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ヨネシゲの記憶  作者: 豊田楽太郎
3章 海からの悪夢
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第52話 あの日の記憶〔前編〕

黒煙を見て西ヨネフト港に駆けつけたユータたち。

彼からが見た光景とは、倉庫や漁船、港にあるありとあらゆる物が炎に包まれている様子であった。


「何てことをするんだ…!」


ウオタミやマッチャン一家の盗賊たちを殺害するだけでは物足りず、港に火を放つなんて許せない…!

怒りをあらわにする。


「奴らを追うにしても、船を燃やされたらどうすることもできんな…」


マックスが溜め息を漏らす。

マロウータン海賊団によって副領主テツは人質として連れ拐われてしまった。

そして、マロウータン海賊団最高幹部のキャロルは、そのテツを殺害すると宣言していた。

一刻も早く救出しないとテツも犠牲者の一人になってしまう。

いや、ひょっとしたらもう間に合わないかもしれない…

一同、不安と焦りを見せる。


「とはいえ先ずはこの火を消さないとな。近くに消火栓があったはずだ。みんな付いてきてくれ!」


マックスはそう言うと燃え盛る倉庫と倉庫の間を駆け抜けていく。

その後をゴリキッド、ユータと続く。

しかし、ユータは足を止める。

振り返るとヨネシゲが燃え盛る倉庫を眺めながら立ち尽くしていた。

やはり先程からヨネシゲの様子がおかしい。

ユータはそう思いヨネシゲの元へ駆け寄る。


「ヨネさん、本当に大丈夫ですか?何かあったんですか?」


ユータの問いかけにヨネシゲは一瞬ハッした表情を見せるが、すぐに悲しそうな表示へと変わる。


「すまんな、昔の事を思い出してしまってな…」


「昔のこと…?」


ヨネシゲはそう言うとマックスたちの後を追うため走り始める。

ユータもヨネシゲの後に続く。


燃え盛る倉庫と倉庫の間の通路をユータたちは駆け抜ける。

大人が6人ほど横に並んで歩いても余裕のある広さだ。

それなりに広い通路であるが、両脇に並ぶ燃え盛る倉庫から発せられる熱気はとてつもないものだ。

思わず熱いと口にしてしまう。

そんな通路を走っていると、ヨネシゲは重たい口を開く。


「俺は火事が怖い…」


「え…?」


ユータは驚いた。

あのヨネシゲが弱音を吐くなんて。

現実世界でもこの世界に来てからも、ヨネシゲの弱音を聞くのは初?…かもしれない。

突然の告白にユータが言葉を失っていると、ヨネシゲはその理由について語り始める。


「俺は火事で妻と息子を亡くした…」


「え?亡くしたって…だって!ヨネさんにはちゃんと家族が居た筈じゃ!?」


なんとヨネシゲは妻と子を火事で亡くしたそうだ。

しかし、現実世界に居た時はよく家族の話を自慢げにしていた。

美人な妻、自分そっくりな元気な息子、できる姉たち…

少々現実離れした内容が大半を占めていたが、それなりに家族と幸せな生活を送っているものだと思っていた。

だが、その妻と子は既にこの世に存在しないと言うのだ。

それでは、今まで話していたことは作り話だったのか?

嘘をついていたと言うのか!?

その瞬間、ユータはハッとする。


「もしかして…」


今までヨネシゲが話していた家族の話とは空想の中の話。

その空想とはヨネシゲにとって理想の世界…

そして、彼のその理想の世界に自分たちは迷い込んでしまっている。

だとすると、ヨネシゲの現実離れしていた話の内容が納得できる。


「どうしても妻と息子の死が受け入れられなかった。そんな俺が家に帰ってからすることは空想にふけること。ここは俺にとって、唯一妻や息子に会える世界なんだ。俺は空想の世界に逃げ込むことによって現実逃避していた。でも、俺には空想の中とはいえ、二人に会う資格なんてないかもしれん…」


「どう言うことです?」


するとヨネシゲは悲しい過去をユータに語り始める。








季節は冬。

年の瀬迫る今日この時、今年初となる雪が舞い始めていた。

とはいえ、積もるほどの雪ではないようだ。

ここは首都から少し離れた郊外のとある街。

この街はベッドタウンとしての役割が大きいが、駅前にはオフィスや商業施設が建ち並んでおり、日中でもかなり多くの人が行き交っている。

昼時を迎えると街は更なる賑わいを見せ始める。

そんな街の商店街に店を構える一軒の小料理屋。

この小料理屋も昼食のため多くの客で賑わっていた。





「へい、らっしゃい!」


そう言いながら寿司を握る若い男。

彼の名は“ヨネシゲ・クラフト”28歳である。

彼は中学校卒業後、高級料亭の料理長に弟子入り。

10年間板前として修行、2年前には念願の店を持つことができた。

ヨネシゲが店主を務めるこの小料理屋の名は“寿司シゲ”

