表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヨネシゲの記憶  作者: 豊田楽太郎
3章 海からの悪夢
42/76

第39話 ユータを探して

ここは“秘密の空間”と呼ばれるこの空想世界の番人しか知らない謎の場所。

遠く離れた所へ行く際、この秘密の空間を使えばちょっとしたワープができ大幅な時間短縮することができる。

その秘密の空間を今移動してるのが、ヨネシゲと空想の番人であるガソリンだ。

生命の危険が迫っているユータの元に急行するため秘密の空間を移動していた訳であるが、大幅に時間を要してしまった。

その理由は、元空想の番人であるキラーの襲撃にあって足止めされてしまったためだ。

その後キラーから逃れる事ができた二人だが、恐らくキラーの仕業であろう、秘密の空間が歪められてしまい出口があらぬところに移動してしまったのだ。

ヨネシゲとガソリンはその出口を必死になって探していた。

すると二人の前方に一際明るく輝く、白い光の柱が目に飛び込んできた。

その光の柱の太さはマッチャンが6人程束になった位か?

下から上へと伸びており、その上下の先端が確認できないほど遥か遠くまで伸びている。


「やっと見えてきたわ!あれが出口よ!」


ガソリンはそう言うとニヤっと笑みを見せる。

どうやら目の前に見えている光の柱がユータの元へ降り立つ出口だそうだ。

やっと見えた出口にヨネシゲは一瞬安堵の表情を見せるも、すぐに険しい表情へと切り替わる。

ヨネシゲの緊張感も更に高まっていく。


「ユータ、無事で居てくれよ…!」


危険が迫るユータを救うべく急行していたヨネシゲ。

しかし、先ほどキラーの襲撃にあってる時にガソリンからユータが刺され負傷したことを知らされた。

怪我の程度は不明だが一刻を争う事態だ。

どんな武器で攻撃されたか不明だが、刺されたとなればただでは済まないはず。

マックスの鬼特訓を約一ヶ月受けたヨネシゲとユータ。

二人は短期間で急成長を遂げることができた。

常人の域は超えることができたかもしれないが、猛者と呼ばれる人物たちの足元にはまだまだ及ばない。

ようやく基礎ができた感じだ。

という事で攻撃面、耐久面共にまだ未熟であり、当然武器攻撃に対する耐性も不十分だ。

今はユータが致命傷を負っていないことを願うことしかできないのだ。


ヨネシゲは光の柱の手前までたどり着くとガソリンに秘密の空間からの脱出方法を尋ねる。


「この光の柱に飛び込めばいいのか?」


「そうよ!あの光の柱に入り込んだ瞬間、青年の元に降り立つ事が出切るわ。」


ここから抜け出す方法は理解した。

となれば、後は実践あるのみ!

ヨネシゲは早速光の柱に向かって一歩ずつ歩を進める。

するとガソリンからある忠告をされる。


「この世界があなたの作り出した空想であると言うことは、この世界の住民には話しちゃダメよ!」


この世界が自分の作り出した空想であることを打ち明けたのは今のところユータのみ。

そしてユータはヨネシゲと共に現実世界からやって来た人間。

この世界の住民ではない。

この世界に住む人々にはまだその事実を打ち明けてはいなかった。

何故なら話したところで誰も信じないと思うからだ。

突然、この世界は俺が作った!と言われても信じる人間が居るはずなどない。

例え相手がヨネシゲの作り出した理想の人物だとしても。

単純に考えてこの世界の人々はヨネシゲによって作り出された存在である。

そうなると彼の言うことを何でも信じそうな気もしそうだが、ここに住む人々はちゃんとした自分というものを持って生きている。

決してヨネシゲの思い通りに動く操り人形と言う訳ではないのだ。

自分の思うように事が進むよう作り出された空想世界であったが、実際に入り込んでみると現実と大差なかった。


それはそうとして、もしこの世界の人にここが自身の作り出した空想だと打ち明けたらどうなるのか?

打ち明けた瞬間に全てが消滅してしまうとか?

