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ヨネシゲの記憶  作者: 豊田楽太郎
3章 海からの悪夢
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第38話 ウオタミ ※挿絵あり

ヨネシゲが領主を務めるヨネフト地区ヨネフト村。

そのヨネフト村の海の玄関口になるのがヨネフト港だ。

船着き場には漁船や比較的小さめな貨物船などが停泊している。

主に漁港としての役割が強く、常に漁師や市場の人間がひっきりなしに出入りしている。

決して大きな港ではないが、時折来港する定期旅客船の観光客や行商人で賑わいを見せる。

その際にはヨネフトの村人が観光客たちの出迎えを行う。

普段であれば活気に満ちた光景を目にすることができるが、現在港はマロウータンの海賊船とその海賊の男たちで埋め尽くされていた。

海賊の男たちは港の倉庫に保管してある食料などを根こそぎ奪い、自分たちの船に積み込んでいた。

その他、見張り役と思われる海賊の男たちが周囲に目を光らせていた。

倉庫の中は既に空っぽ状態。

そうなると、海賊たちが次に目指すのは村の中心部にある店舗や住居だ。

そこで更に食料や金品を奪うつもりだ。

既に第一陣が村を制圧しに向かっている。

村の制圧が完了すれば狼煙をあげることになっている。

そろそろ見えてもいい頃ではあるが、まだ狼煙を確認することができない。

マロウータン海賊団の幹部と思われる男が第二陣として次なる軍勢を送り込む合図をする。

すると海賊の男たちは相当訓練されているのだろうか、一糸乱れぬ動きで隊列を組始める。

その人数は100を優に越えている。

隊列を組んだ海賊たちは次の指示を待っていた。

すると村の方から悲鳴が聞こえてくるではないか。

一同その方向に目を向けると第一陣として送り込まれた仲間の海賊たちが血相を変えて戻ってきた。

負傷している者も多く居る様子だ。

一体何事であろうか?

