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ヨネシゲの記憶  作者: 豊田楽太郎
3章 海からの悪夢
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第58話 お前たちの望みは弟の望み ※挿絵あり

先程まで小さな漁船でマロウータン海賊団を追っていたユータたち。

途中マロウータン海賊団の砲撃や魚雷攻撃を受けピンチに陥っていたユータたちであったが、突如ユータたちの前に出現した西ヨネフトの漁師長“イソマル”の助太刀により難を逃れることができた。

今はイソマルが保有する大型漁船に乗ってマロウータン海賊団の後を再び追い掛ける。

この漁船にはイソマルの他に十数名の漁師達が乗っている。

これまた屈強な肉体と強面の顔の男たちである。

イソマルは漁師たちに他の漁船に乗って港に戻るよう指示したが、彼らはそれを聞かなかった。

ヨネフト地区を襲った海賊たちを許せない!

漁師たちはそう言いながら船に留まった。

それどころか他の漁船もイソマルの漁船の後に続いている。

イソマルはやれやれと言った感じで漁師たちの同行をあっさり認めた。

ヨネフト村の漁師たちはマロウータン海賊団を酷く恐れていたが、西ヨネフトの漁師たちはマロウータンを恐れるどころかやたら好戦的だ。


朝から何も食していなかったユータたち。

腹の音を鳴らしていた彼だったが、この漁船に同乗していたイソマルの妻“ナミエ”からカップジャンボが振る舞われた。


イソマルの妻“ナミエ”は、黒髪のお団子ヘアにハチマキを巻いたパワフルな女性。

海の男の妻に相応しいと言った感じだ。

と言うよりは海の女と言ったほうが似合っている。

彼女の風貌やイソマルの妻と言う肩書きでユータは何となく予想ができていたが、彼女もやはり実力者と呼ばれる一人であった。

ナミエはかつてクラフト家民兵軍に所属していた。

当時、唯一の女クラフト兵であった。

班長も務めていた時期もあり、その実力はクラフト三姉妹に匹敵するとまで言われている。

幼い頃はクラフト三姉妹と共に野を駆けていたそうだ。


ちなみに余談であるが、カップジャンボとはユータたちの住む現実世界で流通している即席カップ麺のことだ。

何故かこのヨネシゲの空想世界にも出回っている模様。

まあ、この世界はヨネシゲの記憶の一部と言っても過言ではないので、現実世界の人や物が登場しても不思議でない。

とはいえ、この世界で食べるカップジャンボはユータにとって斬新であった。


「悪いね、こんな物しかなくて…」


「いや、これ程ありがたい事はない。奴らと一戦交える前に腹ごしらえができるんだからな。」


カップジャンボを提供したナミエは、どうせなら漁師飯を振る舞いたかったと話す。

むしろ今はこれで十分。

ゆっくり食事している暇などない彼らにとって最高の時短食品だ。

それにマロウータンと一戦交える前に腹ごしらえができるのは願ったり叶ったりである。

昔から腹が減っては戦ができないと言うくらいだ。

申し訳なさそうにするナミエにヨネシゲが礼を言った。





先程、ユータはイソマルに衝撃の事実を伝えた。

それは弟のウオタミがマロウータンに殺害されたことであった。

しかし、ただ単に殺された訳ではない。

自らの命を引き換えにしてユータたち若い命を救ったのだ。

ウオタミの死を聞かされイソマルは言葉を失っていたが、しばらくすると静かに口を開いた。


「やっぱりアイツは、自慢の弟だったよ…!」


イソマルはそう言うと静かに目を閉じた。

ウオタミは“もっと多くの人を守ってあげてくれ”とユータたちに望みを託した。

その言葉は捉え方一つで意味合いは変わってくる。

今は生き延びる事を優先して、長い人生の中で多くの人を守っていく…

守ると言っても強敵と戦って街の皆を守るヒーローになれと言ってる訳ではない。

家族だったり友人だったり、大切な人たちを支えてあげる。