ヨネシゲは今まで疑問にも思っていなかったが、こうして忠告されるとは良からぬことが起きるに違いない…!

ヨネシゲは事実を打ち明けた後の結末が気になり、ガソリンに恐る恐る尋ねる。


「もし話したらどうなる?」


「正直、話したところで誰も信じないでしょうし、何か大事が起きるわけではないわ…」


意外にもガソリンの答えは特段大事が起きるわけではないとのこと。

なら何故忠告したのか?

その理由をガソリンは続けて説明する。


「あなたがその事実を打ち明けることによって、あなた自身が後々不利になる可能性がある。リスクは避けるべきだわ。口は災いの元、不必要な恨みを買う可能性がある。何故ならこの世界を良く思っていない人は沢山居るからね…」


ガソリンの言葉は物凄く説得力があった。

何故なら思い当たる節があったからだ。

例に上げるならマッチャンだ。

彼には辛い過去があることを知った。

当然、この世を恨んだに違いない。

そんな彼の事情を知りながら、この世界は俺が作っちゃいました!なんて言ったらどうなるか?

自分だったら馬鹿にされてるのかと激高し、その発言を許さないだろう。

間違いなく二度と口を利きたくない人物にランクインするだろう。

ガソリンの言うとおり、この事実については胸の内に秘めておこう。


「わかったよ、誰にも話さねえ!」


「よろしい。さあ、行きなさい!」


ガソリンの言葉にヨネシゲ頷くと光の柱に足を踏み入れようとする。

しかし、あることに気付く。


「ガソリン、お前は来ないのか…?」


ヨネシゲを見送るように見守っているガソリン。

てっきりガソリンもこの先一緒に付いてくるものだと思っていたヨネシゲだったが、どうやら彼女とはここでお別れのようだ。


「私は妖精!人前に軽々しく姿を現しちゃダメなのよ。」


ガソリンはそう説明した上で、自分はこの空想世界の番人なのでこの空想世界の人々と顔を合わすのはご法度とされてるそうだ。

それと自分の存在もこの世界の人々には話さないでほしいとのこと。

彼女には彼女なりの理由があるそうだ。



「わかったよ!ガソリン、ありがとうな!」


「礼には及ばず…また、近いうち顔出すわ!」


ヨネシゲはガソリンに別れを告げると、光の柱へと飛び込んだ。










ヨネシゲの視界にいきなり現れたのはヨネフトの港。

どうやら秘密の空間から抜け出せたみたいだ。

先ほどまで宙を浮きながら秘密の空間を移動していたヨネシゲであったが、今はしっかりと地の上に立っている。

そのため、突然自分の体が重く感じられた。

ヨネシゲは周囲の状況を確認する。

ヨネシゲが見たものとは、ちょうどこの港から慌ただしく出港していくバナナ印のドクロを掲げた何十隻もの海賊船。

海賊船に乗っている乗組員たちも慌ただしそうに船の上を走っていた。


「ガソリンが言っていた脅威だの悪魔だのって言うのはコイツらのことだったのか?」


しかし、今目の前に居る海賊船からは脅威は全く感じられなかった。

どちらかと言うと早々に退散する小物達と言ったところか…


「それよりもユータはどこだ!?」


秘密の空間から出口である光の柱に入り込んだヨネシゲ。

出口の先にはユータが居る。

そう聞いて今ヨネフト港に降り立った訳であるが、そこに居るはずのユータが居ないではないか!?

どういうことだ?

辺りを見回すもユータどころか人の気配すらない。


ヨネシゲが降り立ったのは港の東側であった。

この世界に来てからヨネフト港に実際足を踏み入れたのは初めてだ。

だが、自分が作り出した世界であるため、少なくともこの村の地理には非常に詳しい。

今自分が港のどの辺りに居るかは降り立った瞬間に把握していた。

ヨネシゲはユータの名を呼びながら西の方へ移動を始めた。


移動してすぐのことである。

何やら悲痛な声を上げながら走ってくる男たちの集団が目の前に現れた。

屈強な体つきの男たちは鉄製の鎧を身に付け、銃や弓、剣など多種多様な武器で武装していた。

ヨネシゲはその姿を見てすぐにわかった。


(こいつら海賊だ…!)


