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ヨネシゲの記憶  作者: 豊田楽太郎
3章 海からの悪夢
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第33話 悪魔の海賊旗

ヨネシゲの前に突如姿を現した、自称空想の番人で妖精のガソリン。

彼女はユータ以外でヨネシゲの作り出した空想世界を知る人物?の一人であった。

そんな彼女から思いもよらぬ事を知らされる。

それはヨネシゲの作り出した空想を何者かが改竄しているという事実であった。

自身の作り出した空想で思い通りに事が進まなかったり異なる点が多々あるのはこれが原因だ。

空想を改竄されたことによって新たな脅威がヨネフト村に迫っているのだと言う。

そして今一番その脅威に晒されているのがユータなのだ。


「ユータが危険なのか!?」


ヨネシゲは焦った様子でガソリンに尋ねる。

するとガソリンは険しい表情でヨネシゲの問に答える。


「そうよ!今あの子はヨネフト港に向かっている。そしてその脅威は海からやって来る…」


「一体、何がやって来るんだ!?」


「悪魔がやって来るのよ…」


「あ、悪魔だと…?」


悪魔とは一体何の事を言っているのか?

ヨネシゲ理解できなかった。

するとガソリンは突然のことで困惑しているヨネシゲに両手をかざし始める。


「な、なんだ?」


「とりあえずあの子の所へワープするわよ!」


「ワープだと!?」


ガソリンは謎の呪文を唱え始める。


「ガソガソリンリン、ガソリンリン!移動の魔法よ、それ!」


ガソリンが呪文を唱え終えるとガソリンとヨネシゲの全身が白く光始める。

それを見たヨネシゲは動揺する。


「こ、これは!?どうなってるのだ!?」


「私といっしょに秘密の空間を移動してもらうわよ!」


「秘密の空間だと!?」


白く光っていた二人の体は更に強烈な光で発光すると突然部屋から姿を消したのであった。







その頃、ユータとクレアは漁師たちの弁当を届けるためヨネフト港に到着していた。

ユータがヨネシゲの空想世界に迷い込んでから1ヶ月以上が過ぎるが、このヨネフト港を訪れたのは初めてである。

港には大きな倉庫や魚市場、水揚げ場などが建ち並んでいる。

船着き場にずらりと並んだ漁船の側には、多くの漁師たちが出港の準備、あるいは漁から帰ってきて新鮮な海産物を下ろすため作業している。

他にも漁師以外の人々の姿も見える。

ちょうどこの日は定期旅客船の来港日。

観光客や行商人、それを出迎えるヨネフトの村人たちで賑わっていた。


「今日はより一段と賑わってるわね」


毎日のように港に訪れているクレアであったが、いつも以上の活気を見せる光景に驚いていた。

そんな賑わう人々をかき分け到着したのは魚市場の隣にある木造の平屋であった。

この平屋は漁師たちの詰所となっているそうだ。

アサガオ亭の弁当は毎日ここに届けられることになっている。

クレアは慣れた様子で扉をノックすると中へ入っていく。

ユータも後に続いて平屋の中へと入っていった。


玄関に入りその先の襖を開くと、部屋一面に畳が敷かれていた。

ちゃぶ台がいくつも置かれており、それを囲むように漁師たちが座布団の上に座っていた。

部屋の片隅には布団も敷かれていた。

ちょうど休憩の時間帯なのか、仲間同士で雑談や将棋を打ったり、新聞を読んでいたり、仮眠をとっといたりと漁師たちは思い思いの時間を過ごしているようだ。


「お待たせしました!ご注文のお弁当ですよ!」


クレアがそう言うと漁師たちは一斉にクレア前に群がり始めた。

クレアの指示でユータが弁当を漁師に配り始める。

ここに居る漁師たちもユータの顔馴染みとなりつつある。

ユータがアサガオ亭に来店すると彼らとはしょっちゅう顔を合わす。

ヨネシゲの弟子と言う設定だけあってか、彼らはよくユータにも話かけてきてくれた。

ユータが漁師たちに弁当を配り始めると案の定声をかけてくる。

最近の特訓の進み具合や、クレアと二人で弁当を届けている理由、またクレアと一緒に行動できるのはの羨ましい等々、他愛もない会話内容である。


ユータが配っていた弁当は残り一つ。

その最後の弁当を受け取りに来たのは、ヨネフト村漁師の長を務めるウオタミ・フィッシャマンだ。

クラフト三姉妹より一回り大きいであろう2メートルを超える巨漢の男。

そんな大きな体とは裏腹にヨネフト村では臆病者として有名らしい。

小さな虫が自分の方に飛んできただけで悲鳴を上げて逃げ回ったり、雷が鳴ると怯えながら物陰に隠れてしまったりなど。

そのため漁師仲間からは腰抜けウオタミと呼ばれからかわれている。

普通そんな呼ばれ方をされれば不快に思うはずだ。

だがウオタミは自分が腰抜けだど自覚しており、からかわれても笑顔で受け流している。

では何故、腰抜けと呼ばれる人物が血の気の多い漁師たちを束ねているのか?

