第54話 助っ人
ヨネシゲの辛い過去を聞かされたユータ。
とても信じられない内容だった。
普段から耳を疑うような話をするヨネシゲだが、今聞いた内容は本当なのであろう。
ヨネシゲの悲しそうな表情がそれを証明してくれる。
また、ヨネシゲの話だと少年時代も辛い日々を過ごしたのだとか。
詳細を聞きたいところだが、今はそれどころではないのだ。
そうこうしているうちに、先行しているマックスとゴリキッドに追い付いた。
マックスたちは燃え盛る港の船や倉庫の火を消すため、消火栓の前でホースの準備をしていた。
今から少し前、マロウータン海賊団は港に火を放った。
木造の船や倉庫はあっという間に炎に包まれる。
マロウータン海賊団に連れ去られた副領主を救出するため後を追いたいところ。
しかし、船は燃やされ追うこともできず、尚且つ倉庫群の炎は西ヨネフトの村に迫っているため消火せねばならない。
こんな時水系特殊能力を習得していれば、これくらいの炎を消すのは容易いことであろう。
しかし、今それを使える者はここには居ない。
あのマックスなら水系を使えそうな気もするが、彼曰く唯一不得意な系統が水系だそうだ。
「ヨネシゲ!ユータ!何してやがる、早く手伝ってくれ!」
遅れて到着したユータたちにマックスは早く手伝うよう促す。
マックスの言葉に慌てて消火の準備に取りかかる二人。
消火栓には都合よく2つのホース差し込み口があり、その消火栓に2本のホースを差し込む。
そしてユータとヨネシゲ、マックスとゴリキッドの二組に別れて消火活動を開始した。
まず目の前の倉庫から片付けていくことにした。
ユータがホースの先端を持ち、ヨネシゲはホースが暴れないよう後方でしっかり押さえていた。
放水を開始すると勢いよく大量の水が燃え盛る倉庫へと注ぎ込まれる。
だが、水をかけたからといってそう簡単に炎を消すことはできない。
放水開始から3分程が過ぎた。
物凄く時間が過ぎた気がするが、燃え盛る倉庫に鎮火の気配は全くない。
その光景に焦りの表情を見せるユータとヨネシゲ。
「ダメだ、全然消えない…!」
「ああ、あの時のそうだった。いつ見ても火事は嫌だな…」
一方のマックスとゴリキッドも慣れない消火活動に苦戦している模様だ。
「ヒイィィッ!ヤバイよ、おじさん!このままじゃ俺達も丸焼きだぜ…!」
「こんな時、防災局の人間が居ればな…。そもそも、4人だけでは人手が足りなすぎる…!」
そう、いくら超小規模な港で起きている火事とはいえ、たった4人では流石に人手が少なすぎる。
それに消火に関しては素人同然である彼には荷が重すぎる。
炎は消えるどころか勢いを増してるように見える。
このままでは自分たちが危ない。
ユータたちは退路を残しつつ、退却も視野に入れて消火活動を続けていた。
その時である。
ある男たちがユータたちの前に現れた。
「後は俺たちに任せな!」
姿を現したのはマッチャン一家の盗賊たちだった。
彼らはユータ達からホースを奪うと、代わりに消火活動を始める。
「だけど、お前たちと交代したところで何も変わらんぞ!」
ヨネシゲがそう言うと盗賊たちはニヤリと笑みを浮かべる。
「俺たちだってバカじゃないっすよ!他の場所でも既に消火活動を始めてる。それに…」
盗賊はそう言うと、倉庫に視線を移す。
ユータたちも視線を倉庫に移す。
すると倉庫の炎は勢いは先程より収まっていた。
「徐々に放水の効果が出ているようだ。さあ、ここは俺たちに任せて行ってくれ!」
盗賊たちはユータたちにマロウータンの後を追うよう促す。
それは確かにありがたいのだが、海賊を追うにしても船がない。
「まだ生きている船があるかもしれん。探してみよう!」
マックスはそう言うと、ユータたちは船着き場を目指そうとする。
すると今度は別の者がユータたちを呼び止める。
「俺たちも連れて行ってくれ!」
「マ、マッチャン!」
ユータたちの前に現れたのは、盗賊マッチャン一家頭領のマッチャンであった。
マッチャンの他に、副頭領のジョーソン、スキンヘッドのノア、金髪モヒカンのジョン、リーゼントのチャールズ、ちょんまげのムラマサたち5名の姿もあった。
「仲間と話し合った。若い連中にはここに残ってもらう。そして古株の俺たちがあの海賊共に一矢報いてやる!」
マッチャンたちはキャロルに殺された仲間の仇をとるため、ヨネシゲたちと同行させてほしいと頼み込む。
そんなマッチャンたちにマックスは忠告する。
「わかってると思うが、相手は実力者揃いの凶悪な海賊。敵討ちをするだけと言うのならもう一度考え直せ。また仲間を失うことになるぞ?」
