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ヨネシゲの記憶  作者: 豊田楽太郎
3章 海からの悪夢
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第42話 テツの警告

西ヨネフトへの田舎道を8人の集団が走っている。

この集団の目的は、現在マロウータン海賊団に襲撃されているであろう西ヨネフトの状況を確認すること。

この集団のリーダーは、ヨネフト地区の領主“ヨネシゲ・クラフト”だ。

助っ人役として、彼と共に現実世界からやって来た“ユータ・グリーン”

ゴリラ顔のこそ泥“ゴリキッド・マウンテン”

そしてクラフト家民兵軍の特殊部隊である通称“クラフト兵”と呼ばれる5名の民兵が同行している。

元々ヨネシゲ一人で西ヨネフトに向かう予定だった。

しかし、ウオタミに命を救われ尚且つ彼から望みを託されたユータが、今が自らの役目を果たす時だと言ってヨネシゲの助っ人役として名乗りを上げた。

次いでゴリキッドもユータと同じ理由でヨネシゲたちと同行する事になった。

とはいえこの3名だけで危険な地に向かわすのは不安である。

そこでヨネシゲの姉であるレイラが5名のクラフト兵を貸し出したという訳だ。


この世界はヨネシゲが作り出した空想世界。

少なくとも彼は西ヨネフトの地理に関してある程度理解はしている。

しかし、この世界に迷い混んでから西ヨネフトの地に実際足を踏み入れるのは今回が初めてとなる。

この世界は自分の空想でありながら、予期せぬ出来事が多々起きる。

ヨネシゲの空想とは異なる村が現れる可能性もあるし、この方角で合ってるのかも不安になる。

方角に関しては一緒に同行しているクラフト兵が居るのでこのまま進めば問題ないであろう。

彼らはこの世界に住む住民なのだから、間違っていれば指摘してくるだろう。

ヨネシゲには予備知識があるが、ユータに関してはこの世界がどういう場所なのかほぼ理解していない。

知っているのはこの世界がヨネシゲの空想であることと、ヨネフト村の地理をかじる程度だ。

予備知識もない状態で何もない田舎道を走り続けると、いつになったら到着するのか不安になる。

ユータはヨネシゲに西ヨネフトまでの所要時間を尋ねる。


「ヨネさん、西ヨネフトまでどのくらいで着きます?」


「そうだな…歩いて三時間程の距離だから、このペースで走って行けば一時間程で到着するはずだ…」


一同それなりのペースで走っているが、少なくとも一時間はかかる距離らしい。

西ヨネフトまで体力が持つか不安だ。

それ以上に一時間も掛かると聞いて気持ちが焦ってくる。

そんな逸る気持ちがユータの走るペースを加速させる。









ここは西ヨネフトの港。

港はマロウータン海賊団に占拠されている状態だ。

港だけではない、海賊の軍勢は村全域を掌握した模様。

更にはその先にあるアライバ村に進軍したとのやり取りもあちらこちらから聞こえてくる。

隣のヨネフト村からは船団を撤退させてるため、今後はこの西ヨネフトがマロウータン海賊団のヨネフト攻めを行う拠点となることであろう。

そして、港中心部には彼らマロウータン海賊団と話があるということで一人の訪問者が訪れていた。

その訪問者とは、ヨネフト地区副領主にして西ヨネフトの責任者を務める男“テツ”である。

センターで分けられ前髪は先端でカールしており、眠そうで開いてるのかわからない細目、やる気の無さそうな雰囲気を醸し出した50代前半の男だ。

そんな彼の話を聞こうとするのは、このマロウータン海賊団の最高幹部である“キャロル”と言う名の女だ。

辻斬りキャロルの異名を持つ実力者。

この海賊のシンボルであるバナナ印のドクロが描かれた三角帽子を被っており、口から八重歯を覗かせ、鋭い目付きとはっきりしたほうれい線の40代後半程の女である。

二人は一定の距離を保ちながら対面するように立っており、二人の周りを武装した海賊の戦闘員が取り囲んでいた。

この状況、どう見ても圧倒的テツの劣性だ。

しかし、彼は動じることなく微笑みながらキャロルの目を見つめていた。

もっとも、開いてるかわからない程の細目なのでどこを見ているかは正直不明だ…


「副領主さんがわざわざ交渉に来るとは…。それなりの要求に答える準備はできてるんだろうね…?」


始めに言葉を切り出したのはキャロルであった。

彼女は面倒なことが嫌いである。

交渉があると言うなら即決させて終わらしたい。