指揮をとっていた幹部と思われる男が退却してきた第一陣の海賊たちに何があったのか尋ねる。


「一体どうしたんだ!?」


「レイラです!冷酷レイラが現れました!」


「何だと!?」


レイラの名を聞いた幹部と思われる男の顔が強張る。

とはいえ、慌てるようなことはなかった。


「クラフトの女、やはり現れたか…。よし、引き上げの準備だ!」


どうやら、クラフト三姉妹が自分達を排除しようと攻めてくるのは想定の内のようだ。

幹部と思われる男は直ちに出港するよう指示を出すと、これまた海賊の男たちは一糸乱れぬ動きで出港の準備に取りかかる。







ヨネフト港に停泊しているマロウータン海賊団の船団には、この海賊の頭領である“マロウータン”が乗船する海賊船もあった。

その海賊船内にある牢屋には、ユータ、クレア、ウオタミ、ゴリキッドの4名が囚われていた。

そして、その牢屋の外ではマロウータンが仁王立ちし、ユータたちを見下していた。

マロウータンは不気味な笑みを浮かべながらユータたちに問いかける。


「先程、港で調子に乗って暴れていた奴は誰だ?若造と聞いているが?」


マロウータンの問いかけにユータの顔は更に強張った。

今マロウータンが探しているのは間違いなく自分の事だ。

自分が意識を失っている間どれ程の時が過ぎたかは不明だが、少なくとも現時点でマロウータン海賊団相手に抵抗を見せたのはこのヨネフトで自分くらいしか居ないだろう。

もし他に居れば自分と同じようにこの牢屋に囚われていることであろう。


マロウータンはユータたちの顔を一人ずつ見つめていく。

最初はゴリキッドの顔をしばらく無言で見つめる。

するとマロウータンは鼻で軽く笑ったあとクレアに視線を変える。

何故か笑われたゴリキッドはムッとした表情でマロウータンを睨み付けた。


クレアに視線を変えたマロウータンは再び無言で見つめ始める。

するとマロウータンは言葉を発する。

その発言はクレアを震え上がらせるものであった。


「可憐な女ほど、涙を流し命乞いする姿は美しい!決して叶うことのない願いを必死に懇願する姿と言ったら愉悦…最高だな!ウッホッハッハッハッ!」


マロウータンは不気味な笑い声を上げ、クレアに楽しみにしてるぞと言ったあと、ウオタミに視線を変えた。

自分はこの男に殺される。

今の発言でそう確信したクレアは、顔を真っ青にし身体を震わせ、ただただ怯えていた。


続いてマロウータンはウオタミの顔を見つめる。

マロウータンの視線が自分にロックオンされていることに、ウオタミは今にも失神しそうな表情で怯えていた。

するとマロウータンは軽く顔をしかめる。


「お前の顔、どこかで見たことあるような…」


マロウータンは自分の記憶を辿るが思い出せないようだ。

早々に思い出すのをやめたマロウータンはウオタミを更に怯えさせる発言をする。


「鮫の餌になるか、海鳥の餌になるか、どっちが良いかよく考えておけ!」


マロウータンの言葉にウオタミはフリーズ状態だ。


そんなウオタミの姿を見てマロウータンはにやけると、ユータに視線を変えた。

ユータとマロウータンの視線が合う。

お互い険しい表情で睨み合っていたが、突然マロウータンが行動に出る。

懐に隠し持っていたピストルを取り出すと、その銃口をユータに向ける。

そして、ピストルの引き金が引かれた。


船内にピストルの乾いたような音の銃声が響き渡る。

突然の出来事にクレア、ウオタミ、ゴリキッドの3人は目を点にさせていた。

マロウータンのピストルから放たれた銃弾はユータの左腕を撃ち抜いていた。

ユータは撃たれた左腕を右手で押さえると、マロウータンの顔を見上げるように睨み付ける。

マロウータンは不気味な笑顔を浮かべ銃口をユータに向けたまま話始める。


「港で暴れた奴はお前だな?目を見ればすぐわかる。俺たちに楯突くとは若造ながら中々度胸がある。」


マロウータンは港で海賊の戦闘員を蹴散らしたのはユータだと最初から気付いていたようだ。

その上でマロウータンはユータの度胸を褒める。

普通ならマロウータン海賊団と聞くだけで人々は恐怖して逃げ回り命乞いをする。

そんな人々の末路はマロウータンたちに殺害され、最終的に街に火を放たれ灰と化す。

ところが、ユータのように果敢に立ち向かってくる者も少なくはない。

例えば、名のある軍人や格闘家、その国や街で勇者や戦士などと呼ばれている実力者などだ。

彼らはマロウータンから国や街を死守するため捨て身の攻撃を行ってくる。

当然、マロウータン側にも甚大な被害が及ぶこともある。

しかし、最終的にはマロウータンが力でねじ伏せてきた。

そんな各国各街の猛者たちに一定の敬意を払っているとマロウータンは言う。

その一環として彼はあることを行っているらしいのだ。

そう言うとマロウータンは牢屋がある部屋の一角を指差した。

そこにあったのは、棚の上に綺麗に並べられられた人間の頭蓋骨。

マロウータンはその頭蓋骨について説明を始める。

頭蓋骨の正体は先程の話にもあった、マロウータンに挑んで敗北した猛者たちのものであった。