敵は話し合いが通用しない相手だ。
対峙すれば間違いなく殺し合いの戦いに発展することであろう。
迷いがあれば隙を作ることになり結果命を落とすことになる。
下手をすれば仲間たちの足を引っ張りかねない。
軽い気持ちで来ているなら考え直すべき…
マックスは諭すようにマッチャンたちに言葉をかける。
それに対してマッチャンが返答する。
「ああ、わかっている。だからこそ若い連中はここには残ってもらう。それに、覚悟はできている…!」
若い10代20代の盗賊はこの場に残すことを決めたマッチャン。
彼らには希望と未来がある。
そんな彼らをこれ以上犠牲にさせるようなことはしたくなかった。
とはいえ、マッチャンやジョーソンたちもまだ30代だ。
まだまだマッチャンたちも若い。
しかし、マッチャン一家を築き上げてきた重鎮たちとして、仲間を惨殺して侮辱した海賊共を許せなかった。
このままでは亡くなった仲間が報われない。
マッチャンたちは死を覚悟で報復を行うことを決めた。
「アンタたちの足を引っ張る真似はしねぇ。それと…助けるんだろ、テツって男を?俺たちも協力を惜しまねぇ。弱いものイジメをする奴らは許せねぇんだ…」
「わかった、一緒に来い」
マックスはマッチャンたちの同行をあっさり認めた。
「正直、お前たちが付いてきてくれるのはありがたい。鉄拳に鉄腕…千人力と言ったところか?最高の助っ人たちだ。」
「おい、お世辞はよせよ…」
マックスの言葉にマッチャンは照れた様子で顔を赤くする。
確かにマックスの言うとおりマッチャン達が来てくれればかなりの戦力になる。
マッチャンとジョーソンはキャロルが繰り出したかと思われるカマイタチ現象を防ぐこともできていた。
「そうと決まったら急ごうぜ!」
ヨネシゲのその言葉を聞いて一同船着き場へ急行しようとする。
「マッチャンさんたち!!」
この場に残ることとなった盗賊たちがマッチャンたちを呼び止める。
「どうかご無事でっ!!また一緒に旅しながら悪党共から金を巻き上げましょう!」
マッチャンたちの無事と帰還を願う盗賊たちの目からは涙が溢れ落ちていた。
「当たり前だ…!火消し終わったらヨネフト林道経由でアライバ峠を越えろ。いいな!」
「へい!北アライバでお待ちしてます!」
盗賊たち涙の声援に見送られヨネシゲたちは船着き場を目指す。
「御武運を…!」
依然として燃え盛る倉庫群の路地を駆け抜けるヨネシゲたち。
一同無言のまま船着き場を目指していた。
そんな中、マッチャンがヨネシゲの側まで近寄ってきた。
「アンタに頼みがある…」
「マッチャン?」
突然改まった様子でヨネシゲに話しかけるマッチャン。
ヨネシゲはどうしたのかと彼に尋ねる。
「万が一、俺たちに何かあったときは…あの若い衆たちの面倒を見てやってほしい…」
マッチャンがこれから喧嘩を挑む相手は、今までの中で最高クラスの強敵。
敵の強さも、規模も桁違いだ。
万が一、自分達が命を落とすような事があれば残された盗賊たちの面倒は一体誰が面倒を見ると言うのか?
マッチャンはその事が心配でならなかった。
「らしくねぇな。まあ、安心しろ!彼らがヨネフトの民となると言うなら悪い扱いはしない。」
相手が盗賊とはいえ、窮地に立たされ自分を頼ってくると言うなら可能な限りの支援を行う。
ヨネシゲのその言葉にマッチャンは安堵の表情を浮かべる。
「なら安心したよ。既に若い連中には何かあったらアンタを頼れと言ってしまったからな。それと…」
マッチャンはまだ何か言いたそうだ。
ヨネシゲは遠慮せずに話せとマッチャンに促す。
するとマッチャンは少し照れた様子で口を開く。
「その、アンタのこと…ヨネさんって呼んでいいか?」
「はっはっはっ!そんなことか!好きな呼び方で呼んでくれ。」
「ああ。それじゃあ宜しくな、ヨネさん!」
「頼むぜ、マッチャン!」
ヨネシゲたちに新たな仲間が6人加わった。
その仲間とはマッチャン率いるマッチャン一家の重鎮たち。
彼らは救世主となるのだろうか?
ヨネシゲたちは、副領主テツを救出するためマロウータン海賊団の後を追うことにした。
その為には船が必要であり、その船も海賊たちによって火を放たれてしまった。
もしかしたら、無事な船が残ってるかもしれない。
一同、僅かな望みをかけ船着き場へと向かう。
つづく…
豊田楽太郎です。
ヨネシゲの記憶を読んでいただきましてありがとうございます。
投稿が遅くなってしまい申し訳ありません。
次回の投稿は週末頃を予定してます。
今後も宜しくお願い致しますm(__)m
※次話の投稿遅れます。今週中の投稿目指して努力します。