第49話 樹木は伸びる
カワシンが取り出した2丁の拳銃。
この拳銃には特殊能力が施されており、威力がかなり増している。
更にカワシンの能力によって作り出された猛毒を纏った銃弾が仕込まれているのだ。
対するは花びらの竜巻を身に纏ったユータ。
ユータの特殊能力で作り出したこの花びらの竜巻は、相手の攻撃を防ぐことができるらしい。
現にカワシンの繰り出した毒の拳を防ぐことはできたのだが、相手が特性毒拳銃となれば話は変わってくる。
改良された銃となれば生身から繰り出す攻撃とは比べ物にならないほど威力が高い。
果たしてユータは毒拳銃の銃弾を防ぐことができるのか?
そして、カワシンが拳銃の引き金を引く。
銃声が辺りに鳴り響く。
その直後、ユータは悲鳴をあげる。
すると左腕を押さえながらその場に倒れ込んでしまった。
直ぐ様ヨネシゲが声をかけるもユータの耳には届いてないようだ。
もがき苦しむユータ…
そんな彼をカワシンが不適な笑みを浮かべながら見下す。
「俺の毒はどうだ?傷口に染みて痛みが倍増しているだろう?」
カワシンはありとあらゆる毒を作り出すことが可能。
毒を作る上でカワシンが拘っているのは、どれだけ相手に痛みと苦しみを与えられるかだ。
相手を即死させる毒を作り出すこともできるし、その毒が必要になってくる場面も当然ある。
しかし、ただ相手を殺すだけではおもしろくない。
敵に苦痛を与えてこそ毒だ。
激痛で苦しませ、じわじわと死に至らしめる…
これぞ、カワシン流なのだ。
ユータは呼吸を乱しながら苦痛な表情を見せていた。
カワシンを睨み付けるその目には涙を浮かばせていた。
相当な激痛なのであろう。
そんなユータにカワシンは銃口を向ける。
「お前は遅かれ早かれこの場で死ぬ。お前が受けた銃弾には、人間を死に至らしめるに十分な量の毒が仕込まれている。お前はゆっくりと苦しみながら死んでいくのさ…!」
カワシンはそう言うとニヤリと笑い、ユータにある選択肢を与える。
「とはいえ、お前は俺とまともに張り合うことのできた数少ない男。せめてもの慈悲だ、選択肢をくれてやる。今すぐ楽になって死にたいか?それとも、このまま苦しみながら死を待つか…?どちらか選べ!」
カワシンがユータに与えた選択肢とは、どちらも死する結末。
これ以上苦しみたくないと言うなら、この拳銃で頭を撃ち抜き一発で楽になるか?
少しでも長く生きていたいと言うなら、このまま激痛に苦しみながら死を待つか?
カワシンから与えられた究極の選択肢。
果たしてユータはどちらを選ぶのか?
そうこうしている間にもユータの全身に毒が回り、とてつもない激痛がユータを襲う。
「ハッハッハッ!苦しめ、思う存分苦しめ!」
カワシンは大声で笑い始める。
その様子を毒のドームの外で見ていたヨネシゲがカワシンに怒鳴り始める。
「貴様!ユータをこんな目に遭わせて、ただで済むと思うなよ!」
「フッ…逃げるなら今のうちだぞオヤジ。あと少ししたらお前たちもこうなる運命なのだからな…!」
カワシンの次なる標的はヨネシゲたち。
彼は次の獲物を決めるためドームの外に居る者たちを物色するように見渡していた。
その時である…!
「敵に隙を見せるな…!」
ユータが振り絞るような声でそう言うとカワシンはハッとする。
「!!」
突然、カワシンの足元が盛り上がったと思うと地面から巨大な樹木ゆっくりと姿を表す。
「何だ?この巨大な木は!?」
カワシンは樹木との距離をとり様子を窺っていた。
巨大な樹木は更に幹や枝を伸ばしていき、それは毒のドーム一面を埋め尽くす程となっていた。
それでも尚、樹木の成長は止まらない。
やがて、樹木はあと少しで毒のドームを突き破るというところまで伸びていた。
「ま、まずい!このままじゃドームを突き破って毒が飛散しちまう!」
ヨネシゲがそう言うと一同緊張が走る。
カワシンの説明だと、この猛毒の霧でできたドームを破壊しようものなら、その瞬間衝撃により毒が辺り一面に飛散するとのこと。
当然、その飛散した毒を浴びればただでは済まない。
恐らく命を落とすことであろう。
なので、ドームの外に居るヨネシゲたちはユータを救出したくてもできない状況であったのだ。
ところが、今毒のドーム内部で成長を続ける巨大な樹木が、このドームを突き破ろうとしている。
樹木の成長を止めないと自分たちが危ない!
ヨネシゲたちは樹木の成長を止めるようユータに声をかける。
しかし、ユータはぐったりした様子でヨネシゲたちの声に反応しなかった。
「フフッ…この木がドームを突き破り毒が飛散すれば奴らも終わりだ。倒す手間が省けるぜ。それにしても、この坊主が選んだ選択肢が一同道連れとは…なかなか面白いことをしてくれる。」
ユータが選んだ選択肢とは、カワシンが提示した2つの選択肢ではなく第3の選択肢?