名前からして寿司屋と思われるかもしれないが、提供する料理は寿司はもちろん、和食、洋食、中華などバリエーション豊富。

それ故カオスなメニューとなっているが、味も確かで低価格、ヨネシゲの愛想の良さも相まって地元の人から愛される人気店へ急成長を遂げている。


ワンマンタイプのヨネシゲではあるが、ちゃんとアシスタントはいる。

透き通る様な青い瞳、色白の肌、金色の髪を後で束ねたこちらの女性がそうだ。

誰もが認める美人な女性である。

彼女の名は“ソフィア・クラフト”ヨネシゲの妻である。

年齢はヨネシゲと同じ28歳。

彼女もヨネシゲが修行していた同じ高級料亭で働いていた。

二人は次第に恋に落ち9年前に結婚した。

皆、口を揃えて言うことは“ヨネシゲにソフィアは勿体ない”と言うことである。

その1年後には一人息子である“ルイス”が生まれる。

今年で8歳になる息子はわんぱく盛り。

母親譲りの金色の短髪に青い瞳。

顔はヨネシゲの特徴を濃く受け継いでおり、性格もヨネシゲに似ている。

意地っ張りで少々イタズラ好きだが、根は優しく思いやりのある少年だ。

その自慢の妻と息子に囲まれてヨネシゲは幸せ真っ只中であった。



「今日の昼は忙しかったな!」


「もう年の瀬ですからね。」


今日の昼はここ最近では一番客が多かったように思える。

朝早くから動きっぱなしで少々疲れてしまった。

しかし、寿司シゲは昼時が過ぎると夕方の営業まで準備中となる。

この間に少し遅い昼食をとり、夕方の営業に向けた仕込みを行う。

しかし、今日は少し状況が違った。


「夕方も忙しくなりそうですね!昼食を済ましたら早めに準備しましょう。」


「いや~でも…今日に限ってルイスが熱で寝込んじまってるからな。できれば面倒を見てあげてほしい…」


この分だと夕方の営業も忙しくなりそうだ。

そう思いソフィアは早めに準備しようと提案するが、今日に限って息子ルイスが熱で寝込んでしまっている。

いつもなら冬場でも半袖で走り回っているルイスだが、昨日同級生と冬場の池を泳いだのがまずかったそうだ。


この小料理屋の2階はヨネシゲたちの住居となっているためルイスはすぐ上で休んでいる。

何かあればすぐ駆けつける事ができるが、準備中のこの時間だけでもソフィアにはルイスの看病してあげてほしい。

そう思うのが親心である。

それに一日も早く回復してほしかった。

そう思うにはもう一つの理由があった。


「今週末はルイスが楽しみにしていたケロリーランドに行く予定だからな…」


「そうね、あの子凄く楽しみにしてたから…」


子供憧れのテーマパーク“ケロリーランド”

ルイスからは毎日のように連れていってほしいとせがまれており、今週末ようやく彼の願いを叶えてあげることとなった。

しかし、熱が長引けばその夢の計画も白紙に戻される。

あれほど楽しみにしていたため、連れていけないとなると可哀想だ。

そしてもう一つヨネシゲには気がかりがあった。


「ソフィア、お前も少し横になれ。疲れが溜まってるだろ?最近顔色が悪いからな…」


ここ最近は年の瀬と言うこともあり、定休日返上で店を開けていた。

ソフィアもそろそろ疲れが溜まる頃。

ヨネシゲは彼女の体調を気遣い、ルイスと一緒に横になることを進めた。

ルイスが回復したとしてもソフィアが倒れてしまったら意味がない。

ケロリーランドに行くなら家族全員で行きたい!

ヨネシゲはそう思った。


「ですけど…」


「大丈夫大丈夫!言うほど準備する事なんてないからさ。それに新作天ぷらの試し揚げもしないといけないし、ちょっと一人で集中したいんだ。」


「じゃあ、お言葉に甘えて…」


「ドンマイドンマイ!ゆっくり休みな!」


ソフィアはヨネシゲの言うとおり2階へ上がり、ルイスの看病をしつつ休息をとることにした。







それから静かな時がゆっくりと過ぎていく。

ヨネシゲは新作天ぷらの開発に没頭したいた。

新鮮な魚を使用したかき揚げを作るため1ヶ月前から材料等の研究を行っていたのだ。

来年から新メニューとして加えたいと考えており、その試作品第一号をこれから揚げようとしていた。

出来が良ければこの新作の天ぷらを今日来店する常連に振る舞うつもりだ。


「油の温度も調度いいな!よし、新作投下!」


ヨネシゲは一人で楽しみながら天ぷらを揚げ始める。

すると突然あることが気になる。


「そういえばレモンってこの間買ったよな?この天ぷらにはレモンが必須だからな…」


ヨネシゲは冷蔵庫を開けレモンを探し始める。


「ない…どこにもない…」


買ったと思ったレモンはどこにもなかった。

我ながら大失態である。


「今日はゴンちゃん来るしな…出来れば新作を食べてもらいたい。仕方ない、ソフィアに頼もう…」


ヨネシゲはソフィアに買い物を頼むため2階に上がる。


「ソフィア、頼みが…」


ヨネシゲはソフィアとルイスが居る部屋の扉を開く。

そこでヨネシゲが見たのは、気持ち良さそうに眠るソフィアとルイスの姿であった。


「これじゃ頼めんな。ルイスも朝に比べたら顔色が良くなってる…」


ヨネシゲはそう言いながらソフィアに毛布をかけるとそっと部屋を後にする。

一階に降りたヨネシゲ。

ヨネシゲは外出の支度をしながら時計に目をやる。


「おっと、いい時間だな…ちょっと急ぐか…」


まだ時間に余裕はあるものの、ゆっくりはしてられない。

買い物は早めに済ませておきたいところだ。


「レモン♪レモン♪レモンは黄色♪」


ヨネシゲは謎の歌を口ずさみながら材料調達のため店を出る。





その頃、天ぷらは良い具合に揚がっていた…



つづく…

豊田楽太郎です。

ヨネシゲの記憶を読んでいただき、ありがとうごさいます。

昨日に引き続き連日の投稿ができました。

今回は、ヨネシゲの過去に触れるお話ですが、前編と後編に分けて投稿していきます。

次回、後編も是非お読みくださいm(__)m


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