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ヨネシゲの記憶  作者: 豊田楽太郎
3章 海からの悪夢
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第46話 20年前の借り

ここは西ヨネフトの大通り。

村の中心部から港へ続くこの道は商店が軒を連ねており、普段なら多くの人々で賑わっている事だろう。

しかし、今はマロウータン海賊団の襲撃により村人たちは村から避難している。

そのため、人の姿は一つも見えない。

そんな大通りを港の方へ進むと、マロウータン海賊団の戦闘員とマッチャン率いる盗賊団“マッチャン一家”の大乱闘が勃発していた。

何故マッチャンたちが海賊と戦っているかは不明だが、あの世界各国から恐れられている残虐非道な海賊と互角の戦いを見せていた。

ユータたちも加勢して海賊と戦おうとしたその時のことであった…

見えない何かが盗賊たちを切り裂いていく。

そして、ユータたちの前に姿を現したのはマロウータン海賊団最高幹部のキャロルであった。


「今治してやるからな!」


ヨネシゲは負傷した盗賊を治癒術で治療するため側まで駆け寄る。

しかし、その傷はかなり深く出血も尋常じゃない量だ。

中には腕や脚を切り落とされている者もいる。

酷すぎる…

これが残虐非道と呼ばれるマロウータン海賊団か…!?

