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ヨネシゲの記憶  作者: 豊田楽太郎
3章 海からの悪夢
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第43話 西ヨネフト

ここは西ヨネフトの東側入口。

連絡のとれない西ヨネフトの民たちの安否と現状確認のため編成された、ヨネシゲをリーダーとする8人の集団が今ここへ到着するのであった。

村の入口が見えてくるとヨネシゲは興奮して声を出す。


「見えてきたぞ!西ヨネフトの入口だ!」


「あれが西ヨネフト…!」


ユータも初めて見る西ヨネフトの名を思わず口にする。

ユータは以前より周りの皆から西ヨネフトの規模について聞かされていた。

その規模とは単純にヨネフト村を一回り小さくした所と説明を受けた。

確かに遠目から見る限りではこの西ヨネフトの雰囲気はヨネフト村の雰囲気と大差ないように思える。

余談であるが、先日の夜、ユータとヨネシゲはマックスに連れられ酒を飲みにアサガオ亭を訪れていた。

その際、隣のテーブルにはヨネフト村在住の男たちと西ヨネフト在住の男たちが酒を酌み交わしていた。

ユータはヨネシゲとマックスの武勇伝に付いていけなかったため、隣の男たちのやり取りに耳を傾けていた。

決して盗み聞きをしている訳ではない。

彼らの声が大きいため、嫌でも耳に入ってくるのだ。

まあ、ヨネシゲの武勇伝を聞くよりはマシなのだが…

しかし、その男たちの声は更に大きくなり、最終的には怒鳴り合いとなっていた。

当然、店に居た他の客の視線はこの男たちの方へと向けられていた。

取っ組み合いの喧嘩まで発展していたので、クレアと店主が止めに入っていたのだが、周りの客たちは“もっとやれ!”と拍車を掛けるので男たちの喧嘩はヒートアップしていた。

では何故ここまでの大喧嘩になったかと言うと、お互いの村の自慢話がきっかけだ。

例えば、ヨネフト村の水揚げ量は王国内でも三本の指に入るだとか、西ヨネフトは北側と西側の領土を行き来する人々で賑わう実は交通の要衝だったりと、話の内容としては他愛のない内容ばかりだ。

それだけなら良かったものの、双方自分の村の自慢話を終えたあと必ず相手の村を罵るのだ。

西ヨネフトは規模が小さいど田舎だとか、ヨネフト村は無駄に広いだけなど…

そんなやり取りをしているうちに大喧嘩へ発展してしまったのだ。

ヨネフト村民と西ヨネフト村民はこの様な言い争いをする事が多い。

お互い自分達の村に対して高い誇りとプライドを持っている。

それ故に村のことを馬鹿にされると非常にご立腹される。

両者同規模の村であるため、長年お互いをライバル視しているらしい。

小競り合いも度々起きるのだとか…

こうして酒を酌み交わす仲ではあるのだが、酒を飲み本音で語り合うと時にはこの様な抗争に発展する。

話は脱線したが、現実世界でもお互いをライバル視している街があるが、それと同じ事だ。


ユータたちは西ヨネフト村へと足を踏み入れた。

ヨネフト村を出発してから約一時間で到着。

ヨネシゲの言った通りであった。

村に到着するなり一同異様な光景を目にすることになる。

それは、50~60人程の男が倒れている姿だ。

完全に気を失っていたり、うめき声を上げながら蹲っていたりと苦しんでいる様子だ。

そして、男たちは強面の顔に屈強な肉体の持ち主。

鉄の鎧に、機関銃や剣で武装している。


“マロウータン海賊団だ!”


一同、その容姿を見ただけで男たちが何者なのか瞬時に理解した。

そうなると、この西ヨネフトは海賊の上陸を許してしまったことになるのだ。

今ヨネシゲとユータたちが居るのは東側のメインとなる出入口。

今ヨネシゲたちが走ってきた道は通称“ヨネフト街道”と呼ばれる道だ。

この西ヨネフトからヨネフト村を抜けアライバ村へと続く、ヨネフト地区の主要幹線の1つである。

そのヨネフト街道とは別に、西ヨネフトの北側から西側へ抜ける街道が存在する。

通称“南コーケン街道”

南コーケン街道とは、王都を起点とし、北アライバやアライバ村、西ヨネフトなど王国南側を経由して、ヨネフト地区から遥か遠くにあり西の都と呼ばれる“コーケン”と言う街まで続く道の総称である。

コーケンはかつて王国西側の経済と軍事の拠点。

王都からコーケンヘ抜ける既存の街道のバイパス路線として整備されたのが南コーケン街道。

皮肉にも現在コーケンは反王国派大領主の支配下にあるのだ。

もっとも、現在でも人と物の出入りは特段制限されておらず、この街道は行商人や旅人等の多くの人々が往来しており、西ヨネフトは宿場町として賑わっている。

西ヨネフトは正式に“村”と言う位置付けをされてるのだが、人々は村と謳っておらず“西ヨネフト村”ではなく“西ヨネフト”と呼んでいる。

一説によると宿場町として賑わう西ヨネフト村であっが、“村”呼ばわりされるのは如何なものかと当時の西ヨネフトの人々が“西ヨネフト”の呼び名を定着させたと言われている。

