表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヨネシゲの記憶  作者: 豊田楽太郎
3章 海からの悪夢
60/76

第57話 西ヨネフトの魚雷

「す、凄い…」


目の前で起きている光景にユータたちは驚いていた。


ユータたちの乗っていた漁船を襲撃するマロウータン海賊団の海賊船。

その海賊船を次々に沈めていく、突如海の中から出現した謎の男。

するとマックスがその男について知っているようで説明を始める。


男の正体は“イソマル”と言う名の男。

ウオタミとは双子で兄である。

彼は現在イソマルは西ヨネフトの漁師長として活躍しているが、かつてはグレート王国軍に所属しており、海上部門の将校としてクラフト三姉妹同様国内外から一目置かれる存在であった。

海中を自在に泳ぎ回り敵船を次々に沈めていく姿から“魚雷”の異名で当時から呼ばれていた。

現在は西ヨネフト漁師としてグレート王国領海に立ち入った海賊船や敵国軍艦を海に沈めており“西ヨネフトの魚雷”の異名で村人たちから親しまれている。


ヨネフト村漁師は村の近場で漁を行う沿岸漁業がメインだが、西ヨネフト漁師は村から離れた場所で漁を行う沖合漁業がメインである。

そのためイソマルが村を不在になる時間が多い。

もし今日イソマルが村に居たとしたらマロウータン海賊団の船団はとっくに海に沈められており、西ヨネフトからの上陸はできなかったことであろう。

しかし、ここへ来てイソマルが突如姿を現した。

ユータたちは周囲の海上を見渡すと西側に漁船と思われる船団が航行しており、こちらに向かって近付いてきている。

恐らく西ヨネフト漁師たちの乗る漁船だ。

そうなると今日はちょうど帰港日だったのかもしれない。


気が付いたらユータたちが乗っている漁船を襲撃した数隻の海賊船は全滅していた。

ユータたちが呆気にとられていると、突然目の前の海面が噴水のように水しぶきを上げる。

その水しぶきの中から人影が飛び出してきたと思うと、その人影はユータたちの乗っている漁船に着地した。


「お前ら大丈夫か!」


目の前に現れたのはイソマルであった。

少々白髪混じりのツーブロックにハチマキ、額の大きな傷が印象的。

顔はウオタミとは双子と言うことでそっくりであるが、ウオタミの様な穏やかな雰囲気はひとつもない。

険しい顔付きに勇ましい雰囲気の男だ。

とてもウオタミの兄とは思えない。


イソマルがユータたちの顔を見渡していると、突然驚いた表情を見せる。


「ヨネシゲ!マックス!お前たち何してる!?」


イソマルはマロウータンの海賊船に襲撃さている西ヨネフトの漁船を発見。

直ちに援護のため海賊船を沈めに向かった。

その後、襲われていた漁船の無事を確認しに向かうと、幼馴染のヨネシゲとマックスが乗っているではないか。

ヨネシゲとマックスと言ったら折り紙つきの実力者。

しかし、ヨネシゲに関しては、現実世界からこの空想世界にやって来た“現実のヨネシゲ”であり、この空想世界の人々が知る“理想のヨネシゲ”ではない。

そのため本来なら海賊船の一隻や二隻を沈めることなど容易いことである。

こんな所で船を停泊させ戦うなんて彼らのすることではない。

イソマルは不思議で仕方なかった。


「らしくねぇな…」


「すまん…」


「海上戦は不馴れでな」


イソマルの言葉にヨネシゲは自分の不甲斐なさを痛感しており、ただ謝るだけ。

マックスは惚けた様子で言い訳をしていた。

確かにこの小さな漁船の上で二人が本気を出したら、足場が無くなってしまい他の仲間たちにまで被害が出てしまうことであろう。

その事はイソマルも理解していた。

もう少し上手いことが出来たはず…

否、出来ない状況だったのだろう。

イソマルは西ヨネフトの異変を察知していた。

イソマルでなくても誰でもわかることだ。

西ヨネフトの港から上がる黒煙に、近くを航行しているマロウータン海賊団の船団…

西ヨネフトで何が起きたのかすぐに想像できた。


「村人たちは無事なのか!?」


「西ヨネフトを含めヨネフト地区の者全員には北アライバに避難してもらってる」


村人たちを心配するイソマルにヨネシゲが状況を伝える。

避難する村人たちはクラフト三姉妹やクラフト兵が護衛している。

また、王国軍や保安隊もヨネフト救援のためこちらに向かってる最中だ。

しかし海賊たちの侵入を許してしまい、彼らとの衝突は免れない。

今は一刻も早く村人たちに逃げ切ってもらう他ない。

ヨネシゲの説明にイソマルの表情もより一層険しいものへと変わる。

村の状況は十分理解したが、何故ヨネシゲたちが漁船に乗ってこんな所に居るのか?

それに見慣れない顔の男たちも数名居る。

流石のイソマルもこの状況に関しては理解できなかった。

そんなイソマルにマックスが説明を始める。


「実はな、テツが海賊に拐われた…」


「何だと!?」


副領主テツはマロウータン海賊団の元へ命懸けの交渉に向かい、そのまま人質となってしまった。

このままではテツの命も時間の問題。

もしかしたら既に殺害されてる可能性も捨てきれないが、一刻も早く救出に向かわなくてはならない。

そこで、唯一無事だった漁船に乗って盗賊マッチャン一家の助っ人たちとテツ奪還に向かったのだ。

マッチャンたちの真の目的は仲間を殺された報復のためであるが、人命優先と言うことで力を貸してくれることを約束してくれた。

ところが漁船の燃料が切れ立ち往生してしまい、海賊船の砲撃を受けることとなってしまった。

そこへイソマルが現れたと言うことだ。


マックスの説明に漸く全貌が理解できたイソマル。

事情がわかったなら自分も協力するまで。

イソマルは気合いが入った様子で頭に巻いていたハチマキを結び直す。

そんなイソマルの側にユータが近寄る。


「あの…」


「なんだお前さん?見ない顔だな、盗賊のメンバーかい?」


ユータとイソマルが顔を会わすのは初めてのこと。

ユータは自分の名を名乗るとイソマルはすぐに理解した様子だ。

顔は見たことがなかったが噂はよく聞いていた。

ヨネシゲの弟子にしてマックスの鬼特訓で成果を上げている青年が居るということを。


「お前さんがユータか、よろしくな!」


そう言いながらイソマルはニッコリと笑みを浮かべるが、ユータはとてつもなく暗く重たい表情をしていた。

そのユータと一緒になってヨネシゲやマックスの表情も険しいものへと変わっていた。


「おい、一体どうしたってんだい?」


イソマルが不思議そうに皆に問いかける。

その問にユータが答えようとする。


「イソマルさん、実は…」


ユータが重たい口を開く…




イソマルはまだ知らない…


弟、ウオタミの死を…



つづく…

※次回58話は21日(日)迄に投稿できるよう努力致します。

今しばらくお待ち下さい。

お待たせして申し訳ありませんm(__)m



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