ヨネシゲは倒れた盗賊に手をかざし治癒術を発動させるも一向に傷口が塞がらない。

ましてや、他にも負傷している盗賊が何人も居る。

自分一人では手が回らない。

その間にも負傷した盗賊たちの意識が遠退いていく。

ヨネシゲは焦りの表情を見せていた。

そんなヨネシゲの様子を見てキャロルが嘲笑う。


「無駄よ!アタシの攻撃をまともに受けて、そんじょそこらの治癒術で治せるわけねえだろ。それに助ける価値もねえ薄汚いゴミ共だ。無駄なことはやめるのよ。」


キャロルの許しがたい発言に一同鬼の形相で彼女を睨み付ける。

そんなヨネシゲたちを見てキャロルはニヤっと笑みを浮かべる。

そのキャロルの表情がヨネシゲたちの怒りに拍車をかける。

一同怒りをあらわにするが、一人冷静な男がいた。

その男とは、元保安官にしてヨネシゲ永遠の相棒のマックスだ。

彼はわかっていた。

キャロルが自分たちを挑発していることを。

誘いに乗っては奴らの思う壺だ。

そんなマックスはキャロルに問いかける。


「わざわざグレートに何しに来た?お前たちにとってこの国への上陸はハイリスクであろう。食料でも尽きたか?」


マックスの問にキャロルはにやつきながら答える。


「そうよ!お察しの通り食料がピンチだったものでね。ありったけの食料を船に積み込ませてもらったわ!」


「用が済んだならとっとと立ち去れ。命取りになるぞ?」


マロウータン海賊団の目的は食料。

そして目的の食料はありったけ船に積み込んだそうだ。

目的が済んだなら早々に立ち去るべきだ。

マックスは警告するが、キャロルは受け入れる様子はない。


「残念だけどまだ目的があるのよね。」


「まだ何があると言うのだ?」


「あの時の借りを返さないとね…」


「20年前のあれか…?」


マックスの20年前と言う言葉にキャロルは眉をひそめる。

そして彼女は先程とは違って険しい顔付きで話始める。


「そうよ!あの大戦艦とクラフト三姉妹の顔に泥を塗ってやるのよ!」


キャロルはそのまま語り続ける。

当時、まだ駆け出しの海賊だったキャロルはマロウータンと出会う。

マロウータンの熱烈なオファーもあり彼と手を組むことを決めた。

その後、キャロルたちは連戦連勝、武力国家の海軍も打ち負かすくらいに成長していた。

そんなキャロルとマロウータンが次なる獲物としてターゲットにしたのは、強大な軍事力を誇るグレート王国だ。

当時のキャロルたちは自信に満ち溢れていた。

若気の至りと言うやつであろうか。

今思えば天狗になっていただけなのだが。

そして20年前のあの冬、グレート王国に上陸しようマロウータンの船団は船を港へ近付ける。

案の定、グレート王国軍の軍艦が行く手を阻む。

軍艦から激しい砲撃を受けるも、こちらも砲撃や特殊能力で応戦。

互角の実力だと思われたが…

相手は本気を出していなかっただけだ。

すると、小船に乗った三人の女兵士がこちらの海賊船に迫ってきた。

大砲で小船を沈めようとするも、彼女たちは砲撃を上手く回避したり、素手で砲撃を受け止めたりと徐々にキャロルたち海賊船との距離を縮めていく。

気付いたら女兵士は小船から海賊船へと乗り移っていた。

彼女たちは、高温の蒸気や鋭い氷柱、恐竜を召還させ容赦ない攻撃をキャロルたちに浴びせてきた。

あまりの猛攻にキャロルとマロウータンは堪らず船から飛び降りる。

そこは真冬の冷たい海。

二人は別の海賊船に乗り移るため冷たい海を泳いだ。

二人が海賊船に近付くとの船員がこちらに向かってロープを投げてきた。

二人がそのロープにしがみつこうとしたその瞬間だった。

突然、強烈な青白い光線が遠くの海上から伸びてきたと思うと、二人が乗ろうした海賊船がその光線により木端微塵に破壊されてしまった。

青白い炎と共に海賊船の残骸は海へと沈んでいく。

キャロルとマロウータンは光線が伸びてきた遠くの海上に目を凝らす。

そこに居たのは、目を赤く光らせ平泳ぎでこちらに向かってくる一人の男であった。

男は大きく口を開くと、先程と同じ青白い光線を口から発射。

マロウータンの海賊船を次々と沈めていく。

キャロルとマロウータンは震え上がった。

海に出てから初めて経験する恐怖。

二人は死を覚悟した。

こんな奴らに敵う訳がない…

諦めかけていたその時、仲間の小船がこちらに向かってきた。

キャロルたちは急いで小船に飛び乗りその場を立ち去る。

幸いにもグレート王国軍に深追いされることはなかった。

命拾いをした。

しかし、船や宝、仲間を多く失った。

しばらくの間キャロルたちは悪夢にうなされる事になる。

その後、自分たちを恐怖に陥れて者たちの正体が判明した。

三人組の女兵士の正体は若くして王国軍将校を任された“クラフト三姉妹”と呼ばれる有名な軍人であった。

そして、青白い光線で海賊船を一瞬で沈めたあの平泳ぎの男の正体は“大戦艦”の異名を持つグレート王国軍の元帥であった。

自分たちに恐怖と屈辱を与えたグレート王国軍の連中にいつか一矢報いてやりたい!

そう思いながら20年の時を経たが、現在でも彼らの存在はキャロルたちマロウータン海賊団にとって脅威である。

その証拠にあの日から今日までグレート王国に近寄ることはなかった。

しかし、今回は緊急事態のためグレート王国に立ち寄ることとなった。

これは襲おうとした国から思わぬ返り討ちに遭い食料をゲットできず、最寄りの補給ポイントがこのグレート王国だった為である。

当初は食料だけをサクッと頂いて退散するつもりだったが、この期を逃したらいつまたグレート王国に上陸できるかわからない。

いや、自ら近付くようなことはしないだろう。

それなら、ちょっとした仕返しをしてやろうではないか!

彼らの顔に泥を塗るくらいはできる。

深追いせずに生かしてもらったことには感謝してる。

だが、それはそれ…

自分たちを生かした事を後悔させてやる!

そう思いキャロルとマロウータンは村人大虐殺計画を実行することにしたのだ。


「あの大戦艦も今では一国の大臣…。そして、クラフト三姉妹はこのヨネフトを治める豪族。あの時、私らを殺しておけば大量の民たちが死なずに済むのに。ははっ…大失態だね!」