その理由とは意外であったが、この血の気の多い漁師たちからの推薦であった。

ウオタミの漁の腕は確かで、彼が居ると居ないでは水揚げ量が大きく左右されるのだとか。

ウオタミの事を腰抜けと言ってからかっている漁師たちであるが、心の奥底では彼に敬意を払っているそうだ。

臆病者ではあるが優しくおおらかな性格で面倒見も良く、また漁師たちの相談事にも親身に耳を傾ける、人として素晴らしい人物なのだ。

あとこれはウオタミ本人から聞いた話であるが、隣村の西ヨネフトには双子である彼の兄が住んでいるそうだ。

西ヨネフトにも漁港があり、兄もウオタミ同様にその村で漁師の長を務めているそうだ。

兄の漁の腕はウオタミ以上であり、度胸も据わっておりとても頼りになる人物らしい。

何しろあのクラフト三姉妹と肩を並べていたグレート王国軍の元将校と言うのだから。

そんな兄の弟というだけで漁師たちから過大評価され漁師の長に選ばれてしまったのが理由の一つらしい。


ウオタミはユータから弁当を受け取ると優しい笑みを浮かべユータに話しかける。


「あれ、ユータくん?今日は特訓をサボってクレアちゃんとデートかな?」


突然のデートと言う言葉にユータが反応する。

決してデートをしてるわけではなく、クレアの弁当配達を手伝っただけなのである。

冗談だとわかっているのだが、急に恥ずかしくなりユータはウオタミの言葉を必死で否定する。


「ち、違いますよ!今日は急遽特訓が休みになって、それでアサガオ亭に行ったらクレアさんが弁当を届けると聞いて…」


「はははっ!ごめんよ、ちょっとからかってみようと思ってね。あまりにもお似合いだったものだからさ」


「え…?」


お似合いだなんて…

ウオタミの言葉にユータは更に恥ずかしくなり顔を真っ赤にして何も言えなくなってしまった。

普段あまり冗談を言わない人から冗談を言われるとキツく感じるものだ。


「若いっていいね!」


ウオタミはそう言いながらユータの肩を軽く叩くと近くのちゃぶ台まで移動して弁当を食べ始めた。

ユータがそのまま立ち尽くしていると、不意に後ろからクレアに声を掛けられる。


「どうしたんですか?ユータさん?」


「あ、いや!何でもないです!」


慌てて返答するユータをクレアは不思議そうな目で見ている。

変にクレアを意識してしまって、ユータの額からは変な汗が流れていた。

とりあえずクレアが自分の側まで来て話し掛けてきたのは何か用があるからだ。

ユータは自分に何か用があるのかクレアに尋ねる。

クレアは弁当を届け終わったので店に戻るとユータに伝えに来たみたいだ。


「ユータさんには手伝ってもらっちゃったから、お昼ご飯をご馳走しないとね」


「いや、そんなつもりじゃ!」


クレアは弁当配達を手伝ってもらったお礼に昼食をご馳走すると言っている。

そんなつもりではなかったが内心ラッキーと思うユータであった。


「じゃあ、お言葉に甘えてご馳走になります!」


「私もお昼ご飯まだだったから一緒に食べましょう!マスターが賄いを用意してくれてますよ」


ユータは胸を踊らす。

クレアと二人で昼食をとれるとは、なんてラッキーな日なんだ!

ユータはそう思った。


この時だけは…




賑やかに雑談を交わしながらアサガオ亭の弁当を頬張る漁師たちであったが、その内の一人がある異変に気付く。


「おい、何か外が騒がしくないか?」


その言葉にユータとクレア、漁師たちは耳を凝らす。

先ほどは漁師たちの賑やかな声で外の音などかき消されていたが、こうして静まり返ると外の音がよく聞こえる。

その外から聞こえてくる音にユータと漁師たちの顔が強張る。

クレアとウオタミに関しては顔が青ざめていた。

その外から聞こえてくる音とは人の悲鳴や叫び声、恐らく逃げ回っているのであろうその足音である。

外ではただならぬ異変が起きている。

一体何が…?