マロウータンは自分に挑んで散っていた者たちの頭蓋骨をこうしてコレクションしてるそうだ。

ただただ逃げ回る人間は街と共に灰となる運命だが、立派に立ち向かった猛者たちには敬意を払い彼のコレクションとなるそうだ。

マロウータンは力説しているが、正直悪趣味としか思えない。

そしてマロウータンは改めてユータの度胸を褒め称えると、何故かゴリキッドが食べ終えて捨てたバナナの皮を指差した。

するとユータへ言葉を放つ。


「若造喜べ。お前もそのバナナのように皮と肉を剥いで、そこのコレクションに加えてやるからな!ウッホッハッハッハッ!」


あまりに不気味な発言にユータの顔も青ざめる。

そんなユータの顔をマロウータンは楽しそうに見つめると引き金を引こうとする。

その銃口は明らかにユータの心臓へと向けられていた。

その様子を見たクレアはユータを庇うかのように覆い被さる。


「ク、クレアさんっ!?」


「止めて!撃たないで下さい!ユータさんが死んじゃう…」


クレアは涙ながらにユータを撃たないようマロウータンへ訴えかける。

そんなクレアにユータは自分から離れるよう説得する。


「クレアさん、俺から離れて!このままじゃ二人とも…!」


その二人のやり取りを見てマロウータンが笑い声をあげる。


「ウッホッハッハッハッ!そんなに死にたければ二人とも仲良く一緒に地獄に送ってやる。まあ、遅かれ早かれここに居る奴等は全員地獄行きだ!」


マロウータンはそう言うと再び引き金を引こうとする。

もはやこれまでか…

ユータとクレア覚悟を決めた。



その時、ある男が行動に出る。



「そいつをよこせっ!」


「お、おい!何するつもりだ!?」



その男とは、ウオタミであった。

ウオタミはゴリキッドが持っていたバナナの束を奪うと、それを持って銃口が向けられているユータとクレアの前に割って入った。


「お待ち下さい!どうかこれでご勘弁のほどを…!」


ウオタミの震える両手にはバナナの束が乗っていた。

マロウータンに差し出すかの様にウオタミはバナナが乗った両手を前へと突き出した。


「頭領殿はバナナが大好物と存じております。今はこればかししかございませんが、どうか、どうか、これで我らの命をお助け下さいませ!」


ウオタミの行動にユータたちは驚いた様子だ。

何故ならば、命乞いの交渉のアイテムとしてバナナを使用しているからだ。

普通なら理解できない状況だが、ウオタミは必死に交渉を続ける。


「それに海賊旗のデザインにバナナを使われているのは、ただ単にバナナが好物だからと言うわけではないはず…」


その言葉を聞いたマロウータンは向けていた銃口を下ろすと真剣な表情でウオタミに問いかける。。


「お主、知っているのか?」


「噂で聞いただけなのですが…」


ユータたちは二人の話の意味が理解できなかったが、マロウータンが語り始める。


マロウータンは国を追われて海へ出た直後、飢えには相当苦しんだ。

何日も食料にありつけず死を覚悟したそうだ。

そんな中、1隻の小船を発見してこれを襲撃。

だが、小船には誰も乗っておらず食料も見当たらなかった。

やっと食料にありつけると思ったのに!

マロウータンは脱力してその場に倒れ込んでしまう。

すると、どこからか甘い匂いがしてくるではないか。

腹を空かしたマロウータンは嗅覚が敏感になっており、匂いがする方向へと誘われるがままに移動した。

そこにあったのは黒く変色した一本の腐ったバナナであった。

普通に考えたら食べようとも思わないこのバナナを、マロウータンは躊躇いもなく食べ始める。


夢中になって食べた。


泣きながら食べた。


皮まで食べた。


国を追われるまでは貴族として生活していたマロウータンは、食事も豪華なものばかり食していた。

しかし、今食べている腐ったバナナは今まで食べてきたどんな料理よりも美味であった。

この一本の腐ったバナナで餓死寸前のマロウータンは生き延びることができた。

マロウータンにとって命の象徴とも言えるバナナを自らの海賊旗へ描いた。

自分をここまで追い込んだあの国に復讐の念を抱きながら。


「バナナは命に等しい…」


マロウータンはそう言って語り終えるとしばらく無言になる。

そんなマロウータンにウオタミは交渉を続けた。


「もし本当にバナナが命に等しいとおっしゃるのなら、このバナナで我らの命を…!」


「よかろう…」


「えっ!?」


一同予想外の答えに驚いた。

必死に命乞いをしてそんな事を思うのはおかしいかもしれないが、冷酷非道と呼ばれた海賊がまさかバナナで命を見逃してくれるとは信じられなかった。


そしてマロウータンはウオタミが持っているバナナの束へゆっくりと視線を落とすとニヤっと笑みを浮かべた。


「但し…バナナ一本につき一人までだ」


その言葉に一同息を止める。

バナナ一本につき一人まで命を助けるとマロウータンは条件を提示した。

この場に居るのはユータ、クレア、ゴリキッド、ウオタミの4名。

そうなると最低でも4本のバナナが必要となる。

一体今何本のバナナがウオタミの手に握られているのか?