しかし、様子がおかしい。

悲痛な声を上げ目の前に現れた彼らは、かなり負傷している様子だ。

頭や体からは血を流し、中には足を引きずっている者も居た。

そして何より驚いたのは彼らの乗ってきたと思われる海賊船は早々に出港を始めていたのだ。

海賊の男たちは船に向かって叫び始める。


「おい!コラッ!俺達を置いてくつもりか!?」


「待ってくれよ!俺たちの他にも村の方には歩けない奴らが沢山残ってる!」


「おい、頼むから戻ってきてくれよ!」


海賊の男たちは海賊船に向かって叫び続けるも戻ってくる気配はない。

すると、海賊船に乗っている男が周りの男たちに何やら合図をしている。

どうやら彼らを迎えに戻るつもりか。

ヨネシゲはそう思った。

叫び続けていた海賊の男たちも船の上の仲間たちの様子を見て戻ってくるものだと思っていた。


しかし、それは違っていたのだ…


海賊船に乗っていた男たちはなんと、港に居る仲間たちに向かって機関銃を構え始めた。


(アイツら何をするつもりだ…?)


ヨネシゲは物陰に隠れながら様子を伺っていた。

港に残された海賊の男たちは顔を青くしながら後退りを始める。


「おい、待て…冗談はよせよっ!?」


「お、俺達仲間だろっ!?」


海賊の男たちは船に向かって叫び始める。

すると船の方から声が聞こえてきた。

こちらと海賊船との距離はあったが、拡声器か何かを使用してるらしく、その声はハッキリと聞き取ることができた。


「出港の命令が出た。貴様らなど迎えに行く暇はない。それに、負傷した貴様らなどゴミ同然だ。船に乗せる価値はない…!」


その言葉を聞いて唖然としている海賊の男たちに悲劇が起きる。


突然聞こえる連続した銃声。

銃弾を放ったのは船の上で機関銃を構えていた仲間の海賊たちであった。

銃声が聞こえたと思うと、港に居た海賊の男たちは次々とその場に倒れていく。

全員が倒れると銃声は鳴り止み何事も無かったかのように海賊船は港との距離を広げていく。


しばらく間を置いた後、ヨネシゲは倒れた海賊の男たちの所へ駆け寄った。

ヨネシゲは、大丈夫か!?と声を掛けようとしたが、男たちの姿を見て声を掛けるのを諦めた。

彼らが身に付けていた鉄製の鎧も蜂の巣状態。

胴体はもちろん、腕や脚、顔にも無数の銃弾を被弾しており、見るも無惨な姿に変貌を遂げていた。

周囲は血の海と化していたのだ。


「何てことしやがる…」


仲間相手にここまでするとは、奴らただ者ではない。

ヨネシゲは直感でそう感じた。


再びヨネシゲは港を西の方角へ移動を始める。

ユータの名を読んでも返事は聞こえない。

ちょうど港の中心まで移動してくると、遠くの方から聞き慣れた声が聞こえてくる。

その声は自分の名を読んでいた。


「シゲちゃ~~んっ!!」


「レ、レイラ姉さん!?」


ヨネシゲの前に現れたのは彼の実姉にしてクラフト三姉妹の次女であるレイラであった。

彼女の後方には十数名程のクラフト兵の姿もあった。

彼女たちは村の方角から走ってこちらにやって来た。


「シゲちゃん!!どこに行ってたの!?」


「あ、あの、その…」


レイラが物凄い気迫でヨネシゲに詰め寄る。

ヨネシゲは恐る恐る事情を説明しようとする。

間違ってもガソリンと共に秘密の空間を移動してたなど言えない。

それに…只今有事発生中だ。

肝心な時に領主である自分が突然姿を消したのだからきっと皆怒ってるに違いない。

レイラの気迫からそう言ったものが感じ取れる。

ヨネシゲがレイラの気迫に押されているとクラフト兵の一人がレイラに声をかける。


「レイラ様、海賊船が去っていきます!これはもしかして、ヨネシゲ様が追い払ったのでは!?」