ユータと漁師たちが外に出て状況を確かめようとしたその時、一人の男が詰所の中に飛び込んできた。


「た、大変だ!ウオタミさん!」


詰所に入ってきたのは魚市場で働くユータと同年齢くらいの男であった。

男は詰所に入るなり脱力したのかその場に座り込んでしまった。

その顔は顔面蒼白、怯えた表情で額から汗を流し肩を小刻みに揺らしていた。

ウオタミは男の元に駆け寄ると一体何があったのか恐る恐る尋ねる。

その様子をユータたちは見守っている。


「い、一体どうしたんだい…?」


「か、海賊です…海賊の船団がこっちに向かってきてます!」


「な、何だって!」


海賊と言う言葉を聞いてウオタミは派手に腰を抜かす。

これが腰抜けウオタミの由来か?

でも今はそんな事を考えている場合ではない。

ユータも海賊と言う予想外の言葉に驚いた。

アライバ峠には山賊や暴走族、ましてやこのヨネフト村にはマッチャン一家という盗賊まで姿を現していた。

今更海賊が現れても不思議ではないのだが、市場の男やクレアの表情を見るとただ事ではないと感じた。

まあ、ウオタミは関しては普段からこんな感じらしいが…

しかし、それとは反対に他の漁師たちは何故か余裕の笑みを浮かべていた。

そして漁師たちは各々に言葉を述べる。


「ウオタミさん、海賊ごときでビビってんなよ!」


「そうだぜ!海賊なんか今まで何度も海に沈めてきただろう!」


「おうよ!俺ら海の男の恐ろしさ教えてやるまでだ!」


やたら好戦的な漁師たち。

海賊と戦う気らしい。

ユータは漁師に大丈夫なのかと問うと、俺たちに任せとけの一言。

彼らは漁に出ると海賊に出会すことも珍しくはない。

そうなると自分達の身は自分達で守るしかないのだ。

そのため漁師たちはヨネシゲやマックス、クラフト三姉妹から定期的に海賊撃退のための訓練を受けているらしい。

それにとどまらず強さを追い求めるのがヨネフト男児。

自主練習で特殊能力まで身に付けた漁師も居るくらいだ。

その結果、兵士顔負けの強さを手に入れた。

ヨネフト地区の漁師は海賊も恐れる存在としてグレート王国内で有名となった。

そんな彼らなら多少規模の大きい海賊相手でも簡単に打ち負かすことができるのだ。


「だいたいお前も海賊ごときで大騒ぎするな!」


漁師の一人が市場の男にそう言った。

しかし、市場の男も漁師たちの強さを知らないわけではない。

知っていれば海賊が現れただけでこんなに取り乱すことはないであろう。

だが今回は訳が違った。


「それが…旗が…」


「旗がなんなんだ!?はっきり言え!」


市場の男はボソッとした声で何かを伝えようとしている。

聞き取れないため漁師が再度はっきり言うよう求める。

すると市場の男は先ほどのボソッとした声とは反対に叫ぶような声で再度伝えようとしていたことを言い放つ。


「マロウータンの旗なんだ!」


それはハッキリと誰もが聞き取れる音量と滑舌であった。

聞き間違えるはずなどない。

しかし、漁師たちは市場の男に再度聞き直す。


「今、なんて言った…?」


ユータはすぐ異変に気付く。

先ほどまで好戦的な漁師たちから戦意が薄れていくのがわかる。

それどころか余裕の表情を浮かべていたはずなのに、ウオタミや市場の男同様に顔が青ざめ怯えた表情に変わっていた。


「何かの間違えじゃないのか!?」


ウオタミが裏返った声で市場の男に問うが答えは同じであった。


「間違いないです。あの…バナナ印のドクロは…!」


市場の男が見た海賊旗とは烏帽子を被ったドクロの下に二本のバナナを交差させた独特のデザイン。

海賊旗にバナナがデザインされてるという時点で、今皆が恐怖してるこの海賊の他ないのだ。


「う、嘘でしょ…」


クレアは今起きている状況を信じられないでいた。

恐怖で身体を震わせ目には涙を浮かべていた。

そして漁師の一人が言葉を漏らす。


「海の悪魔…マロウータン海賊団…!」


「マロ…ウータン?」


ユータはまだこの海賊団を知らない。

マロウータンの恐ろしさを…!



悪魔の海賊旗がゆっくりとヨネフト港に近付いてくる。

不気味な笑い声と共に…!



「ウホッハッハッハッ!最高だなっ!」



マロウータン来港。



つづく…


豊田楽太郎です。

ヨネシゲの記憶を楽しみにしてくださっている皆様、本当にありがとうございます。

次回34話の投稿は3月上旬を予定しております。

今後ともよろしくお願い致します。

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