ウオタミの巨体故にユータたちの位置からではバナナの本数は確認できない。

しばらく沈黙が続いたが、ゴリキッドが痺れを切らしてウオタミにバナナの本数を尋ねた。


「おい、オヤジ!バナナは残り何本だ!?」


ゴリキッドがそう尋ねるとウオタミはゆっくりと皆の方へ振り返る。

そして、ウオタミはニッコリと笑顔を見せた。


「大丈夫、ピッタリだよ…!」


ウオタミの言葉を聞いたユータたちは安心したの一気に脱力する。

ウオタミが見せている満面の笑みにつられて一同自然と笑みを浮かべた。


「バナナがここから出るための引換券だ!一人一本づつ持って出ろ!」


マロウータンはそう言うと部下に牢屋の鍵を開けるよう指示。

その間にウオタミは持っていたバナナをゴリキッド、クレア、ユータの順で配り始める。


「ユータ君、立てるかい?」


「なんとか大丈夫そうです…」


ユータはウオタミからバナナを受け取り一人で立ち上がったものの、港でのダメージが残っているのか、または先程マロウータンに腕を撃たれたためかユータの足元はふらついていた。


「ユータ君、俺に掴まって!」


「ウオタミさん、本当にすみません…」


消えるような声で謝るユータをウオタミは気遣う。


「君は何一つ悪くない。寧ろ、君には色々助けられた。感謝している。本当に、ありがとう…」


ユータはウオタミの肩を借りながら牢屋の出口へと歩いていく。

その間にゴリキッドとクレアは引換券であるバナナを海賊の男に手渡して牢屋の外へと出ていく。

その後をゆっくりとユータとウオタミが歩みを進める。

出口までやって来ると海賊の男からバナナを渡すよう催促される。

ユータは何の抵抗も見せずに持っていたバナナを海賊の男に手渡した。


「クレアちゃん、ちょっとユータ君を支えてくれないかな!?」


ウオタミはクレアを呼び寄せると足元がおぼつかないユータに肩を貸してあげるようお願いした。

ユータは牢屋から出るとクレアの肩を借りて歩みを進めた。

ユータたちは海賊の男に誘導されるがまま歩みを進めるが、ある異変にすぐ気付いた。


「ウ、ウオタミさん…?」


ユータたちの視線の先には牢屋の中に留まり続けるウオタミの姿があった。

ウオタミは優しい笑みを浮かべながらこちらに視線を向けた。


「ウオタミさん、何してるの?早く一緒に行きましょう…!」


クレアがウオタミに声をかけるも彼は動く様子はない。

そして、ウオタミが口を開く。


「残念だけど、君たちとはここでお別れだ…」


一体この人は何を言っているのだろうか?

ユータたちはウオタミの言っていることが理解できない。

いや、理解したくなかった。

そして、ゴリキッドが恐る恐るウオタミに尋ねる。


「おい、オヤジ!バナナの数はピッタリあったんだろ…!?」


するとウオタミは優しい笑みを浮かべたままゴリキッドの問に答えた。


「ああ、確かにあったよ。若い君達の分は、ピッタリと!」


その言葉を聞いた瞬間、ユータたちの顔はこれまでにないくらい青ざめる。

きっと悪い冗談だ、何かの間違いであっほしい。

ユータたちはそう思ったが、無情にも牢屋の扉は海賊の男によって閉められてしまった。

硬直しているユータたちにウオタミは語りかける。


「君たちはまだ若い。こんなところで死なす訳はいかないんだ…。」


ウオタミがそう言うとクレアが反論する。


「ウオタミさんだって十分若いでしょ!?それに奥さんや娘さんだって守っていかなきゃいけないのに…!」


クレアはそう言うとその場で泣き崩れてしまう。


ウオタミの見た目は貫禄はあるものの、まだ43歳。

ヨネシゲやマックスより年下なのだ。

そしてウオタミにはまだ守らなければいけない愛する妻子がいるのだ。

確かに妻と娘を守るのは自分の最大の役目。

そんな事は言われなくてもわかっている。

だけど…


「今、守らなければならないのは…目の前に居る君たちなんだ!」


ウオタミはそう言うと静かに瞳を閉じる。




(俺は腰抜けじゃない…!)