これもヨネフト村と差をつける為だったとか…

またしても話が脱線してしまったが、要するに西ヨネフトの北側と西側もこの東側と同じように村の内外を行き来できる訳だ。

つまり、海賊の軍勢が既に北側や西側から村の外へ進軍してる可能性があるのだ。

少なくとも東側はその可能性は低い。

ヨネシゲたちがここまで来る間に海賊とすれ違うことはなかったからだ。

そして海賊の東側進出は誰かによって阻止された可能性が高い。

その証拠に今目の前に居る海賊たちは戦闘不能の状態で倒れている。

では一体誰がこの海賊たちを倒したのか?

真っ先に思い浮かんだのは一足先にヨネフト村に向かっていたマックスとリタだ。

マックスたちもヨネフト村から西ヨネフトに向かったのならこの道を間違いなく通ることだ。

後追いのヨネシゲ達がマックスたちに追い付かなかったと言うことは彼ら既にこの西ヨネフトに到着しているはずだ。

あの二人ならこれくらいの人数を倒す事など容易い。


「マックスたちはこの村に居るはずだ!早く合流しよう!」


ヨネシゲがそう言うとユータはマックスたちを探す方法をヨネシゲに尋ねた。


「ヨネさん、マックスさんたちをどうやって探しましょう?ヨネフト村と同じくらいの広さとなると探すのも一苦労です。手分けしますか?」


ユータは手分けして探そうと言うがヨネシゲはそれを反対する。


「海賊たちがどこから襲ってくるかわからない…ここは集団で行動した方が良いだろう。」


ヨネシゲはそう言ったあとマックス達を探す方法を模索する。

するとゴリキッドが提案する。


「単純に海の方へ向かったらどうだ?もしそのマックスとか言う奴が海賊たちを倒そうとするなら奴等の拠点へ向かうはずだ。それにどこかで争う声がしていればそこに居ると思うが?」


「お前、頭良いな!」


ヨネシゲがゴリキッドの事を褒めると彼はドヤ顔をしてみせる。

しかし、ゴリキッドの提案を渋る者達が居た。


「ヨネシゲ様、情報なしに我々だけで敵の陣中に飛び込むのは危険です。ある程度の情報を収集してからが望ましいかと…」


「私もそう思います。リタ様やマックス様がこの村に居る保証はありませんからな…」


クラフト兵たちだ。

彼らはいきなりマロウータン海賊団の拠点に近付く事を渋った。

彼らはクラフト兵の中でも選りすぐりである特殊部隊のメンバー。

実力もかなりのものだ。

しかし、いくらなんでも彼らたちだけで敵の陣中に飛び込むのは危険すぎる。

それに今回の目的はマックスたちと合流して海賊と戦うことではない。

村が海賊に襲われているか否か、そして襲われていると言うなら民たちが避難できているかどうか?

それだけ確認さえすれば自分達も直ちに北アライバに避難すべきだ。


「しかし、情報収集と言っても…」


いきなり情報収集と言われて戸惑うヨネシゲ。

俺は君たちの知っているヨネシゲではないぞ!