それを聞いたレイラはそうなのかとヨネシゲに尋ねる。


「そうなの?シゲちゃん?」


「いや、俺は…ユータを探していただけでして…」


「流石シゲちゃんっ!!私の弟だわっ!」


「流石ヨネシゲ様!あれだけの海賊船を一人で追い払ったしまうとは!!」


何故かヨネシゲが海賊船を追い払ったことになってしまったぞ!?

海賊船が退散した本当の理由はレイラたちの攻撃を受けたためである。

そのレイラたちは襲撃した海賊たちを殲滅しながら港へ進軍していったが、そこで見たのは退散していく海賊船と港を悠々と歩くヨネシゲの姿であった。

これはどう見てもヨネシゲが海賊を追い払ったに違いない!

そう勘違いしてしまったレイラたちであった。


(ここは面倒だしそういうことにしておこう。)


「おうよ!奴ら俺の姿見たら早々に退散していきやがったぜ!」


ヨネシゲはいつもの調子でそう言うと彼女たちの手柄を我が物にしてしまったのだ。


これぞ、ヨネシゲである!

ヨネシゲはレイラやクラフト兵から称賛の言葉を浴び続ける。





しかし、そんな暇はない!

ヨネシゲはユータについてレイラに尋ねた。


「姉さん、ユータは見なかった?」


「それが…」


レイラの表情が曇る。

先ほど避難してきた漁師たちとすれ違った際に、ユータとクレア、ウオタミとはぐれてしまったとの報告を受ける。

港と大した距離のない一本道である、はぐれようのない道だ。

そうなるとユータたちは港に引き返したか、残ったかのどちらかになる。

しかし、今見る限りこの港にユータたちの姿はない。

倉庫や市場に身を潜めているのか、最悪連れ去られてしまった可能性もある。ひょっとしたら殺されて海に捨てられてるかもしれない…

レイラの脳裏には最悪のシナリオばかりが浮かんでくる。


「姉さん!とりあえず倉庫や市場を探してみよう!」


「そうね、ここで憶測しても意味がないわ!」


二人は港の倉庫内を探すため移動を始めようとしていた。

その時、クラフト兵が何かを見つける。


「ヨネシゲ様、レイラ様、あそこに人影らしきものが…」


ヨネシゲとレイラはクラフト兵にが指差す方向へ目を凝らす。

ヨネシゲたちの目に映ったの数人の人影らしきものが港の最西端付近で揺れている様子であった。


「ユータかもしれないっ!?」


「シゲちゃん、突撃よ!」


ユータたちの可能性もあるが、海賊の可能性も捨てきれない。

一同気を引き締めて港の西側を目指し走り出した。









ヨネシゲたちが見たのはやはり人で間違いはなかった。

そこに居たのは3人の若い男女だった。

3人は憔悴しきった様子で俯きながらその場に座り込んでいた。

その3人の男女とはヨネシゲたちの探していたユータとクレア、何故かゴリキッドの姿があった。

ゴリキッドに関しては、ヨネシゲはまだ彼の名前は知らない。

それに何故こんなところに彼が居るのか不思議で仕方なかった。

ヨネシゲはゆっくりとユータの元へ歩み寄ると声を掛ける。


「おい、ユータ、大丈夫か?何があった…?」


するとユータはゆっくりと顔を上げる。

ヨネシゲは驚く。

そのユータの顔は今まで彼に見せたことのない表情だったからだ。

子供のように涙を流し、悲痛な表情でヨネシゲの顔を見つめる。


「ヨネさん…」




ユータの心に負った深い傷…



つづく…

豊田楽太郎です。

相変わらず投稿遅くてすみません。

今週中に40話の投稿ができるよう努力します。

今後ともヨネシゲの記憶をよろしくお願いしますm(__)m


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