(俺だって…やる時はやるんだ!)



(俺だってヨネフト男児さあ!)



(兄貴たちみたいに…!)









「兄ちゃんたち!待ってよ~!」


そう言いながら息を切らして原っぱを走っているのは一人の小太りの少年。

少年の名は“ウオタミ・フィッシャマン”

少年ウオタミはある少年たちと鬼ごっこをしている最中だった。

そしてウオタミは鬼役であったが、誰一人捕まえることもできずに途方に暮れていた。


「もう疲れたよ~」


ウオタミがそう言ってその場に座り込むと一人の少年が彼に近寄ってきた。


「まったく、ウオタミはだらしねえな!それでもヨネフト男児か!?」


「あ、兄ちゃん!」


ウオタミの前に現れたのは彼とは双子である実兄であった。

そして今度は、その兄の後方から二人の少年が姿を現した。

その二人の少年の正体は、少年ヨネシゲと少年マックスであった。

この4人は仲が良く暇さえあればこうして遊んでいる。

しかし、ウオタミには一つ悩みがあった。

それは兄やヨネシゲ、マックスは自分とはかけ離れた存在であることだ。

兄たちの運動神経は抜群で喧嘩も強く度胸も据わっている。

そのため村の女の子たちからはモテモテであった。

一方のウオタミは運動が大の苦手で喧嘩も弱く、おまけに臆病者で有名。

当然、女の子たちからは笑い者にされている。

なんとかそんな状況を脱したい!

ウオタミはそんな事もあり、できるだけ兄たちと行動を共にして彼らに近付けるよう彼なりに努力していた。

ウオタミにとって兄やヨネシゲたちは憧れの存在であった。

だが、その背中はいくら追い続けても追い付くことできなかった。

ウオタミは年齢を重ねるにつれ、兄たちは決して追い付けない存在だと気付いた。

まあ、兄たちに関しては常人の域を超えているのだが。

それに兄たちに追い付くどころか未だに臆病者と呼ばれからかわれている。

せめて立派なヨネフト男児と呼ばれるくらいにはなりたい。

ウオタミはそう思っていた。


気付けばウオタミは16歳。

人生の岐路に立たされていた。

両親からは父親と同じ漁師の道を進むように言われていたが、ウオタミはグレート王国軍の入隊を希望していた。

双子である兄は既にグレート王国軍の入隊を決めていた。

ウオタミは憧れである兄と同じ道に進みたい。

そして何より軍に入隊すれば臆病者の汚名も払拭できて、皆からヨネフト男児と認めてもらえると考えていたのだ。


ある夜、ウオタミは兄と共にヨネフト港へと向かった。

そこでウオタミは兄に大人しく漁師の道へ進むよう言われる。

ウオタミは兄と共に軍へ入隊すると言い張る。

そんなウオタミに兄は問う。

軍に入隊すれば敵と対峙することがある。

そんな時、臆病者のお前が逃げ出さずに戦場で耐えられるのか?

お前に敵を倒すことができるのか?

そして、敵を殺すことができるのか?

兄の問いにウオタミは黙ってしまった。

するとそんなウオタミに兄は言葉をかける。


「お前は優しすぎる。だが、その優しさがお前の武器だ。」


その言葉にウオタミは兄の顔を見つめる。


「時にはその優しさと人を思いやる気持ちが、とんでもない力を発揮することがある。いつかその武器が役に立つときがある!」


その時のウオタミには理解はできなかった。

結局、いくら心優しくても臆病者では意味がない。

それに優しさだけでは兄たちみたいに悪者を倒したりすることもできない。

そう思っていた。



だけど今、兄の言葉を思い出す。





“お前は人を思いやれる心優しい立派なヨネフト男児だ!”