この海賊は冷酷非道で有名であるが、交渉にはそれなりに応じる。

満足する条件を相手が提示してくる場合は基本危害を加えることはない。

しかし、条件が悪かったり歯向かってくる場合には容赦しないのである。

略奪の限りを尽くして一人残らず街の人々を惨殺、その後は火を放ち全てを灰と化してしまう。

相手が弱小国家であれば、国土全域に侵略して国と言うものを壊滅させてしまう。

そんなマロウータン海賊団と交渉する際は、どの国や街も始めから全てを差し出すが如く最高の条件を提示してくる。

残忍な方法で命なんて奪われたくはない。

それに命代えられものは他にないからだ。

という事で普段の交渉も9割は即決する。

だが今回はこのヨネフト地区から根こそぎ奪えるものは奪って海賊船に積み込みたい。

色々事情があるためだ。

そのため今回交渉するつもりは一切なかったのだが、時間をもて余していたキャロルは暇潰しにと彼の話を聞くことにしたのだ。

キャロルは単刀直入に用意できるものを全て答えるようテツに要求する。

しかし、テツは予想外の答えを返してきた。


「今日は君たちと交渉しに来たわけではないのだ…」


交渉でなければ何しに来たというのか?

わざわざ自分たちに殺されに来たというのか?

いや、そこまで馬鹿ではないはず。

冴えない感じの男であるが、一応副領主を任されている。

それなりの考えがあってこの場に来ているに違いない。

キャロルはこの場に来た真の理由とやらをテツに尋ねる。


「交渉でなければ何しに来た!?」


「ちょっとした世間話でもしようと思ってね…こんな大海賊と話す機会なんて滅多にないからさ。」


「お前は馬鹿か?海賊と世間話するのはこれが最初で最後になるぞ?」


「はっはっはっ…そうだね。」


何なんだこの男は?

世間話するためだけに世界中から恐れられている海賊の前へ姿を現したと言うのか!?

命知らずにも程がある。

キャロルはテツの行動が理解できずにいた。

するとテツがキャロルに話題を振ってくる。

世間話の始まりか…?


「君たち、随分沢山船に積み込むね…この分だと船の中は空っぽかい?」


「お前に答えることなど何もない…」


テツが話題を振るもキャロルは答える気がないようだ。

しかし、テツはキャロルに話し掛け続ける。


「こんな小さな村を襲っても良いものは揃わないよ?正直、君たち大海賊が襲う価値もない村だ。どうせ襲うなら王国の北側がいいよ、王都も近いしね。東側も良いかもしれない、昔と違ってあの土地も豊かになったから。あっ、西側は止めておきな、あっちの海は天候も海流も船乗りにとっては最悪だ…」


もはやキャロルと世間話ではなくテツ独り言になっていた。

そしてテツはあることを口にする。


「まあ、この国に上陸するなら南側が安全なんだろう。警備はビックリする程手薄いからね。ましてやこのヨネフト地区はクラフト家の存在に頼りすぎて無防備だ。いわば平和ボケってやつさ。君たちにとって狙い目だったと言い訳さ。」


テツの言葉にキャロルは眉をひそめるも黙ったままテツの話を聞き続ける。


「君たちにとって、このグレート王国の戦力はかなりの驚異に違いない。王国軍に保安局、北側には君たちがチビってしまう程恐れている“大戦艦”が睨みを利かせている。それだけじゃない、東には“虎”、西には“魔王”と言った大領主も居る。そう考えるとグレート王国に近寄らない方が君たちにとって吉だ。それに決してこのヨネフト地区も安全な訳ではないしな…」


テツの話を聞いていたキャロルの顔は険しいものへと変わっていた。

回りくどいこの話し方、尚且つ自分たちの行動が見透かされているような気がしてならない。

これ以上聞くのは不快な気分になる。

キャロルは結論を言うようテツに求める。


「一体何が言いたい!?」


「グレート王国に立ち寄らざる得ない理由があるのだろう?」


「…………」


テツの問い掛けにキャロルは口を閉ざしたまま。

どうやら図星のようである。

そもそもグレート王国の戦力の前ではマロウータン海賊団など赤子同然と言っても過言ではない。

下手に上陸すれば抹殺されてしまう。

しかし、危険を冒してまでグレート王国に立ち寄らなければならない理由があるとテツは言う。


「先日、遥か離れた南の海で、ある国の海軍とある大海賊衝突したらしい。その海賊は長期の航海で物資が底を尽き始めていたらしく、補給のためその島を襲撃したが返り討ちにあったとか…。その島を逃すと次の補給ポイントの最寄りとなるのがこのグレート王国だ。」