それだけで十分…

ウオタミに命を救われた一人であるクレアはこのような考えだ。

しかし、ユータが選んだ道とは自身の命を奪おうとしたマロウータン海賊団に再び立ち向かい、今危機が迫っているヨネフト地区の人々を守るという選択肢だ。

このヨネフト地区の領主であるヨネシゲは民たちを外敵から守ると言う義務がある。

そのヨネシゲをサポートすることで“多くの人を守る”ということを実行できるとユータは考えたのだ。

しかし、ユータは葛藤していた。

マロウータン海賊団に再び立ち向かって殺されたとしたら…

自分を庇ってくれたウオタミの死が無駄になってしまう。

やはり、クレアの言うとおり今は生き延びる事を優先すべきなのか?

いや、今こそ多くの人を守るため行動を起こすべきではないか?

どちらが正しいのかユータにはわからなかった。

もっとも、答えなどないかもしれないが。


イソマルにウオタミの死を告げたユータ。

もしユータがイソマルの心境なら、自分の弟が己の命と引き換えに救った人物をこの漁船に乗船させないだろう。

再び危険な地に連れていき、命を脅かすような事はさせない。

弟の死が無駄になってしまう…

そう思うのが普通かもしれない。

だが、イソマルの考え方は少し違っていた。


「ウオタミが救った命をどのように使うかはお前たち次第。お前たちの人生なんだ…自分の信じる道を進めばいい。ウオタミも…自分の信じる道を進んだはずさ…」


イソマルはそう言うとユータとゴリキッドの乗船を認めた。

確かにユータたちには港に残ってもらいたいというのがイソマルの本音である。

しかし、ユータたちは軽い考えでマロウータンの後を追おうとしている訳ではない。

それなりの信念と覚悟を持ってこの場に居るのだ。

それをイソマルは拒否したくなかった。

何故なら、弟も信念と覚悟を持ってユータたちを救った。

そしてユータたちの望みとは弟の望みであるからだ。


(お前たちの望みは弟の望み…。お前たちは俺が死なせない!)








マロウータン海賊団の後を追う漁船の船団。

穏やかで静かな海であったが、異変が起き始める。

最初に気付いたのは甲板で周囲を監視していた漁師たちであった。


「イソマルさん!前方からデカい波が迫ってきてるぜ!」


「何?」


グレート南海と呼ばれるヨネフト地区近海は穏やかな海として知られている。

大きな波にが発生する事など滅多にない。

ところが漁師たちの言うとおり目の前から大きな波が迫ってきている。

しかも、不自然なことに波は次第に大きさを増していく。

気付けば波の高さは10階建てのビル程になっていた。

まるで海の壁がこちらに向かって崩れ掛かってくる様な光景だ。

一同身の危険を感じた。

このままでは波に飲み込まれてしまう…!

その巨大な波に備えて漁師たちが慌ただしく動くなかユータはあるものを発見する。


「ヨネさん、あれ…!」


ユータが指差したのはビルのような高さの巨大な波の頂上付近。

ユータが指差した場所をヨネシゲが目を凝らして見てみると、あり得ない光景が彼の目に映る。








挿絵(By みてみん)


「なんだあれはっ!?」


ヨネシゲは思わず言葉を漏らした。

ヨネシゲが見たものとは、波の上に乗る謎の男。

するとユータがその人物の正体を明かす。


「奴が…マロウータンです!」


「アイツが…マロウータン!?」


巨大な波の頂上に、マロウータン海賊団の頭領“マロウータン”が立っていた!


何故そこにマロウータン?


波乗りマロ始動…!?



つづく…

豊田楽太郎です。

お待たせ致しました、最新話の投稿です。

次回の投稿も1週間~2週間程時間を頂くと思いますが、できるだけ早めの投稿を心掛けます。

今後もヨネシゲの記憶を宜しくお願い致しますm(__)m


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