そう、俺はヨネフト男児!


「ヨネフト男児の名に懸けて君たちの命を守る!」


ウオタミは大声でそう叫んだ。

その表情は覚悟に満ちていた。

しかし、ウオタミの覚悟をそう簡単に受け入れることなどできない。


「お願い!ウオタミさんも助けて!」


クレアはマロウータンに懇願する。


「約束は約束だ。このオヤジは助からない。」


マロウータンはそう言った後に不適な笑みを浮かべる。


「それとも…誰かこのオヤジの身代わりになるか?」


ウオタミの身代わりが居れば彼を牢屋から出してよいとマロウータンは言う。

それでは結局、4人中3人しか助からないと言うことだ。

バナナが3本しかないのであれば、1人は犠牲にならないといけない。

その時、1人の男が名乗りを上げる。


「なら俺が身代わりになる!」


ユータであった。

自分が身代わりになるからウオタミを助けてくれとマロウータンに持ち掛ける。

しかし、そんなユータをウオタミは一喝する。


「馬鹿者!若い者が軽々しく自ら命を捨てる選択肢など選ぶな!30年早い!」


普段から優しいウオタミとは思えない程迫力のある説教であった。

そしてウオタミの言葉が自分の胸に突き刺さる。

一喝され固まっているユータにウオタミが優しく声をかける。


「怒鳴っちゃたりしてごめんね。だけど、他に方法がない、見つからなかった。どうしようもない時もある。そんな時は何が優先順位か考えないといけない。何が大切なのかと…」


涙を堪えているユータにウオタミは言葉を続ける。


「俺にとって大切なのは君たち命だ。君たちには石にしがみついてでも生き延びてほしい。君たちには希望がある、未来がある!明日を変える力がある!」


ウオタミは少し間を置いた後、ユータたちに望みを託す。


「誰かを守るために、俺の兄貴やヨネさんみたいに必ずしも強くなる必要はない。優しい心と人を思いやる気持ちがあれば十分なんだ。だから誰でも大切な人たちを守れるヒーローになれる。だから、約束してくれ。優しい心と思いやりは忘れないでほしい。もっと多くの人を守ってあげてくれ…!」








挿絵(By みてみん)



その言葉を言い終えるとウオタミはマロウータンに念を押す。


「彼らは絶対に殺めるなよ!」


「安心しろ、約束は守る。」


ウオタミの約束を守るかの様にマロウータンは部下にユータ達を速やかに下船させるよう指示を出した。

ユータたちは強制的に牢屋のある部屋から退出させられようとしていた。

その時、ウオタミがクレアに言葉を託す。


「クレアちゃん!妻と娘に伝えてくれ!」




“今までありがとう”



ウオタミのその言葉を聞いた直後、ユータたちは部屋から退出させられた。








「敵ながらあっぱれ!久しく見る強者だな。コレクションにふさわしい…」


マロウータンはそう言うとウオタミにピストルの銃口を向ける。


「最後に…名を聞かせろ」


マロウータンはウオタミに自分の名を名乗るように要求。

その言葉にウオタミはニヤっと笑みを浮かべた。


「俺の名は、ウオタミ・フィッシャマン!ヨネフト男児、海の男だ!」


ウオタミが名乗り終えるとマロウータンもニヤっと笑みを浮かべた。


「見事…」










1発の銃声が船内に響き渡る。

その銃声はユータたちの耳にも届いていた。





ウオタミ・フィッシャマン 43歳

ヨネフト村で生まれ、育ち、そして生涯を閉じた。

生涯腰抜けと呼ばれた臆病者であったが、その最期は誰よりも勇敢で人を思いやる、立派なヨネフト男児そのものであった。



つづく…

豊田楽太郎です。

ヨネシゲの記憶を楽しみにしてくれている皆様、本当にありがとうございます。

相変わらずですが、投稿が遅くてすみません。

スピードアップできるよう頑張りますので今後ともよろしくお願い致します。

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