テツはそこまで言い終えるとキャロルの返答を待っていた。

するとキャロルは開き直った感じで全てを打ち明ける。


「ああ、そうさ!その返り討ちにあった海賊とはアタシら事だよ!もう食料が底を尽く…何としても食料は手に入れなければならない!そうなると多少のリスクを冒さなければならない。そこで今回このグレート王国に足を踏み入れた訳さ!ご指摘の通り南側のこのヨネフトが一番安全だったからね。でなければこんなゴミみたいな村襲ったらりしないわよ!それに…間違っても大戦艦とは出くわしたくないからね…」


全てはテツの想像した通りであった。

食料が底を尽き緊急事態のだったため、危険な国なれど一番手薄な村に上陸したという訳だ。

とはいえ、このヨネフトにはマロウータン海賊団にとって因縁の相手が在住している。


「そろそろクラフトの姉御様たちがやって来るよ?」


テツの言葉にキャロルは顔をしかめる。


「ああ、わかってるわよ!だからヨネフト港に囮の船団を送り込んだ。まあ、一時的なものに過ぎないがな。それに…」


キャロルはニヤッと笑みを浮かべると言葉を続ける。


「駆け出しだった当時のアタシらとは訳が違うよ。今のアタシらならクラフト三姉妹を倒すことができる…!」


何故か自信に満ちた表情を見せるキャロルにテツが警告する。


「この村の食料は自由に持っていってもいい。だが悪いことは言わない、用が済んだら大人しくこの国から立ち去るんだ。これ以上内陸に足を踏み入れてはならない。」


テツは速やかにこの国から立ち去るよう警告する。

しかし、キャロルは聞き入れる様子はない。


「アタシたちがそう簡単に帰ると思うかい?奪えるもの全て奪う…奴らには借りがあるならね…」


「これ以上内陸に進んでも意味がない。西ヨネフトとヨネフトの食料さえ手に入れば十分だろう!?」


大規模なマロウータン海賊団だが、2つの村の倉庫から食料を手に入れることができれば当分の間は飢えに困ることはないであろう。

しかし、キャロルはその先の村からまだ“奪う”と言うのだ。


「確かにこれだけあれば食料はもう十分さ。だけど、まだ奪うものが沢山あるんだよ…」


「これ以上何を奪うつもりだね…!?」


食料が十分手に入ったなら大人しく帰るべきだ。

欲をかいても良いことはあまりない。

天敵クラフト三姉妹もこちらに向かってきてるはずだ。

そんな状況で食料以外に奪わなければならないものとは何だ?

するとキャロルは不適な笑みを浮かべるとある例えば話を始める。


「私たち蜂、蜂の大群。そして、あの三姉妹は猛獣と言ったところかしら。そこでお前に聞きたい。どんなに強い猛獣でも、蜂の大群から風船を破裂させずに守ることができると思うかい?」


キャロルはテツにそう問いかける。

そしてテツはその言葉の意味を理解した瞬間、顔が青ざめる。


「ま、まさか…」


「アタシらの目的を理解したようだね!まあ、今回に関しては食料補給のついでということだけど…」


キャロルが言っていた例えとは…


蜂は海賊である自分たち…


猛獣はクラフト三姉妹…


そして風船とは…


“民たち”のことである…!




「あんたには人質になってもらうわよ!あの三姉妹の行動を制限するのに役立ちそうだからね。」


そういうとキャロルはテツを船内の牢屋に閉じ込めるよう周りの戦闘員に指示した。


その直後である。

村の方から海賊の戦闘員がキャロルの名を呼びながら駆け寄ってきた。


「キャロルさん、大変です!」


「どうしたのよ!?」


「正体不明の集団が突然襲撃してきました!」


「正体不明…?」


「はい、兵士や保安官ではありません。どうやら荒くれ者の集団のようでして…」


西ヨネフトの村を制圧したマロウータン海賊団。

しかし、その海賊の軍勢に正体不明の荒くれ者たちが襲い掛かってるそうだ。






ここは西ヨネフトの東側の入口付近。

海賊の男たちが次々と地面に倒れていく。


「や、やめろっ!」


そう叫ぶ海賊の男。

その直後、大きな拳が彼の顔面にめり込んでいた。

一発KO!

この海賊の男もまた地面に倒れていく。

そして、倒れた海賊を見下すのは荒くれ者の集団であった。



「弱いものイジメはいけねえな、兄ちゃんたち…!」




正義の鉄拳炸裂…!?



つづく…

お世話になります、豊田楽太郎です。

昨日に引き続き新しいお話を投稿する事ができました。

連休中にあともう1話投稿できるよう頑張ります。

今後とも“ヨネシゲの記憶”を宜しくお願い致します_(._.)_

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