キャロルは薄気味悪い笑みを見せながらそう言う。

するとマックスがキャロルに向かって右手を向ける。


「なら、今お前をここで消す…」


いくらかマロウータン海賊団の最高幹部とはいえ、マックスに命を狙われたら逃れることはできないだろう。

しかし、何故か余裕の表情を見せるキャロル。


「無駄なことは止めときな!今ここでアタシらを殺しても何も変わらないさ。この村から戦闘員を北上させている。今頃民たちも蜂の巣さ!」


「それはどうかな?」


キャロルは避難中の西ヨネフトの民たちを襲撃するため海賊戦闘員を北上させている。

しかし、副領主テツの計らいもあり民たちは迂回して避難しているため海賊に襲撃される可能性は低いだろう。

もっとも海賊が北上を続ければヨネフト村から避難中の民たちに追い付いてしまうが、今頃アライバ村はメアリーかレイラが抑えているので安全だろう。

だがそれは、ヨネフト村からの避難者が全員アライバ村を通過していることが前提だが。

避難途中で海賊の軍勢に襲撃されたら流石のメアリーたちも民を守りきれないだろう。

蜂の大群から複数の風船を破裂させずに一人で守りきれと言うのと同じことだ。


「あんた達にも作戦があるんだろうけど、アタシたちもバカじゃないよ!ヨネフト港は第一陣を撤退させたけど…」


「第一陣だと…!?」


キャロルの言葉にマックスの表情は強張る。

するとヨネシゲがキャロルの企みを問い質す。


「お前、何を企んでるつもりだ!まさか、また海賊を上陸させるつもりか!?」


「ご名答!実は傘下の海賊団を近場に待機させていてね…。今頃ヨネフト港に上陸してあんた達の可愛い民たちの後を追ってるところさね…」


「冗談だろ…?あれから一時間半位しか経ってねえ。爺さんや婆さんの足だったら、まだアライバ村にすら到着してねえぞ…!」


ヨネシゲたちの顔は青ざめる。

避難中の民たちの中には当然高齢者もいる。

若者ならまだしも、高齢者となればヨネフト村からアライバ村まで二時間半以上は確実にかかる。

当然、レイラや兵士たちが護衛しているはずだが、海賊たちから一斉攻撃を仕掛けられたら完全にその攻撃を防ぎきるのは難しいだろう。

アライバ村まで逃げ切ればメアリーやレイラがバリケードを張ることができるが、何もない田舎道ではそれが出来ない。

第二陣の海賊たちが既にヨネフト村に上陸してるとなると時間の問題だ。

ヨネシゲたちの焦った表情を見てキャロルは勝ち誇った表情を見せる。


「それと言い忘れたけど…」


「なんだ!?」


キャロルは何かを思い出したようだ。

しかし、ヨネシゲたちの様子を見ながら思い出した事をすぐに口にはせず勿体ぶっている。

そんなキャロルにヨネシゲはイライラしながら次なる言葉を催促する。

すると、ようやくキャロルはその思い出した事やらを口にする。


「テツと言う男を預かっている。人質として当分生かしておくつもりだったが、その必要も無さそうだ。」


テツはまだ無事のようだ!

ヨネシゲたちが港に向かっていた目的は海賊を追い払うことだが、もう一つの目的があってそれはテツの救出。

そして、キャロルはそのテツにもう様はないそうだ。

それなら…!


「ならテツを返してくれ!」


ヨネシゲがテツを解放するように要求するが、キャロルは軽く鼻で笑うとそれを拒否する。


「バカ言っちゃいけないよ!あの男は魚の餌にするだから。魚が食べやすいように切り刻んでね…」


どうやらキャロルはテツを殺害する模様。


「返して欲しいなら力尽くで取り返してみな!けど、ヨネフトに向かったほうが良いんじゃないかい?民たちが蜂の巣になっちゃうよ?間に合わないと思うけど…ハハハハッ!」


「貴様…!」


卑怯な手を使ってくれる。

ヨネシゲは考えを巡らす。

テツが無事だと言うなら今奪い返す他ない!

でなければ確実にテツは殺されてしまう。

かと言ってヨネフト村から避難中の民たちを救う必要がある。

しかし、今から行っても間に合わない可能性が高い。

ここはメアリーやレイラに任せるしかない。

それとも半々で別れて行動するか?

いや、それは危険すぎる…

戦力がどちらかに片寄ってしまう。

今自分たちの頼みの綱はマックス一人だけなのだから。

そうこうしているうちにキャロルが動く。


「クラフト三姉妹の面を拝みたいとこだったが今回は諦めるわ。後は部下たちにこの場は任せてアタシらはずらかるとしよう。待機中のマロウータンさんと合流だ。」


そう言うとキャロルは背を向け港の方へ向かって歩き始める。

そんなキャロルの姿を見てヨネシゲが叫び始める。


「テツを返せっ!」


するとヨネシゲはキャロルに襲いかかろうとする。

それを見たユータやマッチャンたち盗賊もヨネシゲの後に続く。

そんな彼らをマックスが制止しようとするが勢いは止まらず。

キャロルとの距離をぐいぐいと縮めていく。


「カワシン…」


キャロルがそう言うと一人の男がヨネシゲたちの前に立ちはだかる。

このカワシンと呼ばれた男の正体は、キャロルの部下でありマロウータン海賊団の幹部であった。


「取り返せるものなら、取り返してみな…!」




海蛇カワシン、登場!



つづく…

豊田楽太郎です。

いつも読んでいただきありがとうございます!

今週末の投稿予定でしたが、早めの投稿となってます。

次回も今週末を予定しますが、書き終わり次第投稿致します。

今後とも宜しくお願い致します。


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