それは、猛毒のドームを破壊し毒を飛散させ、仲間もろと道連れにするというものだ。
カワシンは勝手にそう決めつけていた。
とはいえ、このままでは結果としてそうなってしまう。
焦るヨネシゲたち!
その様子をカワシンは高みの見物をしている。
彼は飛散した毒を浴びたとしても影響がない。
何故なら、自身の能力によって発生させた都合のよい毒。
カワシン自身がその毒を浴びたり飲んだりしても無害なのだ。
「ひいぃぃぃっ!!もう間に合わないぞっ!!」
ゴリキッドがそう叫び声を上げた次の瞬間、巨大な樹木は毒のドームを突き破ってしまった。
その瞬間、毒のドームは一瞬で姿を消す。
ゴリキッドや他の盗賊たちは咄嗟に近くの屋内に待避する。
屋内に逃げ込めば難を逃れることができるかも!
しかし、ヨネシゲ、マックス、マッチャン、ジョーソンの4名は逃げることはせず、ユータの元へ駆け寄るのであった。
「ユータを置いてい逃げれるか!」
ヨネシゲの言葉にマックスが反応する。
「そうだな、可愛い弟子を置いて逃げるわけにはいかねえ。俺の能力で毒の霧を吹き飛ばしてみよう!」
そう言うとマックスは天に向かって右腕を突き出す。
しかし、マックスはある事に気付く。
「お前たち、毒の霧が降ってくる様子なんて無さそうだぞ?」
「確かに、あの濃い紫の液体が空中を舞ってれば肉眼でも見えそうだがな…」
マッチャンとジョーソンも目を凝らし空中を眺めるが、飛散した毒の霧らしきものは確認できなかった。
もう一人驚きの表情を見せる男が居た。
「何故だ?何故毒の霧が消滅した…!?」
カワシンは呆然と立ち尽くしていた。
毒のドームを形成していた毒の霧。
その毒の霧を消失させるにはカワシンの能力で解除するか、大量の解毒剤を吹き掛けるしか方法はない。
それとも、他に方法があると言うのか!?
驚きを隠せずにいるカワシンの目の前には、毒のドームを突き破った巨大な樹木が物凄いスピードで枯れていく姿があった。
「ま、まさか…あの坊主…!」
樹木が枯れていく様子をみてカワシンは何かに気付いた様子だ。
その時、港の方からドンっという大きな砲声が聞こえてきた。
「時間稼ぎはできたようだな…」
カワシンはそう言うと突然港へ向かって走り始める。
その様子を見たマッチャンは怒鳴り声を上げた。
「貴様!逃げるつもりか!?」
「副領主を返して欲しけりゃ、続きは海上戦だ、待ってるぜ!」
カワシンはそう言い残すとその場を立ち去った。
ぐったりとしたユータを抱き抱えるヨネシゲ。
「ユータしっかりしろっ!」
ヨネシゲは必死に声をかける。
「俺は薬局から解毒剤と必要な物を持ってくる!あと倒れた盗賊たちの手当てもしなければならない…!」
マックスは負傷したユータと盗賊たちの応急措置のため、必要な物資を調達しに行くようだ。
「俺たちも手伝わしてくれ!」
「頼むぞ!」
そのマックスの後をマッチャンとジョーソンが続いた。
ヨネシゲはユータに声を掛け続けるとようやく反応があった。
「ヨネさん…治癒術を…」
そのユータの言葉を聞いたヨネシゲは急ぎユータ傷口に手をかざして治癒術を発動させる。
するとユータも負傷した左腕に自分の右手をかざし始める。
何をするつもりだ?
ヨネシゲはユータ様子を窺っていると、突然彼の傷口に周りを花びらが舞い始める。
ヨネシゲは驚いて治癒術をストップさせるが、ユータに続けるよう促され再開させる。
一体ユータは何をしているのかヨネシゲにはわからなかった。
ユータの負傷した左腕の周りを回転する無数の花びら。
その花びらは次々と枯れた状態となり地面へと落ちていく。
気付くと枯れた花びらの山がヨネシゲの足元にできていた。
しばらくすると、ユータの顔色は少し良くなってきたように感じられる。
「ユータ、大丈夫か?」
「ありがとうございます、だいぶ良くなってきました…」
「ならよかったぜ!…それにしても、この花びらは一体?」
ユータの調子が回復してきたところで、ヨネシゲは先ほどから気になっていた花びらの舞について質問してみることにした。
「この花びらで、俺の体内の毒を吸収させたんです…」
「そ、そんな事ができるのか!?」
なんとユータは自分の体内に入り込んだ毒を、自身の能力で発生させた花びらに吸収させていたと言うのだ。
これぞ、植物系特殊能力の生命力か!?
つづく…
豊田楽太郎です。
ヨネシゲの記憶を読んでいただき、ありがとうございますm(__)m
昨日に引き続き、連日の投稿ができました。
今後はお話の内容を短めに切ったものを主流にして投稿する予定です。
投稿の頻度を上げるのが目的ですが、手抜きをするつもりはございません。
その分話数が膨らみますが、ご承知おきくださいませ。
それでは次回もよろしくお願い致します!