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ヨネシゲの記憶  作者: 豊田楽太郎
3章 海からの悪夢
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第34話 流石ヨネさんの弟子!

ヨネフト港に迫り来る船団。

30~40隻はあるだろうか。

その船団が掲げている黒い旗には、烏帽子を被ったドクロの下にバナナが2本交差しているという独特のデザインが描かれたいる。

その旗を目にしたヨネフト港の人々は恐怖で震え上がっていた。

何故ならこの船団の正体は、世界の誰もが知る恐ろしい海賊であったからだ。


人々は皆こう呼ぶ…“海の悪魔、マロウータン海賊団”


しかし、その海賊について何も知らない青年が一人だけこの港に居たのだ。




「海の悪魔だ。俺達は殺されちまう…!」


「何故、マロウータンがこのヨネフトに…!?」


普段から海賊と戦う機会が多いヨネフト漁師たち。

海賊が現れただけで動揺することなどまずないが今回は違った。

先ほどまで好戦的な漁師たちであったが、今は顔を真っ青にして誰が見ても明らかにパニックしている様子であった。

漁師たちだけではない、ユータと一緒に弁当を届けに来たクレアも身体を震わせ物凄い怯えようだ。

目には涙も浮かべている。

この漁師たちの長であるウオタミは腰抜けと呼ばれるほどの臆病者。

文字通り今は腰を抜かして尻餅をついてる状態だ。

ここに居る皆がパニックしている。

しかし、一人だけやけに冷静な男がいた。

その男とはユータである。

ユータは一人考え込んでいた。

何故皆ここまで怯えているのか?

そもそもマロウータンとは何なんだ?

だが考えたところで答えなど出てくるはずなどない。

ここは誰かに聞くしかない…!

ユータは目の前で腰を抜かしているウオタミにマロウータンついて質問してみることにした。


「ウオタミさん、マロウータンって何者ですか?」


ユータの質問にこの場に居た全員が静まり返る。

少し間を置いたあとウオタミが静かに口を開く。


「ユータくん、君…マロウータンの事しらないのかい?」


ウオタミは別の意味で驚いた様子でユータにそう尋ねた。

ウオタミの他、クレアや漁師たちもユータがマロウータンについて何も知らないことに驚いた様子だ。

皆が、信じられない!と言った感じの視線を向けてくるのでユータは気まずくなり体を小さくする。


「知らないなら、今知っておいたほうがいい…」


ウオタミはそう言うとマロウータン海賊団について語り始めた。


マロウータン海賊団は世界各地の海や街を荒らす凶悪な海賊だ。

この海賊の頭領はマロウータンと言う名の男。

マロウータンはとある島国の元貴族。

民に対してあまりに残虐で暴力的な行為を繰り返していたため国を追放されてしまったのだ。

島国であったため行き場がないマロウータンは海へ出る他なかった。

初めのうちは小さな民間船や漁船を襲っていたが、次第に襲う標的も規模が大きくなっていく。

元々基礎能力が高い上に持ち前の残虐性が功を奏したのか、海賊として急成長を遂げたのだ。

このマロウータン海賊団の手口としては、襲う対象の船舶や街、はたまた国に対して金品や食品などを要求する。

提示した分の金品や食品を抵抗せず差し出せば彼らは大人しく去っていく。

しかし、提示した分の金品や食品を用意できなかったり、彼らに歯向かう真似をすれば明日はない。

一国の軍隊を遥かに凌ぐと言われる圧倒的な武力を持って略奪の限りを尽くすのだ。

そして最後は船舶や街に火を放ち人々は彼らに皆殺しにされてしまうのだ。

相手が女性であろうと子供であろうと容赦はしない。

仮に命を奪われないことがあったとしても、奴隷として見知らぬ地に連れてかれ高い値で売り飛ばされる。

そんなマロウータンが滅ぼした国は数知れず。

大半の国はこの海賊に太刀打ちすらできないと言われている。

それ故に世界各国はこの海賊を非常に恐れている。

そんな恐ろしい悪魔のような海賊団が今ヨネフト港に迫っているのだ。

だが、ウオタミには一つ疑問があった。

何故、わざわざグレート王国を標的にして上陸しようとしているのか?

というのも、このグレート王国の軍事力は他国と比べたら桁違いに高い。

グレート王国とマロウータン海賊団が対戦したら間違いなくグレート王国に軍配が上がる。

マロウータンもグレート王国の強さは理解しているはず。

ましてや、このヨネフトには王国内外に名を轟かすヨネシゲやマックス、クラフト三姉妹などが居る。

何故リスクを負ってまでこのグレート王国のヨネフトに上陸しようとしているのか?