心の中でそう叫んでいたヨネシゲであったが、クラフト兵の行動は早かった。

クラフト兵の一人が倒れている海賊の中から意識のある者を選び近寄ると持っていた剣を海賊の戦闘員に突き付ける。

どうやら何かを聞き出しているらしい。

その間にもう一人のクラフト兵がヨネシゲに提案する。


「ここは一先ずテツ様のお屋敷に向かうのは如何でしょう?テツ様なら民が避難完了するまでこの村からは動かないはずです!」


「確かにそうだな…」


副領主であるテツのことはヨネシゲも良く知っている。

何故ならテツもまたヨネシゲがこの空想世界と共に生み出した理想の人物の一人だからだ。

テツはヨネシゲには従順で真面目な男である。

尚且つ民思いで、決して民より先に逃げ出すことはない。

あわよくば民を守るために捨て身の行動をとる可能性も考えられる。

そんなテツの屋敷に向かえば何か情報を得られるかもしれない。


「よし、テツの屋敷に行こう!」


ヨネシゲがそう言うと一同静かに頷く。

そして、海賊の戦闘員から情報を聞き出そうとしていたクラフト兵だが、思った以上に相手の口が固く情報を聞き出すことができなかったようだ。

すると、クラフト兵は持っていた剣で海賊戦闘員の首元を躊躇いもなく突き刺すのであった。

その衝撃的な光景にヨネシゲ、ユータ、ゴリキッドは呆気にとられていた。

そして更に衝撃的な光景がヨネシゲたちにの目に飛び込んでくる。

他のクラフト兵たちも剣を手にすると、まだ生きているであろう倒れた海賊戦闘員の息の根を躊躇いもなく次々と止めていく。

あまりの異様な光景にユータは気分が悪くなり吐き気がしてきた…そして目を背ける。

ヨネシゲは言葉を失いながらも、黙ってその光景を見つめていた。

ゴリキッドは意外にもニヤッと笑ってみせた。


「甘く見ていたが、ここの民兵もなかなかやるな…」


ゴリキッドは感心した様子でクラフト兵の様子を見ていた。


今確認できる範囲で倒れた海賊たちの息の根を止め終わると、クラフト兵の一人が妙なことを口にする。


「それにしても、マックス様やリタ様が倒したにしては甘くないか?コイツらを生かしておいたら民たちに危険が及ぶ可能性があるに…」


このマロウータン海賊団はただの海賊ではない。

情け容赦ない冷酷非道な海賊。

生かしておけば再び民たちを襲う可能性がある。

こちらも容赦してはならない。

逮捕すると言う手もあるのだが、今の自分達にはそれほどの余裕はないのだ。

そして、もし本当にマックスやリタがこの海賊倒したというのならば息の根を止めていくことだろう。

元軍人に元保安官、プロであるあの二人ならリスクを残すような判断ミスはしないはずだ。

そう考えるとこの海賊を倒したのは別の者たちか?

クラフト兵の中で疑問が生まれていた。



命まで奪わなくても…

これじゃこの海賊となんら変わらないじゃないか…!

ユータは心の中で疑問を感じていた。

正直、この海賊たちは今すぐに動ける状況じゃない。

仮に民たちがまだ村に残って居たとしても、逃げるだけの時間は十分確保できたはずだ。

それなのに、躊躇いなく倒れた海賊を殺していくクラフト兵の行動をユータは受けいられずにいた。

そんなユータはある言葉を思い出す。


“敵に情けをかけるな…!”


“戦場ではな!その一瞬の隙が命取りなのよ!”


マックスの鬼特訓が始まった当初にクラフト三姉妹から言われた言葉だ。

ユータはクラフト三姉妹と実戦形式の訓練をした際、相手の安否が気になり攻撃を躊躇ってしまった場面があった。

結果、メアリーによって隙をつかれてしまったのだが、相手が本当の敵だったら命は無かっただろう。

本当の戦闘となったら相手の安否など気にしてる余裕はない。

隙を見せれば殺られるのはこちらだ。

情けをかけた相手から殺されてしまうなんて事も多々ある。

元軍人であるクラフト三姉妹からは耳が痛くなる程この様なことを聞かされた訳だが、やはり納得はできない…


(他に方法はないのか…?絶対に殺らなきゃならないのか…?これがこの世界なのか…?)


ユータの居た現実世界では普通に生きていればこの様な場面に出会すことはまずない。

彼は現実世界とヨネシゲの空想の狭間で葛藤していた。


「ヨネシゲ様、それでは急ぎましょう!」


「ああ、わかった…!」


ヨネシゲは副領主テツの屋敷へ急行するようクラフト兵に促される。

ヨネシゲもまた、自身の作り出した空想世界について疑問を感じていた。


(俺が作り出したのはこんな世界ではない…!何故、何故、血が流れるんだ!?俺の空想はどうしてこうなってるんだ!?)


その時、ヨネシゲはガソリンの言葉を思い出す。


“何者かがあなたの空想を書き換えてるからよ”


そう、このヨネシゲが作り出した空想世界は何者かによって改竄されていると言うのだ。

一体誰がそんな事を?


(許さねえぞ…!)


楽しく幸せな時を送れるはずだったヨネシゲの空想世界。

だがヨネシゲに降りかかるのは災難の連続。

自分だけならまだしも、何の悪さをしていない人々まで災難が降りかかっている。

もしそれが何者かの仕業で引き起こされていると言うのであれば、その者を絶対に許してはおけない!

ヨネシゲは怒りを滲ませるも、今はその時ではない。

民たちの安否を確認するのが最優先だ。

ヨネシゲは皆を引き連れテツの屋敷へと走っていく。

その彼の拳は強く握られていた…



そして、更なる惨劇がヨネシゲ達を待ち受ける…!



つづく…

豊田楽太郎です。

ヨネシゲの記憶を読んでいただきありがとうございます。

何とか連休最終日にもう1話投稿できました。

これも皆様がこの作品を読んでいただいてるお陰でございます。

次回の投稿は今週末を予定してますが、それ以降になるかもしれません…

来週からはまた投稿ペースがダウンすると思いますのでご承知おきくださいませ。

次回くらいから、マロウータン海賊団との本格的な戦闘に入ると思われます。

投稿スピードは遅いですが、今後ともヨネシゲの記憶を宜しくお願い致しますm(__)m


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