ、急ぎましょう!」


「わかりました…」


エリックはルイスの手を引くと、ソフィアや使用人たちに避難を再開するよう声をかける。

エリックの実力を前にして呆然と立ち尽くしていたソフィアたちであったが、彼の言葉を聞いて再び移動を開始する。


一同ハイペースで避難してきたので疲れが見え始めてきたが、今はただアライバ村の方向を真っ直ぐに見つめ足早にヨネフト街道を北上していく。

そんな中、ルイスは横目でエリックの横顔を見つめていた。


(あはたは、一体…?)


エリックに抱き始めた疑問…



つづく…

豊田楽太郎です。

ヨネシゲの記憶を読んでいただきましてありがとうございます。

昨日に引き続き連日の投稿ができました。

ですが、再びペースダウンするかと思われます。

遅くても1~2週間の間を目安に投稿できるように努力致します。

次回も宜しくお願い致しますm(__)m


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