ウオタミは不思議でならなかった。

マロウータンに怯えながらもウオタミは詮索していた。

そんな彼に周りの漁師たちが騒ぎ立てる。


「ウオタミさん!早くここから逃げないとまずいぞ!」


「ああ、わかってる。しかし、どこに逃げれば良いのか…」


ウオタミは頭を抱える。

漁師の言う通り一刻も早くこの港から避難する必要がある。

しかし、ヨネフト村まで逃げたとしても上陸した海賊は当然そこまでやって来る。

そうなるともっと遠くへ逃げなくてはならない。

海岸続きにある西ヨネフトは今回の避難場所に適さない。

海賊は海からやって来るのだから。

そうなると次の候補地はアライバ山脈の麓にあるアライバ村。

だがそこも避難するにしては海から距離が近すぎる。

この海賊は逃げ惑う人々を殺すためなら、内陸部まで追いかけてくるらしい。

恐ろしい話だ。

そうなるとアライバ山脈を越える必要がある。

山脈の先にあるのは北アライバと言う大臣が管理している比較的大きな街だ。

ヨネフト地区最寄りの街となる。

ウオタミはひらめく。


「北アライバまで逃げよう!あの街は大臣が管理している。流石のマロウータンもこの国の大臣には喧嘩は売らんだろう…」


この国の大臣は恐ろしく強い。

そんな大臣が管理する街なら流石のマロウータンも近付けない。

ウオタミは北アライバが安全圏内と判断した。

それについて漁師たちも納得した様子だ。

そうと決まったらすぐさま逃げるべし!

ウオタミが避難のため外に出ようとしたその時、待ったがかかる。


「ちょっと待ってください!勝手に決めちゃダメよ!先ずはヨネシゲ様たちにこの事を知らせないと!」


クレアであった。

ウオタミ同様かなり怯えた様子の彼女であったが、今はここに居る男たちより冷静な判断をしている。

確かにこの港から一刻も早く避難するのも重要だが、それと同時にこの村の領主であるヨネシゲに今回の事を報告する必要がある。

領主には民を守る義務がある。

しかし、情報なしでは守れるものも守れなくなってしまう。

そのためには第一報は重要だと思う。

そしてこの場に居る者で一番冷静さを保っているのはユータであった。

ユータはクレアの後に言葉を続ける。


「クレアさんの言う通りヨネさんやマックスさんにこの事を伝えないと!」


そう言うとユータは魚市場の男、そして漁師の男、計2名を指名してヨネシゲとマックス各々に海賊襲来を伝えに言ってもらうようお願いした。

次は漁師たち全員に港の人々を避難誘導してもらうよう要請した。

一先ず港の人々をヨネフト村まで避難させる必要がある。

これほど多くの人々が村に避難してくれば巡回中のクラフト三姉妹や兵士が異変に気付きその後の対応をしてくれるだろう。

だがヨネフト村まで避難させるにしても、今日に限ってはこの地に不慣れな観光客が大勢居る。

ただでさえ混乱している人々を冷静に誘導させるのは一筋縄ではいかない。

そこで、この村を知りつくしたヨネフト男児である漁師たちの力が必要なのである!

ユータが漁師たちにそう訴えかけると、先ほどまで怯えていたウオタミや漁師たちが力強い雄叫びを上げ始める。


「やってやるぞ!俺たちゃヨネフト男児だ!」


漁師たちの目は鮮魚の如くキラキラと輝いていた。


(それにしても、こんな時でも冷静な判断と指示が出せるとは…。流石ヨネさんの弟子だ!)


