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ヨネシゲの記憶  作者: 豊田楽太郎
3章 海からの悪夢
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第51話 後悔の拳

カワシンの毒を受けたらユータ。

全身に回った毒はユータに激痛をもたらしていた。

しかし、ユータの特殊能力とヨネシゲの治癒術により、大方の毒を体から取り除く事に成功。

その後、マックスたちが持ってきた解毒剤を使ったことにより、毒による激痛は完全に治まったようだ。


「どうだユータ、大丈夫そうか?」


「ありがとございます、マックスさん。俺は大丈夫ですけど…」


先程まで喋るのもやっとだったユータだったが、今はこうして普通に会話ができる。

その一方、新た犠牲者が3名出てしまった。

キャロルの攻撃を受けて負傷したマッチャン一家の盗賊たち。

大怪我を負っていたが、ヨネシゲの治癒術やマッチャンたちの懸命の手当てにより何とか一命をとりとめている。

しかし、腕や脚を切り落とされてしまった3名の盗賊たちは、出血が酷く既に息を引き取っていた。

盗賊たちは3人の遺体を囲み静かに涙を流していた。

突然命を奪われてしまった仲間たち…

受け入れがたい現実だ。


とはいえ、冷静に考えればこうなることは予想できたはずだ。

何故、マロウータン海賊団に喧嘩を売ってしまったのか?

それは頭領マッチャンの正義感から始まった。

マッチャンは弱いものいじめが大嫌いな人間だ。

目の前でいじめられている者が居るならば、直ぐ様助け出そうとする。

今回のマロウータン海賊団の襲撃もそうである。

マロウータンが行っている行為も弱いものいじめと同じだ。

罪もなく何の抵抗もできない村人たちを問答無用で殺害しようとする。

現に世界各国で一般市民が彼らによって大量に惨殺されている。

当然、その情報はマッチャンの耳にも入っており、マロウータン海賊団の起こした事件を聞くたびにやるせない気持ちでいっぱいになっていた。

そして今日、その海賊たちが目と鼻の先で悪事を働いていると言うではないか。

マッチャンは黙ってはいられなかった。

不義なる悪魔たちはこの鉄拳で制裁してやらなければならない!

マッチャンは仲間を引き連れ西ヨネフトへと向かったのだ。


しかし、今思えば選択肢は幾つもあったはずだ。

一国の軍隊を遥かに凌ぐ強さと称される海賊だ。

ここは大人しく避難するのが正解だった。

どうしても海賊に制裁を加えに行こうとするなら、部下たちは残すべきであった。

そう、部下さえ残しておけば今回の犠牲は出なかったはず。

マッチャンは酷く悔やんだ。

彼はその場に座り込むと無言で地面を殴り始めた。

物凄い力で何度も何度も…

鉄拳を使わずに生身の拳でだ。

その様子を周りの皆は静かに見守っていた。

ジョーソンや部下の盗賊たちはマッチャンの心境を察すると止めることが出来なかった。


すると、ヨネシゲがマッチャンの側までやって来た。


「マッチャン、もうよせ…」


「放っておいてくれ…!」


ヨネシゲもマッチャンと同じ心境なら同じ事をしていただろう。

しかし、地面を何度殴って悔しがったところで時は戻ってこない。

自分の拳を傷つけるだけだ。


「止めろ!もう拳が血だらけだろ!?」


「こうでもしねぇと、気が済まねぇんだっ!!」


「お前のその拳は地面を殴るだけのものかっ!!」


「!!」


ヨネシゲの言葉にマッチャンはようやく地面を殴るのを止める。

マッチャンはゆっくりと自分の血だらけになった拳を眺める。

そして、ヨネシゲの言葉が心に響く。

自分は一体何をやってるのだ?

自ら拳を傷付け血だらけにして…

この拳は自分自身や誰かを傷付けるものではない。

何かを守るために使うもの…

そう決めていたはずだ。


「俺は…何やってんだ…」


マッチャンはそう言って俯くと額を血だらけの手で覆った。

すると、ヨネシゲはマッチャンに語りかけるように話始める。


「俺は強くもないし、皆に迷惑ばかりかけている存在だ。一人じゃ何もできない。とはいえ、領主としての役目果たさなければならない。民を守るためにな…」


ヨネシゲの話を聞いていたマッチャンは、ゆっくりと顔を上げヨネシゲを見つめる。


「正直、民を守りきれる自信はない…。だけど、できることは全てやってやる!その事が一人でも多くの民を救うことに繋がる。だからマッチャンも、今できることをやればいい。」


「今、できることか…?」


「俺とマッチャンは立場が違う。だから目的も変わってくる。それは皆同じこと。一人一人立場が違えば考え方も目的も違う。それは当然のこと。だから今は、一人の人間としてできることをやればいい…!」


「一人の…人間として…?」


その時であった。

突然、ゴリキッドと盗賊たちが騒ぎ始める。


「見ろよ!港の方から煙が上がってるぞ!」


「奴らだ…海賊共が火を放ったに違いない!」


ユータたちは港の方へ目を向けるとモクモクと黒い黒煙が立ち込めていた。

それも広範囲からだ。

襲った国や街に火を放つ連中だとは聞いていたが、噂は本当のようだ。

恐らく、港を焼き払うつもりだ。

いや、このまま炎が収まらなければ村の方まで被害が出てしまう。

見るところこの西ヨネフトの建物は木造が多いように見受けられる。

下手したら村全体が灰と化してしまう。

ユータは慌ててヨネシゲとマックスに声をかける。


「ヨネさん!マックスさん!早く火を消さないと…!」


「そうだな、すぐに向かおう。だが…罠かもしれない。皆慎重にな!」


やはり、マックスは落ち着いていた。

彼の言うとおり、マロウータン海賊団の罠と言う可能性も十分考えられる。

そして、ヨネシゲはこういう場面になるとやたら張り切るのだが、今日は少し様子が違う…


ヨネシゲは煙を見て呆然と立ち尽くしていた。






“ヨネさん!何してる!?すぐに家に戻れ!”


“肉屋のオヤジ、突然どうしたってんだい?”


“お前の家が燃えている…”


“え?”




(あの時もそうだった…黒い煙が、空高くまで立ち込めていた…)






“う、嘘だろ…?”


“ヨネさん、災難だったな。今夜はウチに泊まれ…”


“中で妻と息子が昼寝してるはず…”


“…え?ちょ、ちょっと、ヨネさん!!”


“ソフィアっ!!ルイスっ!!”


“君っ!危ないから戻りなさいっ!”


“離してくれっ!まだ中にっ!妻と息子が…!”


“だ、だめだ…もう、もう間に合わない…!”


“まだ生きている!頼むから!離してくれ!”





「ヨネさんっ!!」


「!!」


ユータの声にハッとするヨネシゲ。


「大丈夫ですか?どこか調子でも…」


「すまん、大丈夫だ。行こう…!」


そう言うとヨネシゲはユータ、マックス、ゴリキッドの3名を連れて港に向かった。




ユータたちが港へ向かった後、マッチャンはジョーソンと部下たちを集めると改まった様子で話を始める。


「大事な話がある…聞いてくれ…」








ユータたちは港への道を一気に駆け抜けようとしていた。

一同、無言のまま走り続けている。

そして、ユータは先程のヨネシゲの様子が気になっていた。

この世界に来てからというものの、ヨネシゲのバリエーション豊富な表情を沢山見てきた。

しかし、先程見た彼の表情は初めて見るものであった。

完全に気が抜け脱け殻のようになった脱力した顔、それでいてどこか悲しさを漂わせるあの雰囲気…

今まで見たヨネシゲの表情で一番印象的であった。

ユータは走りながら横目でヨネシゲの顔を見てみる。

彼は険しい表情をしながら走っていたが、やはりどこか悲しそうな雰囲気を感じさせる。


気にしすぎであろうか?

ユータはそんな疑問を抱きながら黒煙の上がる西ヨネフト港へ急行するのであった。




次回、燃え盛る炎を前にしてヨネシゲの記憶が蘇る…



つづく…

お世話になってます、豊田楽太郎です。

何とか本日も投稿ができました。

可能な限り連日の投稿をしていきたいと思います。

話の内容は短めですが、楽しんで頂ければと思います!

次回も“ヨネシゲの記憶”宜しくお願い致しますm(__)m


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