皆が取り乱す中、冷静沈着に指示を出すユータを見てウオタミは心の中で彼を称えた。


漁師たちが慌ただしく準備する中、クレアも避難誘導の協力がしたいと申し出てきた。

ユータ的にはクレアには一刻も早く安全な場所に避難してもらいたいところ。

しかし今は緊急事態。

一人でも多くの人手が欲しいところだ。

それに彼女は自分なんかよりこの村を知り尽くしている。

避難誘導をしてもらうには適任の人材だ。


「わかりました。でも無理だけはしないでくださいよ!自分の身を最優先で!」


「わかってるわ!ユータさんも気を付けて!」


こうして一同一斉に詰所を飛び出し避難誘導を開始するのであった。








その頃、ヨネシゲは自称妖精で空想の番人であるガソリンと秘密の空間を移動中であった。


「うわぁ~!何なんだここは!目が回る!」


ヨネシゲの体は宙を浮いていた。

そして、色彩豊かな光が回りながらヨネシゲの視界を流れていく。

まるで万華鏡を見ているようだ。

代わる代わる視界にヨネシゲの目は対応できず目を回し気分を悪くしていた。


「大丈夫よ、あと数分もすれば慣れるわ!」


ガソリンは慣れた様子でヨネシゲを先導していた。

今この二人は身の危険が迫っているユータの元へ急行している。

瞬間移動とまではいかないが、徒歩で行くより秘密の空間を使った方が圧倒的に早いとガソリンは言う。


「おかしいわね。そろそろ着く筈なんだけど…」


秘密の空間を移動して約5分。

ガソリンが言うにはそろそろヨネフト港に降り立つための出口が見えてくる頃らしい。

屋敷から徒歩で港に向かうと30分はかかる。

そう考えると秘密の空間を移動した方が断然早い。

するとガソリンは突然進むのを止める。


「まさか…!?」


ガソリンは険しい表情で辺りを見回す。


「おい?どうしたんだ!?」


ただでさえ意味不明な空間に連れて来られたうえ、突然険しい顔付きを見せるガソリンにヨネシゲは不安を覚える。

そんなヨネシゲを気にも留めず辺りを見渡すガソリン。


「居るなら正々堂々と出てきなさい!」


ガソリンは何かに向かって叫び始める。

すると薄気味悪い男の笑い声がどこからともなく聞こえてきた。


「そこねっ!」


ガソリンはヨネシゲの後方を鋭く睨み付ける。

それと同時に持っていた水筒の蓋を開けると、中に入っている液体を口に含み始めた。

更に右手の人差し指を口元まで持ってくる。

ヨネシゲは彼女の不思議な行動を見守っていた。

ガソリンはその人差し指をゆっくりとヨネシゲの後方へ向けて突き出す。

すると人差し指の先端に赤い火が灯される。

まるで蝋燭が灯されているような光景だ。


「特殊能力か…?」


ヨネシゲがそう思った次の瞬間、ガソリンは予想外の行動をとる。

口に含んだ謎の液体を火が灯されている人差し指目掛けて吹き出したのだ。


「ガソリンファイアー!」


ガソリンの吹き出した謎の液体は人差し指の火に激しく燃え移る。

そのままの勢いで凄まじい火力の炎がヨネシゲに向かって迫ってくる。


「うわぁぁぁっ!」


ヨネシゲはギリギリの所で回避することができた。


「いきなり何をするんだ!」


ヨネシゲはガソリンを怒鳴った。

あと少し回避するのが遅れていたら大火傷を負っていたところだった。


「ドンマイね!」


ガソリンはそう言うと先程までヨネシゲが居た後方を指差した。

ヨネシゲはガソリンの指差す方向を見ると不思議な光景が目に飛び込んできた。

その不思議な光景とは、そこに何も無いはずなのに何かが燃えている…いや、炎に包まれていると言った方がいいのか?


「熱いでしょ?我慢してないで早く出てきなさい!」


ガソリンがそう言うと再び薄気味悪い男の笑い声が聞こえてきた。

そしてその笑い声の発生源は今炎に包まれている目に見えない何かからだ。

だが、その見えない何かも次第に姿を現していく。


「な、何だあれは…!?」


ヨネシゲは炎の中から姿を現した不気味な男に思わず後退りしてしまう。

顔以外を全身を黒い布で覆っている謎の男。

顔は異常なほど白く、血走った鋭い目をこちらに向けている。

狂気じみた笑顔を見せながらあの薄気味悪い笑い声で笑い続けていた。

その姿はまるで死神のようだ。


「ヒッヒッヒッ…お前たちにはここで死んでもらう!」


男はそう言うと全身を覆っている黒い布の中から巨大な鎌を取り出した。


「お前たちの首をこれで刈ってやる…!」


ヨネシゲの顔は強張る。

いくらマックスの鬼特訓を受けているからとはいえ、あんな巨大な鎌で首を攻撃されたら命はない。


「おい、ガソリン!一体あいつは何者なんだ!?」


ヨネシゲの問にガソリンはゆっくりと口を開く。


「あの男は元空想の番人…妖精よ!」


「あれが妖精だって!?」


ガソリンの言葉を聞いた男はそれを否定する。


「違うぞ…俺は、死神だ!」


正体不明の謎の男は巨大な鎌でヨネシゲたちに襲いかかってきた。



危うし!ヨネシゲ!



つづく…

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